富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2006-10-27

十月廿七日(金)秋の快晴の空。ドビッシーのプレリュードをArturo Benedetti Michelangeliのピアノで聴く。そういう気分の青空。恒生指数史上最高値。余の日々の暮らしになんら影響もなし。ただ酒を飲むばかり。本晩東京にて畏友村上湛君の脚本で中村京蔵丈の『山月記』の舞台あり。我が母も参観。会場にて村上君の紹介にて母、築地のH君と初めて会った由。この山月記は村上君よりご厚意で当日配布の台本と村上君の挨拶文をさきに見せていただく。山月記能舞台で紋服姿の李徴役(シテ方)、袁サン(「人」扁に旁が「袁」)(ワキ方)により演じられ義太夫ガムランの打奏。李徴と袁サンの科白ほぼ原作踏襲するが竹本の太夫の語り文句が脚本で読むととても良い。本日は葵太夫
▼安倍三世首相就任から一ヶ月。穏健姿勢見せ朝日新聞からのまずは合格、などと言われているが官邸での「ぶら下がり取材」も即興とハグラカシの前任者に比べ20分程度準備して臨むそうで北朝鮮のことなら俄然弁舌優れるが内政となるとイマイチ。広告批評の島本路子編集長の
安倍さんの言葉は形容詞とカタカナ語が多く、分かったつもりで言葉がつるつるすべって理解できない。小泉さんは「自民党をぶっ壊す」など身近でインパクトあったが、安倍さんは借り物のようでリアリティーがない。優等生的なだけに、美しい言葉の陰でとんでもないことをするのでは、と心配になる。見た目は良いが、古い政治家を見ているようだ。
という厳しい指摘(朝日)。公明党の太田代表の「国の基本にかかわることはセンター前ヒットが基本だ。右翼線二塁打もたまにはいいが、何でもかんでも右翼線二塁打ばかりでは、幅広い国民の支持は得られない」と。所詮、三塁打でも勿論、ホームランでもなく、かといってヒットでもなく二塁打、というのが安倍三世、公明党にも完全に見縊られているか。ところで安倍三世一昨日など午前11時40分に東京都知事が官邸訪れ首相と面談。午後の予定は2時からの財界人とのアポ。昼食とりながら石原先輩の教えでも請うたのかしら。早稲田の大学院でア太地域研究する鄭然太氏(韓国ポスコジャパン経営企画部次長)が安倍新政権は「美しいアジア」を目指せ、と。御意。ところで、朝日新聞の政治部がこのところ元気。自虐史観の烙印押されて久しい朝日だが「歴史と向き合う」で最近はいわゆる「保守」の矛盾、とくに後藤田先生や亀井静香チャンばかりか小泉三世の御世になってからの中曽根大勲位ナベツネさんといった保守派の大物の現体制に対する不快感あたりから(ナベツネさんが朝日の『論座』で小泉靖国に疑問呈したあたりから)朝日が元気。「帝国の記憶」の連載でも文藝春秋や諸君といった右翼誌が90年代から自衛戦争論、侵略戦争否定、アジア解放など論調とすること取上げ、これに対して林健太郎氏の反論や産経新聞の故・柴田穂論説委員長の「多くの日本国民は、かつて日本が中国を侵略し、中国人民に多大な危害を加えたことを知っており、その愚を二度と繰り返してはならないことを深く認識している」(85年11月28日産経新聞)など紹介し、その保守の良識が今日の右翼雑誌では『正論』05年8月号で兵藤二十八「シナ側こそが侵略者」や同10月号の中村粲蘆溝橋事件発生と拡大の責任は略々全面的に中国側にある」といった極論へと暴走に疑問呈す。縄文人河野洋平衆議院議長もインタビューで見事に自民党ハト派らしく侵略戦争の事実、戦争の悲惨さ、当時の政府の戦争責任、兵士の餓死など軍部の無策、東京裁判の評価などに論及。このへんが自民党最後の良識か。晩のNHKのNW9で中学生の「相次ぐ」いじめ苦にした悩みだの自殺の報道。教師のいじめに遭い自殺する子どもたち、と相変わらず「まるで昨日今日始まったが如き」お下劣な報道。