富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-09-09

九月九日(日)早朝に目覚め昨晩のサイトウキネンの演奏を思い出す。小澤征爾という指揮者、スコアの読み込みでは右に出るものない指揮者、オケを操り、そ れぞれの楽器をあそこまで持ち上げてくれれば、そりゃオケの成員の各々とてそれに応じ、それがサイトウキネンほどの一流の奏者なら、あヽなるだろう。がフ ルトベングラーがLP時代の代表とするなら、CDで完璧を追求したカラヤン、そして小澤征爾という指揮者はその振る舞いのビジュアル性まで含めDVD向 き。これを、数日前に「スペードの女王」でサイトウキネンの演奏聴いた久が原のT君は「絃の響きの厚さに感心」したし「小澤らしく、手の届かぬところのな い演奏」だったが「丁寧なのだけれど、CGやデジカメの鮮明さ似通うように思える」ところあり、と。さすが劇評をするT君らしい指摘。で本日、宿にて朝食 済ませ信濃毎日新聞読む。いいねぇ一本筋が通ってて。信濃の風土。記事で知ったはサイードと意気投合しバレンボイムが始めたワークショップがきっかけと なったパレスチナユダヤの青年たちによるオケがザルツブルグでの演奏。音楽の演奏は時代と共鳴し政治性ももつ、とバレンボイム。源智の井優から湧水の源 地へ。市街地の路地にこんな上質の水が涌き流れるなんて。飲んで良し、顔を洗えば汗もひく冷たさ。松本市 美術館。「常 設展が」草間彌生なり。草間彌生にとっ て松本は故郷であり精神的には最も遠い地でした、と「前書」は語り始める。松本が草間彌生に偏見をもち誤解続けた、と。こう書けるだけさすが、この地の風 土。草間彌生というと「例の丸い点々」の印象強いが草間自身が所有する二十歳の頃からの油絵など少なからず。アタシにとっては、小学校から高校までの幼な じみのT君がこの芸術家のスタジオで美大生の頃から今も中心となって活躍しており余計に興味深し。京都が前衛であるように、この信州の静かな古風な街にな ぜか草間彌生の「幻の華」が似合うから。美術館のコカコーラの自動販売機とベンチが草間っぽいデザインなのも笑えた。民芸品など見るという母とZ嬢と別れ 独り「あがなの森」へ。舊 松本高校の建物参観。この建物大胆に使い松 本市内の各公民館、地域活動の集会あり。ふつうの地方「自治体」なら市役所のお仕着せの官製イヴェントか或いは市民参加というとすぐ生協だの左傾「過激 派」市民だけと色眼鏡で見られるが、松本は通りかかったアタシが見てもほんとうに各地区の住民が積極的に参加し展示会やシンポジウム等々を開催中。私のま ち「地域と開発」市民会議、はお仕着せの会議にあらず、各地区の代表が面白可笑しく「わが街の自慢」大会。いかに何がどう素晴らしいか、それをどう維持す るか、と紹介。お宝自慢。それで自分たちで松本というわが都市がいかに素晴らしいか、を納得する。いい意味で自画自賛の活性。民度の高さ。明治の民権運 動、旧制高校の中でもリベラルさでは傑出した松本高校、古き良き市街の風情の維持……ただただ脱帽。ただ、あれだけ路地があるのにネコがいないのがちょっ と気になるのだが。この旧制松本高校、戦後は建物を信州大の文理学部人文学部が用いたが昭和48年に新キャンパスに移り、この建物の保存運動が起きて 「松本市が国から7億円で買い取り」文化財としての保存と活用決め現在に至る。今年六月に国の重要文化財指定の由。国立大学の敷地建物とはいえ地方自治体 が国から買い取らねば文化財として保存もできるとは。しかもそれを国が文化財に指定されるとは噴飯もの。