富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

四月十日(火)耶蘇の復活祭の五連休もとうとう休む暇もなく終わり今日も昼に早めに小さなおにぎり二つ頬張ったくらいで朦朧としていたらEMS便が届く。東都は人形町のS女史よりブツ届くことはメールいただき知ってはいたが、やはり愉しみ。ブツとは赤瀬川原平氏の『鵜の目鷹の目』と日本カメラの最新号。カメラ雑誌も面白いもので日本カメラとアサヒカメラが日本の二大写真月刊誌だとしたら、これは例えば鉄道の時刻表に喩えれば、自分がJTBの時刻表に慣れ親しんでいると鉄道弘済会(正確には弘済出版社)が出す『大時刻表』が苦手なわけで(これは現在は交通出版社の『JR時刻表』と言うのだ、と知った)、アタシの場合はJTB派だったので駅のみどりの窓口には国鉄だから『大時刻表』しか置かれていないと、ほんと路線を引くのが難儀で、みどりの窓口の職員もみんな『大時刻表』使っているのだけど、実家の近くの駅のみどりの窓口でNさんという職員がこの人だけはずっとJTBの時刻表を(おそらく自前で)いつも使っておられ、マルス103型の発券機を見事に扱う態を同志的に憧れてアタシは眺めていたもの。そういうわけで慣れ親しむと他がダメで、写真雑誌についてはアタシが子どもの頃に先考が毎月、アサヒカメラを定期購読していたからアタシもアサヒカメラで、ついぞ日本カメラを読んだことがないまま老境に至り、赤瀬川原平『鵜の目鷹の目』もちょうどあたくしが香港に越した頃のことでもあり今日に至るまで読む機会逸したままであったのだが、ひょんなことからS女史の知遇を得て、そのへんの事情を語るとS女史の素性が顕わになるので控えるが、いずれにせよ偶然に香港、競馬、カメラの三題噺のようだが縁しのようなものありS女史より『鵜の目鷹の目』の94年の初版本(美本)頂いた次第。で開けてびっくりは見返しにアタシの名前宛で赤瀬川原平氏の直筆の署名あり。それもほんの一週間前のご署名。まことにありがたいかぎり。日本カメラの四月号にも赤瀬川氏の連載「目の成長」があるのだが、これも秀逸。西洋画の遠近法と日本画の対比から話を興し
自分自身、西洋画一辺倒だったが、歳とって日本画を好きになって見はじめると、とくにその感(日本画はリアルでなく絵本的であること……富柏村注)が強い。一つ自分が気がついたのは、西洋の絵には陰影があり、影も描いている。一方の日本画には陰影がなく、影は描かない。つまり西洋のリアルは「今」という時間のある光景、つまりカメラでいうとシャッターを切った光景で、一方の日本画にはシャッターがない。たとえば一本の樹を撮るとして、低感度フィルムでシャッターを明けっ放しにしておくと、日の光がぐるりと回って影がなくなる。つまり無時間の映像、ということは頭の中の観念に定着した物を描いているんだ、と思い、納得した。
……と。なんて見事なこの明晰な語り。

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富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/