富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-08-19

八月一九日(日)変な天気の良さ。朝から読書。吉見俊也『万博幻想 戦後政治の呪縛』読了。
万博はある意味で、膨大な観客を会場のスペクタクルに動員していくメディアであるという以上に、地方の行政システムが、中央の官僚システムと補助金、そして多数の大企業を巻き込んで地域のインフラを整備し、開発の基礎を固めていく重要な「動員」の仕掛けなのである。ここにおいて、動員するのは地方と一部の中央の行政システムの複合体であり、動員されるのは国家予算と企業の広告費である。この後者の「動員」のメカニズムにとって、万博への観客動員はイベントの成否を量る決定的な尺度ではない。
結局、政府は国威発揚、地方はインフラ整備、企業は宣伝、で儲けるのは電通、躍らされるのが市井の人々、ということ。木曜日にするはずであった書籍売却。新刊書から文庫本まで約60冊を銀座久乃屋の大風呂敷に包みキャリーに乗せて尖沙咀のTomato Booksなる日系の書店へ。合計でHK$180ほど。5,000円超える新刊書も含め平均すると1冊3ドルだが、線を引いたり書き込みしたり、の本、だと思えば引き取って頂けるだけでも幸い。この書店、新書も古本も扱い漫画も含め立ち読みどころか坐り読み可で購入前の書籍持込み可の喫茶コーナーまであり。並ぶ書籍は売れ筋の新刊書やビジネス本多し。何も買わず中環の擺花街にある英文の中古書店に寄る。ペーパーバック10冊ほど売却。日焼けどころか本頁も赤茶けた本ばかりでHK$15と言われ、その程度であろう、と思ったらHK$50で1冊HK$5とは景気のいい話。久々にFCCに寄り伊太利のCuvee Brutをグラスで、涼をとる。昼食にサラダを食し仏蘭西のBichot CotesのDe Duras Rougeの05年を飲む。最近、FCCハウスワインも赤だけで十数種あるだけでありがたいが、グラスとボトルの間にPublisherと銘打ち大振りのグラスサイズあり(通常のグラスの2杯分ほど)これがお値打ち。帰宅して午睡。田中彰著『小国主義』を読む。小国は孟子の言を借りれば「覇道」に対する「王道」で「君主のとるべき道」。覇道は大国の瞰む利で王道ならば小国でも能う。老子の「小国寡民」は河上肇もそれに着目。明治維新史の碩学たる著者は岩倉使節団が欧米歴訪で和蘭瑞西など小国の隆盛を見、日本はアジアの覇権国家の道を選んだが、自由民権運動植木枝盛中江兆民の「三酔人」の南海先生などに小国主義の思想が定着したことに注目。石橋湛山などの言論、そして何よりも日本国憲法こそ押しつけ憲法に非ず、日本のそうした明治からのリベラルな小国主義の伝統の産物、とする。晩に薮用出来、松竹映画の『忠臣蔵』上下二本通しで観るはずが能わず。1941年の溝口健二監督の作。内蔵助が河原崎長十郎、で共演は中村翫右衛門河原崎国太郎ら。二更、帰宅途中に嘉次郎を読んでいたら無性に酒が飲みたく北角でバス降りて寿司加藤で熱燗と赤身、赤貝をつまむ。さっと三、四十分で帰途につく。
▼嘉次郎監督の玉ノ井に関する文章より。昭和14年、伯林に続き東京オリムピック開催ひかえた頃、嘉次郎監督ふと「オリンピックを迎えて、?東の巷、玉の井は果たしていかなる受け入れ体制を整えているであろうか」とふと考え(これだけでも可笑しいが)、助監督の黒澤明谷口千吉らを連れ?東へ。すると路地の入口にブキリ製のアーチが立ち、五輪マークを五色のペンキで描き、その下にローマ字で NUKE・RARE・MASU と書かれていた、と(笑)。出来過ぎ。可笑しくて涙が出る。ところで嘉次郎監督のこと、数日前に実家は銀座采女町で飲食業、と書いたが誤り。監督自身の「親子どんぶり考」によれば、監督の父は懐かしや「天狗煙草」の製造販売元・岩谷の営業宣伝担当(永井竜男の小説「けむりよ煙」の山本支配人のモデル)。かなり羽振り良く銀座で歌舞伎座の前に家を構え、そこで監督が生まれた由。親子丼というと人形町の「玉ひで」だが、監督によれば父親が知己の株屋や相場師と料理好きの会をつくり、そこで親子丼が考案された、と言う。

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