母とZ嬢を迎えにいき、また源泉のあたりの路地を 抜け「そば処浅田」。午前十一時半の開店で満席、すぐ待ち客 あり。蕎麦はほんとキリッとした歯ごたえ。薄くちの蕎麦汁。アタシは蕎麦汁は濃いくち、辛いよ うなのに蕎麦の末をちょっとつけて頬張るのが好き。蕎麦屋で酒を供すのはいいが、こんな待ち客が溢れる蕎麦屋でまさかゆっくり飲めぬし大吟醸吟醸酒しか ないので安い純米酒好きのアタシは酒抜きでさっと蕎麦頬張り店を出る。それはそれでこの店の蕎麦は格別。市街散策していて通りがかりの「アガタ」なる古書 店。もう書籍は買うまい、と思ったが東洋文庫郭沫若の自傳『私の幼年時代 他』と吉田健一英國について』購う。母が開運堂で菓子を土産に購うというので、その間、Z嬢とこの店のロボットが作るソフトクリーム頬張る。宿に戻り荷 物受け取り自動車で松本駅。四半世紀ぶりに松本電鉄に揺られ新島々。バスに乗り換え梓川の渓谷を縫って一時間で白骨温泉。湯元齋藤旅館に投宿。大 正時代のこの旅館の客間の柱木材をそのまま 用いた内装の大正 館。八畳の角部屋に四畳半の次の間つき。お三時に、と松本の翁堂で買ってきたきんつばいただく。美味。扇堂の菓子 の紙袋は釈迢空による 「扇」の字。硫黄の温泉に浴す。この旅館、ラウンジの書棚を眺めれば、河出書房と新潮社の日本文学全集が数冊ずつ、中央公論社の世界の歴史も数冊、それに 加え圧巻は筑摩書房の日本思想体験全冊がずらり、と並ぶ。今まで旅館でこれは見たこともない。さすが中山介山がうんぬんというだけの白骨温泉の湯元。こん な山深い温泉だが投宿の際に「本格的な懐石料理を」と言われ期待したが結果を言えばちょっと失望。中居さんは三つの座敷かけもちで忙しすぎ。先付が出たと ころで、頼んだ熱燗(真澄)も出ぬうちに三つあとの軍鶏の水炊きの鍋に火がつけられようとし(旅館のあの鍋ものの固形燃料こそどうにかならぬか)、水炊き で七味を頼むと「あいにく一味しかありません」と出されたのがSBのテーブル七味(土産物売り場には善光寺の七味あり)。天ぷらはアタシはサラダ油の天ぷ らはダメ、しかもすっかり冷えている。「鰻の信州蒸し」は鰻が入手できなかったのは全く問題ないがサーモン、焼き雲丹と山芋の信州蒸しは単に美味しくな い。ご飯も「松茸ご飯」がシメジなのは全く問題ないが、これもたんに冷たくて美味しくない。これが出来合いの旅館の、最初からお膳に全て並んだ料理なら文 句は言わぬ……が「本格的な懐石料理を」なんて自慢した上で、だから残念。夜半に雨。再び風呂につかり早寝。
▼晩の会食の際に母に聞いた話。アタシの祖父という人は毎日のように夕方になると風呂に入りに近所の待合に行っていたそうな。銭湯かわりに待合の風呂をも らうとは……。で湯上がりにビールを飲んでふらり、と帰ってくる。その待合に育った息子氏がアタシの母に語った話では、風呂代のかわりに、とときどきこの 息子氏にアタシの祖父は小遣いをくれたそうな。その金額が千円。今なら一万円だよ、子どもに。まったく、なんて時代。
共産党が全小選挙区擁立を見直し。賢明。これで地方区で反自民党票をまとめ「鼻をつまんで」民主党、全国区では共産党に投票の有権者も増える、か。それ にしても参院で民主派との統一会派結成に二の足を踏む国民新党で亀井さんが民主派の議員の「幅の広さ」について懐疑的。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/
富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/