NHKのニュースセンター、バカの骨頂。余も自慢ではないが忘れもせぬ小学2年生の時の担任Y教諭。依怙贔屓に怠慢、児童情報の無闇矢鱈の公開など非常識。この初老の女性をただただ哀れむ。小学4年の時の担任S教諭など余がちょいと掃除の時間に面倒だから、と菷で集めた綿ゴミを整頓棚の下にささっと掃いたらS教諭、あたくしの家が飲食業営むこと取上げ「F君のお店は汚くて食べになんていけないわねっ!」と、而もS教諭、当時、勤務時間中に木目込人形の製作に余念なく、その掃除時間中も木目込人形作りながらの暴言。但し余は自殺もせず子どもながらに、この教諭の余りの思慮の浅さに「あーあ、まったく」で済んだ程度。イエス=キリストの如く?罪人の過ちを赦す、その肝心。今の子どもに果たしてそれが欠如するのか。否、ただマスコミが「また、いじめを苦にした子どもの自殺が相次いでいます」といったバカな「報道」が子どもをば自殺に追いやる。朝日で加藤周一氏の夕陽妄語核兵器三題」読む。
(要旨)冷静とともに米ソの核武装均衡も破れ小国の核武装。それに対抗するのが核不拡散条約。ただし不平等。国連加盟国の一部(例えばフランス)には核武装赦しイタリアには認めぬ。中国がなぜ核保有国で印度はダメか。また安保理常任理事国は五カ国とも核武装国だが米国の寡占による不平等もあり。
(以下、文尾転載)私は死にどういう意味も見いださない。なぜ彼が、彼女が、死ななければならなかったか、理由はない。理由があるとすれば、生きているという理由だけだ。私は多くの価値を相対する。広島の焼け跡を見ながら、どうしてそうしないことができようか。しかし生きていることそれ自身だけは例外である。何かに意味があるとすれば、今ここに生きていることの他にあるはずがない、と私は考える。そして戦争に反対する。
▼一昨日の安倍三世主宰教育差遺制会議でいじめの問題につき教育委員会が事実隠蔽など槍玉に挙がり教育委員会制度見直しだの俎上に上がる。まったくもって「よー、言うわ、ほんま」。ヤンキー義家先生などどこで教えてもらったのか「教委と事務方、組合がつながって隠蔽が蔓延っている現実がある」と指摘。本来、戦後の教育制度は教育制度の民主化のために各地方自治体で公選制の教育委員会が設けられ「教育の赤化」恐れた自民党政府が無理矢理、公選制から首長任命制にしたもの。それを今さら。御用組織と化した教委の罪悪とか公選制を任命制にして管理統制強めた自民党政府自身が責任を感じるべきで、教育基本法が悪いなどと宣う前に自らを叱責すべき。
▼08年の北京オリムピックも結局は米国帝国主義の前ではIOCが競泳、体操など競技をば午前中=米国の野暮な連中相手のゴールデンタイム放映時間に合わせる決定。
朝日新聞が「秋の読書週間」で敢えて親中派という揶揄、罵声に応じるかのように見開きで「中国の今に迫る」と中国特集。90年秋だったか広東省従化温泉の湯治にご一緒した高原明生・東大教授(当時は香港総領事館専門調査員)がいくつか中国関係の書籍挙げた上で
驚いたことに最近の日本の書店には感情的に中国を非難する本が並び、少し前まで中国の書店に日本批判の書が溢れていた情景を思わせる。弱い犬ほどよく吠えるというが、虚勢を張って相手を罵る本が受けるのは情けない。悪書が良書を駆逐するのを防ぐには、お互いがコンプレックスと思い込みを克服し、虚心坦懐、常に書き手の判断の根拠を問いつつ本を読むことが大切だ。
と述べている。
▼米国は中間選挙近し。民主党でアタクシがずっと応援するオバマ氏がここに来て人気急上昇。「オバマ」でググるググる、の使い方には注意、こちら)とようやく長崎は雲仙の小浜町よりオバマ議員のヒット数多くなる。民主党は今更、ケリー&エドワーズの04年落選組ぢゃあるまいしヒラリー夫人かオバマ氏か。黒人は時期尚早で「まだ女のほうがマシ」は米国のド田舎の本音か。
