富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-08-26

八月廿六日。裏山を小一時間走り回り昼前にジム。一時間の有酸素運動。午後按摩。帰宅。『対論 昭和天皇』再読、読了。示唆多し。着替えて晩にバスで佐敦。Z嬢と文化中心で慶祝香港回帰十周年?中国人民解放軍建軍八十周年<長征組歌>大型合唱音楽会という、もう文字通り中国の愛党愛国のナショナリズム音楽会あり「怖い物見たさ」で参観。でも怖いから三階席西扉の隅で、そっと。まさに革命プロパガンダそのもの。中國人民解放軍進行曲で始まり革命歌目白押し。で、「もうちょっと食傷気味」のところで、いよいよ「長征組歌」となる。「這是革命的大合唱、是大合唱的革命!」 この組歌、1965年に紅軍長征30周年記念に創作された由。2.5万キロに及ぶ中国共産党の長征の苦難、不屈の精神、困難に打ち勝つ勇姿。長征が、勿論それが実在したことは確かとしても、近年、共産党プロパガンダ的な長征の「党史」の内容に虚実が含まれているとする論証など、いくつか「発掘」されてはいる。しかし、なにせ長征は遵義会議など通じて毛沢東の指導権の確立された、中共革命史にとっては最も重要な「史実」であるから、党の公式な史実以外、存在してはいけない。で物語はずっと声高らかに歌い続けられなければならないのだ。しかも語り続けるとフィクションを含む物語も(日本の明治二十年代からの国史の如く)それがあたかも事実と信じられる不思議。そして更にそれに酔いしれる怖さ。この物語に身を委ねることでの恍惚。ナショナリズムとはこのスペクタクルそのもの(……と以上、実はこの音楽会参観の前に書いたのだが、大方、この通りで間違いないだろう)。……で実際、その通り。それくらいわかりやすくなければナショナリズムは通用しない。この音楽会、演奏は北京軍区戦友文工団管弦楽団で合唱は同団合唱団。そこに地元香港の「愛国心と国家への忠誠の表れ」として香港合唱団協会から長征組歌では合唱に総勢五百名!が舞台にあがる。北京軍区戦友文工団は当時の紅軍の軍装(やめてくれ〜)。何度も何度も、偉大なる毛主席、偉大なる共産党……と、あまりシツコイと逆になんか胡散臭く聞こえるのはアタシだけ、か。だろうね。みんな客も終演では(かなり動員かけられた、っぽい老人会など散見されるが)晴れ晴れしい表情。このお年寄りたち、まだ十代、二十代の頃に、あの革命、あの共産党が怖くて香港に逃げて来た人もいるのだろうに。「いやー、あそこまでテンションが高くなるものなんですねっ」と水野晴郎か、「凄いですね〜凄いですね〜凄いですね〜」と淀川長治になるか、「ちょと!」とおすぎになるか、いずれにしても「アタシにはわからない」としか言いようがない、この愛国と党のプロパガンダのスペクタクル。少し音楽的なことを綴っておくと、合唱曲で指揮した嚴良?は1923年生まれ。子供の時から抗日活動で音楽隊に従事、八十四歳とは思える矍鑠ぶりで合唱指揮は見事。ピアノ協奏曲「黄河」をピアノ独奏で聴かせた劉詩昆は1958年の第1回のチャイコフスキー=コンクールのピアノ部門で第2位。中国ではピアノ大師と言われる由。でももしキョービのチャイコフスキー=コンクールに出場したら?……。ちなみにこの1958年の第1回のピアノ部門の第1位がヴァン=クライバーンで、米国から参加のヴァン=クライバーンがソ連のこのコンクールで優勝し帰米後にどうなったか、は中村紘子が『チャイコフスキー・コンクール』に書いている。

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