富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2006-10-02

十月二日(月)昨日の国慶節代休。今年も11月のTrailwalkerの100kmトレイル(西貢〜屯門)に申し込んだが幸運?にも抽選で外れ100km踏破の苦行せずに済んだが抽選に外れれば外れたで「歩きたい」と思うもので今年もこの100kmを五、六区間に分けて縦走を企画。本日はその第一回目で始点の北潭涌より香港で最も美しき海岸の点在する西湾のほうを歩き北潭凹までの24.1kmのトレイルは海抜0mより歩き始め最高は西湾山の314mで大したことはないが海岸に下ること三度で途中何度か峠越えもあり通常なら走らねば最速で六時間。いつものメンツはあたくしを含む3名にバーYの元陸上部T君、それに健脚の若いC嬢、A嬢も傘下され途中、西湾の茶屋で少し寛ぎ六時間半かからず24.1kmを踏破。西貢に午後遅く戻り御用達の酒場The Duke of Yorkにてステラアルトワ麦酒で喉を潤す。アルピニストのO氏より「そこに山があるから」の逸話を聞く。登山というと「そこに山があるから」が決まって語られるが、そうそう、1920年代の英国の登山家でエベレスト山で遭難死したGeorge Malloryは紐育での新聞取材で「なぜエベレストに登るのか」という質問に世界最高峰の処女峰が"Because it is there"と答えたもの。まだ真っ当であった頃の本多勝一がこれについて何度か書いていたのを読んだ記憶あり。そこにエベレストがあるから、が日本では藤木九三(朝日新聞記者、登山家)により「そこに山があるから」と意訳され今日まで広まる。早晩に海鮮堪能の同行の彼らと別れ独り名前失念の麺屋に麺と汁はイマイチだが海老の雲呑だけは見事な雲呑麺食す。ミニバスで帰途急ぐが日曜早晩に西貢市街出るだけで自動車渋滞。坑口よりMTRで中環に急ぎIFCの映画館に約10分遅れで飛び込みZ嬢と、根岸吉太郎監督の映画『雪に願うこと』見る。原作は帯広在住の作家、鳴海章の小説「輓馬」。輓馬による「ばんえい競馬」の厩舎が舞台。百年ぶりに文部科学省特選、少年、家族向けの「人間のやさしさ」なんて主題の映画を見た感あり。輓曳競馬が舞台でなければきっと見なかった鴨。いや四十代でいい味を出す小泉今日子の演技だけでも必見か。昨年の東京国際映画祭でグランプリ、監督賞、最優秀男優賞、観客賞の四冠を受賞だそうで、この映画は映画でこういう作品でいいが、映画祭的には他にグランプリ候補も最優秀監督や男優がいなかったのか、観客も他の映画を見つけられなかったのか、と疑問。だが日本映画のグランプリ受賞が相米慎二監督の『台風クラブ』以来のことと知り、へんに「なるほど」と東京国際映画祭で日本映画に求められるもの、を納得。相米慎二といえば、この映画はもともと相米監督が映画化目指し相米監督の他界(01年)で根岸監督が意志を引き継いだものの由。この映画に出演の佐藤浩市、あたくしにはデビュー間もない頃の深作欣二の『道頓堀川』の印象強いのだが、相米監督の『魚影の群れ』に出演、と思い出す。相米監督といえば思い出すのは蔡瀾が(あえて呼び捨てにするが)相米監督の死の直後に相米監督の映画について蘋果日報の随筆で書いたのだが蔡瀾はその追悼の文章の最後を「若くしての急逝はもしかして愛滋病か?」と結ぶ。蔡瀾本人が面識ある映画監督の死をこう随筆で茶化すことは映画人として最低の行為と余は憤り覺えざるを得ず。映画終わって上環まで歩き梨花苑にて朝鮮料理食す。Quarry Bayで編集者S嬢より制作中の記録片のDVDのマスタコピー受領して帰宅。
▼九龍は太子の上海澡堂「浴徳池」閉業。香港での開業から52年。経営者自身と建物の老朽化、地域再開発の煽りで香港に唯一の上海式の風呂屋は歴史に消える。上海に同名の浴室もあり(天津路)。この浴徳池の風呂場のタイル張りの見事さ、龍頭を模した蛇口など有名。いくつかの映画の舞台となり著・胡恩威の『香港風格』ではこの風呂屋のことが書かれ表紙には、そのタイル張りと“龍口”の写真あり。

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