富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2006-12-02

十二月二日(土)また慌ただしき一週間の末に今朝は昼近くまで机上諸事片づけ昼頃に中環に出る。Stanley街の写真機材屋何軒か冷やかし久々に陳成記にて牛?伊麺食す。美味。二人ほど人雇うが主人がちょっと手が空くと人任せにせず雲呑自ら包むのは昔から変わらず。中環のこのあたり絵になる風景多し。尖沙咀に渡り香檳大廈の中古カメラ屋何軒か覗く。ライカMについては最も品揃えのいい「大家好」でSummiluxの35mm f1.4であるとかNoctiluxの50mm f1であるとか東京よか高い上に在庫すら見せてくれず(おそらく買う者がいればコレクターが放出しますよ、の委託か)。他の店では埃かぶった骨董品屋の如し、でレンズの扱いなどかなり劣悪でとても買う気にはなれぬ。午後九龍で薮用済ませ、黄昏時に石?尾の集合団地を復び徘徊。十月の中旬に訪れた時は立ち退き直前であったが今は古い公共団地の建物はすっかり鉄網の囲いに覆われ取り壊し待つばかり。殺風景とはまさにこのこと。この時刻ともなると店々に近所の馴染客集まり四方山話に花が咲き、と下町の光景あちこちに。深水?では安物の衣料品屋が少し肌寒くなったことで冬物の衣料品並べて商売繁盛。ふと香港のウール衣料品の老舗利工民で数十年間デザインが変わらぬのであろうウールの薄手のセーター購う。ダサいといえばかなりダサいがどう着こなすか、がポイント。深水?は可笑しな街。なぜか公衆電話は近所のジュース屋の砂糖黍置き場と化し地下鉄站入り口付近に十月には確かにあった「性病蔓延」の警告のネオン看板は撤去済みⓡあれぢゃきっと「深水?=私娼多し」と宣伝しているようなもので風紀乱す、と判断されたか。Z嬢と銅鑼湾で待ち合せJaffee RdのTAIというオーガニック野菜のビュッフェ式料理屋に食す。晩でも1人HK$60(+サ税)で良心的。英国ですでに10軒だか展開する新機軸の自然食の由。それなりに評判だが「何かビジネスが始めたくてお父さんに始動資金出してもらいました」という感じの若い経営者が店の中をひたすら客に愛想うって懸命なのも、きっとこの自然食チェーンの香港での営業権を得た見返りのフランチャイズ料と高い家賃払うと、かなり商売も厳しいからか、と思えてならぬ。このテの店は客層も限られるわけで評判ならビルの2、3階でもいいはず。果たして銅鑼湾の一等地、繁華街の通りに面したG階で見栄張って営業する必要があるかどうか疑問。而も飲食店の「居抜き」賃貸で店の設計もビュッフェには使いづらくもある。皇室映画館で譚家明監督、郭富城主演の映画『父子』観る(映画内容については下述)。譚監督本人が先月卅日の信報のインタビューにて120分に短縮された劇場公開版に対して160分のオリジナル版を「それこそ譚家明の本当の作品。一コマとて無駄がなく全てのシーンに意味がある」と言うのでオリジナル版を観ることにすると上映は香港でたった一ヶ所、皇室映画館のPalace劇場のみ。HK$95もかけて(って日本で言えば1,500円だが)2-2-2配列のわずか36席の飛行機でいえばビジネスどころかファーストクラス並のシートでご観賞。この映画、今年の東京国際映画祭で最優秀アジア映画賞と最優秀芸術貢献賞だか受賞。譚家明といえば寡作で17年ぶりの監督作品。レスリー張國榮の『烈火青春』の監督と言われても「うーん……」で終わってしまうが「香港ヌーベルバーグの旗手」だったそうで1987年の極道物『最後の勝利』では王家衛が編集に加わり、譚家明は自身が監督としてよりも王家衛の師匠として評価されてみたり王家衛の傑作『旺角カルメン』では譚家明が編集。その後、マレーシアの映画学校で講師、この五、六年は香港城市大学で助教授として映像学の教鞭をとっているそうな。「香港の柳町光男」である。で物語は(以下、この映画ご覧になる方は読まぬよう)安食堂の料理人(郭富城)は家庭を顧みぬ博打好き、暴力団に借金拵え、内縁の妻(楊采? Charlie Yeung)はナイトクラブのホステスをして家庭を維持するが夫に愛想尽かし実業家の男の許へと逃げて結婚。で取り残された息子はどうしようもない父を健気に支えるのだが父は職を失い金策の手だても尽きると息子に空き巣まで強要。で家を追われ父と子のその日暮らしの宿無し暮らしが続き、どんどん落ちぶれてゆく、所謂「どん底もの」という意味では珍しくもないが、マレーシアのペナンかどこかの鄙びたチャイナタウン、ちょっとレトロ調(それだけで映画祭で最優秀芸術貢献賞だろうが)。郭富城もかつてのアイドルが市井のどうしようもないどん底親父を熱演するものの何といっても息子役の?景濤(誰だったかモデル出身女優の実子)が所謂、天才子役で好演。一つ決定的に欠けているのは、息子が殴られても泥棒までさせられても離れたくない、と思う父なのだが、その父に息子をそこまで思わせる魅力が足りぬ。郭富城の演技力不足ではなく、そもそもこの父親像にそこまでのものがない。そうなると父を支える息子があまりに美化されてしまい「不幸せな子ども」の話で終わってしまいやせぬか。それにしても革張りリクライニングの高級シートで映画見てると160分なんてぜんぜん疲れもせず、HK$95はお得。

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