富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-03-13

三月十三日(火)昨晩遅くに読んだ『写真美術館へようこそ』について追記。Louis Jacques Mand? Daguerreという写真家が1839年!に撮影の「タンブル大通り」という写真あり。当時のパリ市街の景観に、大通りのただ一人の男、路上で靴磨きをさせている最中なのだろう。なぜ通りに人影も馬車も走らず、たった一人の男が靴磨きか……の答えはこの写真機の露出時間が極めて長く通りすぎる人や馬車が一切写らず、靴磨きしていた男だけが写った次第。シュールな世界。この人が現存する写真のなかで最も古く=最初に写真に写った男性。で飯沢耕太郎の記述といえば
多くの場合、写真家はモデルを「見る」存在として優位に立ち、モデルは一方的に「見られる」存在なわけです。どうやら写真という装置には、そのような普段はあまり意識されることのない、撮影者とモデルの間の身体のイメージを介した権力の関係(「身体の政治学」とでも呼ぶべきでしょうか)を明るみに出す動きが備わっているのです。
フーコーっぽい一節もあり。ただこの権力の関係はそんなに単純でなく写真を撮る側もまた同時に撮られる被写体から見られている、という点についての考察に欠けていないか?と思えるのだが、著者はしばらく先の記述で、医学写真を取上げ
一見、科学的、合理的におこなわれたかのように見える患者の撮影に、医者と患者との暗黙の共同作業による“演技”が含まれていたことがわかってきました。例の「見る」−「見られる」という関係につきまとう固定された権力の関係に従って、患者たちは時に医者たちを喜ばせるために、自分から発作をでっちあげることもあったそうです。
なんてことにも触れる。これならいい。本日。1970年創刊から半年ほどの雑誌『アンアン』でなぜ香港特集が「香港再見」だったのか、疑問であったが(この本を読むきっかけとなった)原田治氏ご自身から今日、メールいただき事の次第判明。この『アンアン1970』の著者である赤木氏が触れている香港特集は実はアンアンですでに二度目の香港取材だけを取り上げていた由。初回は原田治氏とカメラマンのお二人、二度目がこの本に書かれたもので香港観光協会からの招待で新谷氏が加わり三人で取材。雑誌アンアンが再び香港訪れたという意味での「再見」であったような記憶、と原田さん。なるほど。わざわざ教えていただいた原田治氏に感謝。晩に畏友M君、香港で写真多く撮るM君、そして趣味人O氏の三人でJardine's Lookoutの益新美食館に食す(この「美食館」ってあんまりな名前だけはどうにかならぬものか)。灣仔の鵝頸橋がなぜ=どこからどう見て鵝頸橋なのか、という話から始まり、今はHennessy Rdを跨ぐ高架道の橋を鵝頸橋と誤解している人すらいるが、実際はHennessy Rdにかかっていた橋(運河は今は埋め立てられ、その名もCanal Rd)が鵝頸橋で、なぜ此処が鵝頸か、と言えば、今では香港島から陸続きだが丁度、海底トンネルの入口近くに小島あり、中環のほうから見ると(昔は灣仔も今のように埋め立てられておらず)鵝に喩えれば、この小島がちょうど水の中からちょっと出した頭べに見え、灣仔のMorrison HillやLeighton Hillが鵝の胴体や翼なら、ちょうど鵝の長い頸が水の中、そこが鵝頸だ、という見立て。そこに架った橋であるから鵝頸橋、とまことに明確。……そんな老人話から始まり話題は尽きず款語続くが今晩はO氏とアタクシのカメラ勝負あり。チョートク先生とアルフィー坂崎氏の真似事で、当然、諸先輩方に比べると可愛いものだが、まずは、と序盤戦の緒を切るのは両者ともRicoh GR Digitalで、一瞬、アタシもこりゃ引き分けか、と思ったがアタシは外付けファインダー付きで点差でこの緒戦頂いたか、と思った瞬間O氏は実はこんなものが、と取り出したるはVoigtl?nder製の28mmファインダーで、いきなり「勝負あり」。O氏の主力機は現在、ニコンD200で、O氏的にはアタシがそのあと出してくるのはEpson R-D1sとライカM6とわかっているので、カメラ勝負になるとD200よかレンジファインダーは趣味的なので、最初に勝ちに挑んだ、見事な作戦勝ち。オヤジ四人が料理屋で皮蛋、海月に叉焼を肴に紹興酒ちびちびとやりながらカメラ見せ合い。食後、O氏と「ちょっと一杯」のつもりでバーSに寄ると話が弾みGlenkinchieを飲み名前失念のBottler's Brandによるスプリングバンクの12年物少し飲む。いろいろ深い話題で勉強になったが、あっという間に深更に到る。

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富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/