富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-06-29

六月廿九日(金)雨。朝目覚めれば laufende Wekzeugspritze(単なる鼻水)あり。この時期、外の暑さで汗をかきぐっしょり、冷房で冷えの寒暖の差かなり堪える。宮澤ヨーダ喜一元首相逝去。弔問した中曽根大勲位が「宮澤さんは一貫して今の憲法を守るという方向を貫いておられた。これは立派なことだったと思う」という一言が最大の弔辞か。大勲位の「立派なことだった」は故人への「だった」が護憲への「だった」に聞こゆ。自民党最長老の護憲派も小泉三世のベテラン一掃で引退勧告受け入れ而も最後は自民党憲法起草委員会に参画。戦後の日本経済の最大の知性も金融危機とバブル対応では評価も分れ、結果論だが宮澤氏に比べれば経済の「けの字」も理せぬ小泉内閣で景気低迷抜け出されては池田隼人の懐刀の立場もなし。安倍三世は「時々のリーダーが責任を果たしてきたことでいまの自民党があり、日本の繁栄がある。こうしたことを踏まえ、21世紀にどういう日本をつくっていくか考えていかねばならない」と言葉は宮澤氏追悼の意の欠片もなし。宮澤、中曽根といった長老に引退勧告の小泉三世はコメント出さず。新聞の評伝も所詮、首相として父ブッシュと「通訳抜きの英語で通した」だの英米の新聞紙を読める程度のことが国際派と評されるとは貧困なる悲しき話。朝日新聞は論説主幹若宮啓文君が宮澤喜一とサシで話した時の故人のつぶやきだのヨーダ大勲位の対談の司会での逸話など若宮君自身の佐々淳行的な「私が」が目立つ。ところで、広東省開平の鐘樓群がユネスコ世界文化遺産に推挙された由(こちら)。将来的に補修保存されるは吉事なり。但し観光資源としての今後の開発と繁盛ただ畏れるばかり。余はZ嬢と二年前の十月末に開平に遊び観光客もほとんどおらぬ村々に威容誇る鐘樓の建築群を畏怖の念すら感じ見入る。本日、国家主席胡錦涛君香港返還十周年記念祝賀のため来港。厳戒警備で中環、湾仔付近の交通規制甚だしい由。午後、ある機会に小学6年生でキャノンのAE-1操る少年に遭遇。今どき銀塩へのコダワリに「大した奴」と敬う。が「そのカメラは何ですか?」と尋ねられ内心「待ってました」とばかりに「あ、これかね。これはね……」と余は「ドイツのライカというカメラで、Mシリーズと言ってね」と説明始め「キミの一眼レフとは違ってレンジファインダーのカメラはこっちがファインダーでレンズとは別で……」と説明したら「あ、使い捨てカメラと一緒ですね」と合点の由。確かに見た目はそうかもしれぬ……反論できず。実際には「レンズに連動した距離計=レンジファインダー付きのカメラ」で使い捨てカメラとは違うのだが……。北角の波止場にて仏教団体による禁戒殺生での魚介類放流の儀式に遭遇。魚介殺生の弔いは良いが当該の北角の波止場に並ぶ鮮魚店より魚介類をば仕入れ、而も放流する場所が水質汚染甚だしき北角波止場とあっては魚介類も難儀か。南無阿弥。夏風邪気味で早々に帰宅。今晩は好物の、広東語で言うところの林飯(Lam Faan)つまりハヤシライス食す。葡萄牙はDouroのQuinta do Vale da RaposaなるワイナリーのTinta Barrocaの01年物飲む。澳門のフェリーターミナルの免税店で酒売り場のオバチャンが「アタシはこれが一番好きだね」とお勧めの卓上酒。飲みやすい甘めでオバチャンがこれが好きと言ったのに納得。日本では安倍内閣不信任案衆院にて否決。NHKのNW9では「国会の与野党攻防は参院に移され明日未明まで……」と会津の男宣うが自公与党で過半数制せば単純に数の論理で「攻防」などあろうものか。それにしても自民党が自党の総裁支持は当然として「安倍内閣不信任は言語道断」と言い切る公明党とはいったい何を考えているのか。仏様への信心は異なるが公明党という政党に保革の間でキャッチングボードとしての一定の中庸の効力を期待したアタシとしては全くもって落胆するばかり。同ニュース番組で集団的自衛権について内閣法制局長官であった阪田雅裕氏が60年間綿々と国会で議論され続けてきた継承されてきた理念を一つの内閣の判断で集団的自衛権はある、次の内閣の判断ではない、としたら政府はどう国民の信頼を得るのか、と。御意。それに対して元駐米大使柳沢某は「日本の安全保障にとって日米同盟は不可欠。同盟国として米国が困ったら助けることは最低限必要、個別的自衛権しか行使できぬことがおかしい」と宣う。阪田氏の主張は(天木直人ブログ6月12日参照)「日本への武力攻撃がないのに日本が武力行使をするのは憲法9条あるいは憲法全体をどう読んでも無理」というもの。国際法では国家のあらゆる権法が認められており戦力もその一つ。ただ現行憲法では国民の意思でそれを制限するのが第9条であり、それが日米同盟に障害で集団的自衛権を行使したいなら憲法改正を先ずすべき話。不満があろうがなかろうが現行憲法では集団的自衛権多国籍軍への参画はどう見ても違憲。御意。日本から送られてきた荷物の隙間に四五日分の毎日と日経がどさっと入っており夜な夜な読む。晩遅くキース=ジャレットの演奏でショスタコーヴィッチの24の前奏曲とフーガを聴く。
