富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-08-02

八月二日(木)列車の揺れに任せ寝入ってみたが個室の冷房寒く八つもある冷気口のうち六つまでは「閉」に出来るが残り二つは毀れていて冷気出たまま。長袖羽織り靴下まで穿いて寝たもののタオルケット一枚で凍えるように朝四時頃目覚める。車窓から白い月が見事。古い夜汽車思い出す橙色の暗い電燈つけて小宮豊隆中村吉右衛門』の続き読む。読了。小宮先生、播磨屋への賞讃に比べ六代目はかなりお嫌いで六代目について「菊五郎の芸には抑揚はあっても、極まり処は的確に極っても、緊張感にムラがあって、高潮を経験することは出来ない」と酷評。弁慶役者と呼ばれた高麗屋ですら「幸四郎の弁慶は、あの白痴らしい気の抜けた処のあるのが第一の欠点」で「いつまで経っても舞台が熟して来ない」「しかもその少しも気のないくせに、台詞を言ったり、思い入れをしたり、極まったりする角々に来ると、いかにも気が這入るように粧うというところが第二の欠点」で「故に、一々の言語動作が不自然となり、離れ離れとなり、故意となり、衒気となってしまう」として弁慶が「ことごとくはまざまざと虚偽を意識せざる内容の貧弱な表現」になってしまう、とまで断言してみせる(一瞬、当代の高麗屋のことか、と思って読んでしまった……笑)。初代吉右衛門という役者は小宮先生のようなインテリにはかなり面白いのだろうが、やはり十五代目(羽左衛門)がどれだけ美男子か、若い頃の海老蔵(十一代目團十郎)は、成駒屋(五世歌右衛門)は、と楽しんだ祖母には初代吉右衛門はあまりピンとこなかったのかも。この我が母方の祖母の叔父にあたる我が祖父(ややこしいが)は終戦後、川瀬巴水をどうやら水戸に招いたりするほどの旦那衆の一人で自ら水戸の花街の芸妓らで素人歌舞伎を企画すれば自分で直次郎役をするような芸達者でもあったが、この祖父は吉右衛門は(好きだったかどうかは別にして)吉右衛門の芝居が「わかった」ことであろう、と思う。なんだか寒さで熟睡できぬまま朝を迎える。列車は午前7時にバンコクに到着のはずが6時すぎにまだアユタヤで「こりゃ、まずい」。タイの鉄道など「遅れて当たり前」が普通、という意味では覚悟できているし通常なら朝など別にすることもないし……でいいのだが今日に限ってマズいのはBumrungrad病院での健康診断の予約が午前9時。前回の経験から1時間列車が遅れたにしても朝の渋滞でも1時間あればHua Lamphong駅から病院までタクシーで行けるだろう、と思ったのだが終点のHua Lamphong駅まで駅の数であと4つ、わずか15kmと思ってもHua Lamphong駅のホームの発着順待ちも含め、あと30分かかるのは覚悟。こりゅダメだ、と8時10分くらいに終点の一つ手前のSam Sen駅で列車を降りタクシーに乗る。朝の渋滞もあり焦ったがどうにか渋滞切り抜け8時50分に病院到着。五つ星ホテルのロビーといった雰囲気のHealth Screening専用病棟(あの「人間ドック」という言葉はどうにかならぬものか、日本語)。日本人は私らと「タイで地場のメーカーやってます」の我が侭な社長と上品な奥さんの二組。欧米人も少なからず。大部分は中近東から。Z嬢の話では女性はみんな黒いベールで全身を覆い超音波検査や胸部X線の時も病院が供する上下のスウェットは「身体の線が出るから」と着用厭いずっと黒のベールのままなので、いちいち検査の度に着脱でかなり時間も要すそうな。スチュワーデスあがりのような日本人女性スタッフ数名ありかなり親切。医者も頼んでもいないのに「阪大医学部ですねん」みたいな日本語堪能のタイ人の医師が今日の担当医。問診、血液検査、超音波、胸部X線、心電図、検尿検便等々……混雑してはいるものの2時間で終了。これで6,300バーツ(約25千円)。超一流の病院で混雑しているが職員の客への細かい気配りが見事でさっさと検査が進み、と思うとタイの医療観光の隆盛も納得。診断の結果は見事に「正常、ぜんぜん異常なし」で合格。日頃の摂生?の結果か。タクシーで今回バンコクの宿泊は12年ぶりか?でThe Sukhothaiへ。「あいにく満室でお部屋のアップグレードは致しかねますが」と謝られTANSTAAFL(There ain’t no such thing as a free lunch)と思ったが、通された部屋は(データによれば)客室(Foyer含む)が76平米、浴室が25平米で計101平米のExecutive Suite、これで更にアップグレードしたらちょっとおこがましい。ホテルのLa Scalaでかなり遅めの昼食。病院での身体検査のため朝食も抜きとはいえ二日連続で昼に伊太利料理となったのはチェックインの際にホテルでのご昼食券までいただいたため。ここの竃焼きのビザもなかなか美味。食前のスパークリングワインと赤葡萄酒一杯でけっこういい気分。ホテルのヘルスクラブのスパに一浴。プールサイドで読書。朝からの健康診断とこの夕方でハーバード=アズベリー著(富永和子訳)『ギャング=オブ=ニューヨーク』(早川文庫)読了。紐育を舞台にギャング団が抗争に明け暮れる時代や中国系マフィアの登場といった話より、導入部の19世紀初頭の紐育の貧民窟の野蛮ぶりを興味深く読む。工業産業勃興期の倫敦の貧困さに、さらに暴力沙汰加えた壮絶さ。部屋にBangkok PostとThe Nationのタイの英字紙2紙、それにTWSJとIHTの計4紙も置いてあり新聞好きには格好。予定通りマードック氏に買収されたTWSJ紙は125年に及ぶダウ=ジョーンズ社の歴史回顧の2頁特集記事あり。晩遅くシーロム通りの繁華街まで歩きソイ10の屋台街で魚蛋米粉を食す。一杯25バーツで二人で200円。パッポンの屋台で買物するわけもなくホテルに戻りさっさと寝る。桂文我『落語「通」入門』読み始める。
