富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

五月十五日(火)早晩に佐敦。今日の新聞(蘋果日報)に佐敦の雲呑麺屋・麥文記が創業半世紀という広告記事あったこともあり、ふらりと訪れると今日は創業記念の宴会で夕方で閉店。呉松街の阿龍??ももう何年も食しておらず阿龍で??鶏飯。美味。寧波街の明記で蓮子紅豆沙。尖沙咀のHMWでグレン=グールドの1955年のゴルトベルク変奏曲とブルーノ=ワルター&維納フィルでマーラー大地の歌』1952年のデッカ録音の2枚CD購入。いずれも「名盤中の名盤」で「いまさら」なのだが多感な十代前半にLPで愛聴。デジタル化でかなり音質もよくなりCD盤が出ていること聞き及んでいたので。文化中心でZ嬢と待ち合せ、仏蘭西Orchestre National de Lille(リール国立管弦楽団)の演奏会を聴く。香港で毎年五月恒例の「法國五月(French May)」の一環の音楽会。アタシも音楽監督で指揮者のJean-Claude Casadesusの名前知るだけで全く知らないオケ。ベルリオーズのローマの謝肉祭序曲、続いてMarie-Ange Todorovitchというメゾ・ソプラノ(プログラムにはソプラノ、とあるが)とのベルリオーズの「夏の夜」、で後半はラヴェルのTzigane(ツィガーヌ)は李傳韻のヴァイオリン、続いて円舞曲(La Valse)で最後はボレロ、と、想像しただけでだいぶ舞台の入れ替わりが激しくないかしら、と案じていたのだが、やはり円舞曲とツィガーヌ入れ替えて、ちょっと変則的であるがラヴェルのうちLa Valseだけやって、休憩で後半は李傳韻とのツィガーヌとボレロ、となった。残念なことに知名度が低いオケでS席800ドルと強気、で会場は4割も埋まらず。謝肉祭はさらさら、とウォーミングアップ。Todorovitch女史の歌う「夏の夜」はベルリオーズなんてあまり聴かないアタシは初めてだったが、これもいい。で「ラ・ヴァルス」がね、ラヴェルが意図した、ワルツとそのリズムの乱れの崩壊、蘇生、その渾沌がじつに見事に演奏されるじゃない。オケもいいけど、このオケを手塩に育てたCasadesusに対してアタシも含め観客がかんぜんに親しみと尊敬を感じてしまっている。ラ・ヴァルスは最後、ガタガタに盛り上がって、そこで曲が終った、と客は思うのだが、冒頭の主旋律に戻る、ってところでCasadesusが「まだ、ちょっと」と客にゼスチャーしてみせたり、で客との一体感。墺太利=匈牙利帝国の末期、もうワルツでも踊っているしかない、って世界が実に21世紀の今、心に沁みる。このオケの楽団員は仏蘭西の総統選挙に投票できたのかしら?なんて気になる。で後半は李傳韻が登場。青島生まれの中国のバイオリンの天才少年も今では27歳。相変わらずクラシックのバイオリニストとは思えぬ体躯と容姿。バイオリンを奏でる仕草をZ嬢が「山西刀削麺で麺、削ってる感じ」などと表したので、それがトラウマのように深刻な印象(笑)。Tzigane(ツィガーヌ)が仏語で「ロマ」の意味だと初めて知ったが、匈牙利的な旋律を李傳韻が唸る唸る。ピアノによるピアノの旋律はハープで演奏。Casadesusのリール楽団もそれをまたとてもラプソディとして演奏するから、いったい何処の何の曲かわからぬくらい。それが面白い。アンコールで中国の「馬が駆けるナントカ序曲」みたいな(曲は知っているが)確か二胡のための協奏曲をバイオリンで。ボレロは今更語る必要もあるまい。アンコールは中国の、これも曲名は知らないがナントカ祝典序曲みたいな曲。とアルルの女から。客の入りは4割だったが後半からかなり盛り上がり「行って良かった演奏会」で◎印。明後日が上海公演の由。帰宅してグレン=グールドのゴルトベルク変奏曲を聴く。これが自然に聴こえてしまうのが21世紀なのか。むしろ高橋悠治のゴルトベルクのほうが崇高どころか、ずっとずっと衝撃的に聴こえてしまうのだ。
▼日曜晩に蔡瀾氏のグルメ旅行番組ありご本人が視聴率20%台で絶好調と蘋果日報の随筆に書いている。先週は順徳から深?。一昨日はタイ特集。そのタイ特集をビデオ録画して昨晩眺める。チェンマイでいえば訪れるレストランはピン川沿いの誰でも知っている観光ズレしたレストラン、そこで食べる川魚を「この川で獲れた新鮮な魚であそこのマーケットで売られる」と紹介するがピン川がいったいどれくらい汚染されているかは一目瞭然だしフローロット市場だったか、その市場で売られている鮮魚も所詮、熱帯の山あいの川魚でお世辞にもちょっと……とアタシは思う。泊まったホテルのスパの按摩を「タイには数千のタイ式按摩があるが此処は格別でリピーターが多い」と紹介するのだがお泊まりのホテルはマンダリンオリエンタル・チェンマイで、最近出来たこのホテルは蔡瀾氏の動静は蘋果日報の連載で凡そ把握している者の一人として蔡瀾氏も初めて泊まったのではないかしら。旅慣れたグルメ、という蔡瀾氏の印象も昔は事実だったものの、今ではやはりテレビなどマスコミで出来上がったものになってしまってはいないかしら。

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