▼日本の年金記録の紛失も凄いが上海で不正流用された年金は71億元(約1100億円)。中国の国家審計署(会計監査部門)の審計長・李金華氏によれば昨年発覚しただけで国家支出のうち煙草専売局や教育部など19の省庁による発注偽証など190億元、文化省や24の省庁での年金積み増しや海外投資などによる横領28億元、水利資源庁や科学院などでの国家資産の不法投資や紛失23億元、航空部などでの庁舎建設など資金浪費と横領17億元と中国の公務員による横領や贈収賄の凄まじさ。社会保険庁などまだ幹部が年金横領しての不正投資などしなかっただけ公僕として真っ当と思うべき鴨。信報の社説「中国資本登上国際舞台」によれば第10回全人代常委にて財政部建議の1.55萬億……って1.5兆元、つまり24兆円?の特別国債発行で2,000億ドル調達し国家外貨投資公司創設の資本金に充当の由(ちなみに今年三月の中国の外貨備蓄高は1.2兆ドル)。横領されること考えれば国家による外貨備蓄と積極的投資は賢明(信報社説もこの投機に肯定的)。だが国内に現状で億の民が貧困に喘ぐこと思えば本来の共産主義国家の投機先は海外の投資市場なのか国内の民生なのか。中国ほどの資本主義国家は他に見当たらぬ。
▼米国の仮小屋小浜(バラックオバマ)君のメールはもはや政策どころの話でなく
We crunched the numbers last night, and because we hit our goal so quickly -- 10,000 people have already donated to the campaign this week -- things have changed. Suddenly, we're within reach of something no presidential campaign has ever dreamed of at this stage. With your support, we could reach 250,000 donors for the year by the June 30th filing deadline. We have a chance to seize this moment and make history.
と兎に角の資金集め。資金集めた者が総統選制す。政治はカネ。市民にカンパ求めるだけ健全か。
▼香港で上海灘、China Club(中國會)や葉巻屋経営など経営しサッチャー首相や故ダイアナ妃との親交など話題豊富な財界人の?永鏘氏が香港のリベラル政党・公民黨(Civic Party)入り表明。公民黨はリベラル派弁護士が組織せし45條關注組が母体。その弁護士ら4人だかが一気に立法会に当選し公民黨を組織。良識的な穏健リベラル派として一定の支持あり。A45なる無料タブロイド誌発行したが資金不足で今年2月に休刊。今回来る7月1日の市民デモに合わせ「十年民主路」なる最終号発行の由。蘋論日報発行する壱媒体集団社主の黎智英氏にインタビューあり。財界人のリベラル政党加入は椿事。だが香港財界ではトリックスター的なDavid ?永鏘であり北京中央にしても寧ろおちゃらけ財界人の公民黨加入で寧ろ公民黨の中道化に期待かも。次は白花油の王子様・顏福偉氏あたりの入党に期待(顏福偉の歌う白花油のテーマソング「愛多八十年」)。
▼警察の一樓一鳳(私娼宿)大規模一斉取締り盛ん。私娼検挙だけでは鼬ごっこ、と私娼窟の家主に私娼相手に賃貸契約継続せぬよう申し入れ私娼宿相手に淫売で用いるタオル、リネン類洗濯の業者にも取締り協力求め「依靠妓女維生」も検挙の可能性ありと警告。私娼の多くが大陸からの出稼ぎで香港返還以降に急増。でこれも返還十周年での「けじめ」か。
▼昨日の蘋果日報「蘋論」欄で李怡氏「回帰十年、香港的反智愛国教育」を説く。返還以降北京中央の意を受け香港にて熱心な愛国教育。北京中央の感心は香港人に愛国感情、国家民族の意識あり哉なし哉、「人心」の回帰は真かどうか。李怡氏、昨年四月の香港政府中央政策組の調査引用し75%の香港市民が中国人であることの誇り感じ65%が今日の中国の国際的地位評価するが76%の市民が香港での愛国主義教育の強化を肯定、と。中国人であることに75%の市民が誇りを感じながら何故に愛国教育の徹底を76%が求めるのか(すでに誇りを感じるなら愛国心にも満足はもっと多いはず、と李怡氏のこの調査への懐疑)。また中央政策組の首席顧問の劉兆佳が今年三月十四日の人民日報に「一国両制が確実に定着したと認識できる最も重要はファクターは「人心回帰」である」と述べた由。李怡氏曰く大多数が中国人であることに誇りをもち一国両制が定着したとしつつ愛国教育の強化が必要というのは実際には愛国心だの一国両制が定着しておらぬからではないか、と。御意。「人心」とは何か。「人心」は中国政治の産物。英語で human heart か popular feeling は一種の感情であり感覚。本来、世論調査で問われるのは public opinion(民意)であるべきで非理性的な popular feeling(感情)に非ず。「中国人であることの誇り」など民衆にとって自然な感情であり大概は「ある」と答えるもの。愛国は一種の感情で人心は一種の感覚。これを愛国教育などに置き換えても個人主義が強まる時代に効果があるかどうか。台湾の作家・柏楊が「大陸可愛、台湾可愛、有自由的地方就是家園」と言ったが李怡もまた「大陸可愛、香港可愛、有自由的地方就是家園」と国家の強制なき自由を説く。

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