▼1882年にチャールズ=ヘンリー=ダウ氏とエドワード=デイヴィス=ジョーンズ氏によって設立されたDow Jones社はBarronsという高級読物紙も発行しているが1902年にダウ氏とジョーンズ氏の会社買収したのがバロンズ氏。そういえばThe Far Eastern Economic Journal誌もDJ社参加であったし香港のSCMP紙もDJ社が大株主であったが1986年にSCMPの発行株式の19%をマードック氏に売却したDJ社で、その時にまさか自らの巨大ニュースメディアがマードック氏に買収されようとは思いもしなかったのだろう。今日のIHT紙(The NY Timesが親会社)は“there is little doubt that Murdoch will directly aim at luring readers and advertising away from The New York Times and the Financial Times, The Journal's closest rivals”と意識する。このIHT紙でボストン大学のジャーナリズム学部の部長であるLou Ureneck氏が米国では“The Constitution protects the press against government intrusion but it doesn't lift it out of the marketplace” と指摘。御意。
▼タイで一昨日であったか“Thaksin, Where are you?”という本が出版される。首相失脚してからの倫敦での奢侈なる生活の中が紹介され本人からの取材もあり。この本の著者はLt Sunisa Lertpakwatというチャンネル5の記者。ジャーナリストがスキャンダラスな前首相をネタに出版、といえば「さもありなむ」で済む話。だがこの記者についてタイ軍の懲戒査問始まる。……というのはタイが軍国主義で軍が言論の自由に介入、ではなく、チャンネル5が軍の運営する放送機関でこの職員は軍の関連職員。休暇をとり英国に行き取材始めタクシンの取材可となり休暇延長。この休暇中の公道につき上司に報告がなく軍の規律違反で処分対象の由。軍に影響力ある前首相ゆゑ軍首脳もそれに触れることには神経質か。
▼本日の安倍三世のメールマガジンより。「覚悟を決めて」と題した安倍首相の決意を皆さんにぜひ知っていただきたく全文引用。
こんにちは、安倍晋三です。先日の参議院議員選挙の結果は、極めて厳しいものでした。年金記録問題を引き起こした政府への怒り。相次ぐ閣僚の不適切な発言や政治資金の問題に対する、いい加減にしろ、との怒り。こうした国民のみなさんの怒りや不信が、今回の結果につながったことを厳粛に受け止め、こうした厳しい声に真摯にこたえていかねばならないと痛感しています。私自身の進退も含め、いろいろとご批判があります。しかし、改革への流れをここで止めるわけにはいきません。教育再生公務員制度改革、新成長戦略の推進、地域の活性化・再生、地球環境問題の解決に向けたイニシアティブ、アジア外交の再構築、憲法改正に向けた取組み。先週号のメルマガでお伝えした、私の改革への決意に対して、力強い応援メールをたくさんいただき、御礼を申し上げたいと思いますが、この決意は、今でもまったくゆらいでいません。改革の中身について、これまで十分に説明できず、政策論争を深めることができなかった点は、率直に認めなければなりませんが、私が進めつつある改革の方向性が、今回の結果によって否定されたとは思えないのです。今、政治の空白をつくることは許されません。ましてや、政治が混迷したために改革が遅れた、あの90年代の低迷期に後戻りさせるわけにはいかない。今後とも新たな国づくりを進めていくことが、私の使命であり、責任であると考えています。「政府や政治に向けられた不信すら一掃できないようでは、新しい国づくりなんてできないぞ。」これが、今回の結果によって示された、国民の強い声だと受け止めています。人心を一新します。改革をさらに前進させることができ、国民からも信頼される体制へと、内閣の陣容を改めていきます。政治資金の透明化をさらに高めます。政治家自身がまず襟を正し、あらぬ疑惑をもたれることのないよう、オープンな仕組みをつくらねばなりません。そして、今回の選挙で示されたもう一つの声、すなわち、改革の痛みを感じている地方の声にも、改革の果実をさらに地方の実感へとつなげる努力を尽くすことで、こたえていかねばならないと思っています。まさに、今回の厳しい審判を、信頼される政治、真に改革を進める体制づくりを行うきっかけにしなければならないとの思いを強くしています。私は、ここで逃げることなく、自らが先頭に立ち、国民の厳しい声に正面からこたえていく覚悟です。そして、ゼロから出直す気持ちで、新しい国づくりに向けた信念を貫いていきたいと思います。
……と。自らの内閣に対する国民の不信感はわかる、が「改革を止められないから」我が内閣が続投する、と、この論法は「中国で社会の混乱を招かないためには共産党による専制政治がまだ必要」とか広域暴力団の必要悪とか、それに近い発想。中国共産党なら「貧困に苦しんだ革命前の社会」とするところを安倍三世は「まるで暗黒の」1990年代(笑)。90年代ってそんなに低迷していたかしら。英米も同じで経済先進国は必ず直面する長期的な経済低迷にすぎず。さらに「人心の一心」と言うのなら農林大臣の更迭に済ませず首相自らの進退も含め人心の一心が必要なのでは? 民間企業なら経営責任者は一度でも会社に大きな損益を与えたり不祥事があれば即刻、辞職。やり直しはきかず。続投に固執するならせめてペナルティで朝青龍を真似て三ヶ月間の首相休職とかも如何かしら。

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