▼今季の香港馬の期待の星Danacourt負傷。明日の重賞レース出場取消し12月の国際重賞も参戦危ぶまれる。馬主W氏のSunny Sing(新力升)有利かも。
▼張子の虎、と噂もあるマイクロソフト社の次世代OS、ヰンドウズヴィスタについて。複数開いたヰンドウの立体的表示、後ろから透けて見える、検索キーワードの入力欄など、アップル社のMacintoshでは旧石器時代の産物の如き機能搭載して次世代と名乗るダサさ。しかも現行ヰンドウズXPは09年1月でサポート終了。ビル=ゲイツ君が何億だか何十億だか慈善事業に寄付しようが、この愚の骨頂の「戦略」赦すまじ。
▼円楽師匠口座に再び。昨年十月脳血栓で倒れて以来。廿二日の鶴瓶の「無学の会」。文珍の「風来坊」に続き口座に上がり、昨年入院直前に口座で絶句の「紺屋高尾」四十分にわたり熱演の由。花魁をいまの人気芸人に喩えようとして人名出てこず「忘れました」と笑わせる一幕もあり。アタシが上野鈴本で落語聞き出したのが小学五、六年。中学の頃は畏友J君とも何度か。当時は圓生の絶頂期。口座に上がり憮然とした表情で「えぇ、最近のお若い方ならもうご存知ないことでしょうが」などと圓生の真似をしてみたり。でも「真似しても」全然面白くないのが圓生。当時の円楽といえば笑点で「名人、円楽です」などと宣い圓生師匠に怒られた若手。円楽はテレビ忙しく当時、高座で聞いた記憶なし。圓生が座敷で「ちょいとこちらにお坐りなさい」と円楽を叱る場面など真似して、圓生師匠がお茶を啜りぎょろっとした目で円楽を睨み……と十二歳の頃の酔狂。
▼九月に自称政治家Sir Donald行政長官が香港にとって経済への積極的不干渉政策(laissez-faire)の概念は80年代に当時の財政責任者が言及したに過ぎず政府は一環して「小さな政府」を目指している云々と述べ「もともと香港には経済への不干渉政策は存在しなかった」との立場を示しことにつき(九月十九日の日剰にもこれに関する記載あり)シカゴ経済学派の重鎮Milton Friedman先生がSir Donaldの発言に苦言呈す(十月十四日の日剰参照)。ふと思えば、このFriedman教授の十月六日のAsian Wall Street Journalでの論文(こちら)をきちんとまとめておらず。要旨は下記の通り。
半世紀前、香港の宗主国たる英国は社会主義的であり、John Cowperthwaiteなどの公務員は活路を香港において見出しレッセ=フェール政策(自由市場的資本主義政策)実施。第二次世界大戦、当時の香港の一人あたりのGDP宗主国英国の四分の一であったが1997年には英国とほぼ同額にまで経済成長を果たし、香港の成功が中国や他国を中央による計画経済から私企業と自由市場経済に向けさせ、結果、経済成長が続いている。中国の未来は経済の香港型への転換であり、これが香港の中国化より更に速度が速いこと。Sir Donaldは(とFriedman先生は呼んでいないが)“when there are obvious imperfections in the operation of the market mechanism”と語ったが、その「欠陥」は総じて政府が引き起こすもの。過去半世紀の香港経験は自由主義経済の手本であり目標である。
▼元プロレスラー大木金太郎こと金一氏逝去。享年77歳。プロレスラー年鑑で本名「金一」とあるのを見た時の驚き。なぜ韓国人が日本名で活躍するのか、と。72年の頭突き世界一決戦でのボボ=ブラジル選手との対決。力道山に憧れ釜山から密入国、逮捕され拘置所からの手紙に力道山が身元引受人になりデビュー。頭突きの後遺症による闘病生活であった由。

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