富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-02-27

二月廿七日(火)昏時、灣仔大王東街の国際??館に羊肉??飯食す。美味。値段も相応。尖沙咀に渡りペニンスラホテルのバーでドライマティーニ一飲。香港文化中心。Z嬢と待ち合せ。莫斯科フィルハーモニー交響楽団の演奏会。文化中心のロビーで鐘や太鼓がなり響き賑やか。何かと思えば今年の香港芸術節(HK Arts Festival)の開幕祝賀式典で政府財界のお歴々鳩まる。ちょうど行政長官「自称政治家」Sir Donald君らが舞台にあがり筆を持って獅子舞の獅子に眼をば書き入れる。ロビーの混雑で、これぢゃモスクワフィルのコンサート会場にも入れぬわい、と舞台の袖から裏手に周りこもうとするとVIP関係者エリアの片隅でカナッペ片手に赤葡萄酒飲む御仁あり。余の知己、政府某署署長のT氏なり。皆が開幕式典に目を向けるなか立派?な態度。ちょっと雑談。莫斯科フィルはユーリ=シモノフの大袈裟な指揮。山本直純の「オーケストラがやって来た〜っ!」の如き雰囲気でショスタコーヴィッチの祝典序曲で幕開け。会場にはSIr Donald君筆頭に香港の田舎政財界、ジョッキークラブ首脳らS席にずらりと並び、香港金融管理局で禄を貪るT総裁や東亜銀行のBaby李國寶頭取ら並んでA席後方。ショスタコーヴィッチの祝典序曲に続きプロコフィエフのピアノ協奏曲2番。ピアノはKonstantin Lifschitz(コンスタンチン=リフシッツ)君。グールド以来の奇才と称されるが、グールドがピアノの演奏的な意味での奇才なのに対して舞台に出てピアノに向うところから奇行っぽいところでグールド以上。淡々とした表現なのだがかなりのクセがあり面白い。Z嬢曰く、ピアノから音を吸い上げるそうな奏法、と。それにしてもプロコフィエフの、とくにこの帝政ロシア末期の1913年にプロコフィエフ22歳の時のピアノ協奏曲2番というのは、あたくしにとっては「わからない」曲の代名詞の如し。難解なら難解でいいし、きっと奇才のリフシッツは「わかってしまっていて」ピアノを弾いているのだろうが、どうもシモノフの指揮が、個人的にとても生理的嫌悪で見ていられず、目を閉じて聴いていたが、途中だいぶ「落ちてしまい」今晩も、このロシア未来派モダニズムの曲はよくわからぬまま。ピアノのアンコールでリフシッツはバッハのゴルトベルク変奏曲から1曲、もう1曲あたしは知らぬ曲を披露。この人のゴルトベルクはきちんと聴いてみたい。途中休憩でも警察の要人警護のSPが会場に現われSir Donald君をエスコート。たかだか一地方自治体の、大阪市長程度の格のこの男のためにここまで大それた警護が必要か、とただ嗤うばかり。後半はあたくしは初めて聴くミハイル=グリンカ交響詩「カマリンスカヤ」とムソルグスキーの「展覧会之絵」。展覧会の絵、なんて聴くのは中学生以来かしら。どうもこの莫斯科フィルの演奏は、大きな音を出すことばかり目立って、個々のソロはかなり上手いのだが、抑揚に欠けるというか、オケとしての全体の音のうねりがないことがモノ足りず。ひとりでお茶屋遊びの如く指揮台で踊っているシモノフの指揮がやっぱり見ておれぬ。でいろいろこの曲について考える余裕?というか暇つぶし。この曲は、そういえば中学1年の時だったか冨田勲シンセサイザーでの作品のLPを、ホルストの惑星に続けて買った、そうそう「展覧会の絵」は小学生でも聞くクラシックの定番であったから、小学6年だったかに買ったLPがオーマンディ指揮でフィラデルフィアの演奏だった、などと思い出してみたり、このラベルによるオーケストラのための編曲はこれほどまでにヴァイオリンが後手にまわっていたものか、ほとんど出番なし、と認識したりする。アンコールはムソルグスキーの何某という歌劇からの一曲。万雷の拍手でスタンディングオベーションまでする客あり。莫斯科フィルのこの演奏も、客の興奮もよく理解できず。もう一曲アンコールがありそうだったが、ちょっとシモノフ指揮のこの楽団に今晩はもう食傷気味で香港地元要人らのお帰りを考えると閉幕後かなり面倒になりそうなのでZ嬢と早々と退散。文化中心の正面の車寄せには金持ちのショーファーつきの自動車がずらりと並び、何より驚いたのはBMW7シリーズの「AM」一桁ナンバーつけた政府官僚専用車が本来自動車進入禁止のエリアにまで入り込み主人待つこと。このような破廉恥な自動車乗り入れは、まさに中共の高級幹部的な横柄さ、或いは小役人どものそれの真似で、中国では鉄道駅のホームにまで自動車で乗り入れるのは小役人らの日常茶飯事。香港の地方自治体の小役人もさすが「国風文化」に馴染むのはお早いようで。帰りがけに、Z嬢の話では、昼間にRTHKのRadio 4でモスクワフィルの演奏を何曲も流したそうで、Z嬢はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を聴き、いたく感激し「今晩はこれか」と期待したそうで、指揮はデュトワ。指揮者によりだいぶオケの音は変わるのでしょうが……。比べちゃいけぬのだろうが同じロシアのオケとして旧レニングラードサンクトペテルブルグ交響楽団の演奏を3、4年前に聴いた時のあの感動。Yuri Temirkanovの指揮でムソルグスキーの「モスクワ河の夜明け」、Natalia Gutmanのチェロでドボルザークのチェロ協奏曲。そしてラフマニノフ交響曲第二番。

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