富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十二月十九日(火)旺角の萬成カメラ店の面積二倍への拡張を余は勝手に「ニコンのデジカメで大儲け」によるものと確信しているがニコンが今日の蘋果日報28頁だての第一折、全面で7面のDシリーズの広告掲載。圧巻。……個人的にはユーザーぢゃないので気にならないが凄い勢い。早晩、昨日に続き尖東の新フランシスコカメラ店。中古のSummilux 50mmF1.4 は204万番台。もう10年以上、店のショウヰンドウに飾ってあった、という。香檳大廈のカメラ小物店に寄りレンズのキャップなど購入。晩にFCCにU嬢とO君招く。ステラアルトワ麦酒一杯、ハイボール一杯。夕食は余はラスクチーズと馬鈴薯など。新西蘭のHunter'sなるソーヴィニヨン(05年)。お二人とも90年に余が香港に来た時の同期。O君はずっと香港離れており、この夏に香港駐在となり連絡いただいたが余の怠惰で再会が今頃になる。U嬢とバンコクでの成人病検診など話題となり「つくづく年をとった」と笑う。銅鑼湾のバーSに寄り独りドライマティーニ一杯だけ飲んでさっと帰宅。今日の朝日に大江健三郎君が連載「定義集」のなかで教育基本法について書いている。相変わらず「まわりくどい」が、教育基本法の改定にあたり、ついに失われてしまう現行の同法の小冊子を作り新しく教師になる人、若い親たちが胸ポケットにいれておきましょう、そしてそれを記憶し頼りにすることを期待、と。
まさに「作品」と呼ぶにあたいする文体をそなえた教育基本法には、大きい戦争を経て、誰もが犠牲をはらい、貧困を共有して、先の見通しは難しい窮境にいながら、近い未来への期待を子供らに語りかける声が聞こえます。あの「作品」を積極的に受けとめた日本人には、その文体につながる「気風」があったのです。それを忘れずにいましょう。そして幼児ととみに、目に見える・見えない抵抗に出会う時、若い母親が開いてみる本にしましょう。
と、この気弱な、ささやかな(それを文学では「強い」と言うのだが)抵抗。わたくしもサイト内に現行の教育基本法を永久保存しているのだから、意図するところは大江君と同じなのだが。その気風があったことを忘れずにいましょう、と言っても、その気風を失うことになんら躊躇も後悔もないのが当世の世情だとすれば、忘れずにいたところでなんら「世の中はよくならない」のかしら。
▼前述の大江健三郎君が日本弁護士連合会の教育基本法改定反対の「意見」(こちら)について言及。とくに大江君は「改定を進める政府が世間の関心の高まりと同調させようとした」改訂案の10条(家庭教育)と11条(幼児期の教育)の両項に同弁護士会の批判の焦点が絞られていることに共感した、と言う。改定法で、国及び地方公共団体は「家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するため」働け、と言い、「幼児の健やかな成長に資する良好な環境の整備その他適当な方法によって」働け、と。この「その他の」や「その他適当な方法によって」が曲者だ、と大江先生。御意。改定法のいう「教育の目標」や「徳目」が国や地方公共団体によって一義的に決められることへの危惧。教育基本法で書かれているから、と政府や公共団体が(これまで教育基本法など見て見ぬふりしていたくせに)「その他」の部分で拡大解釈で介入すると思うと怖い。
ブータンのジグミ=シンゲ=ワンチュク国王陛下が51歳の若さで退位しジグミ=ケサル=ナムゲル=ワンチュク皇太子に譲位。ブータンの国王といえば日本での鮮烈な印象は先帝陛下大喪の礼に参列の民族衣裳「ゴ」姿。英国留学の啓明なる国王として知られる。国民総生産にかわる「国民総幸福量」(GNH)なる概念の提唱。国王親政からの改革で国王の定年制、「国家主席」の地位返上、国民議会には国王不信任決議の権利付与し、閣僚任命権放棄(国会議員による無記名信任投票)。国王に就任の26歳の若君もマサチューセッツのWheaton Collegeからオックスフォード大学に外交学を学び政治学修士。今年、タイのプミポン国王の在位六十周年の祝賀に父君の名代として参列し外交デビュー飾る。

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