富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2006-09-24

九月廿四日(日)曇。昼過ぎ迄ジムで筋力運動と有酸素運動各一時間。ジムからぼんやりと繁華街眺めていると「大熊本」という「西洋料理」の店あり。「旺角の伊東屋」中南図書にて細々した文房具購う。MTRで中環。Dunhillでキーホルダー購う。素敵な新作のショルダーバッグあり。我慢。十年以上前に製造発売中止になったはず(倫敦にはあるが香港では販売中止なの鴨)のダンヒルの傘も店頭にあり。新作らしいが一見してあまりにチープな作りで、太めだし布カバーもついておらぬし、何より傘の布の張りがあまりにも弱くて雨を跳ね返しも悪かろうHK$2,300とは呆れる。久々にFCCでドライマティーニ一杯。一旦帰宅して早晩にZ嬢と尖沙咀。Jimmy's Kitchenに晩餐。今までに見たこともなき繁盛ぶり。中環の本店が三ヶ月だか改装中の煽りもあろうか。ハイボール二杯。蟹肉のラヴィオリと鴨の腿肉の薫製はいずれも前菜だがこの二皿とオニオンスープをZ嬢とシェアして、それでじゅうぶん。アップルクランベルタルトとエスプレッソ。音楽会の前はこれくらいが適量。香港文化中心にて維納フィルハーモニー管弦楽団の二日間の香港公演の初日を聴く。指揮はValery Gergiev(ワレリー・ゲルギエフ)。昨晩ペニンスラホテルのバーで遭遇の方々は制作サイドか、と思ったが第1バイオリン2名、クラリネット1名ともう一人の由。舞台に楽団員現われただけでやはり威風堂々。演奏前のチューニングの音からして音色が違う。モーツァルトのLa Clemenza Di Tito(皇帝ティートの慈悲)の序曲。ゲルギネフが指揮するショスタコーヴィッチの交響曲9番は秀逸。ピッコロとファゴットの演奏冴える。この曲は1945年に第二次世界大戦でのソ連勝利祝賀にショスタコーヴィッチにとって「第9」であるからスターリン政府は荘厳な合唱つきの歓喜あふれる壮大な曲を期待したのにショスタコーヴィッチの第9は橋本治的に「スターリン讃美なんて僕はしないもの!」で軽妙洒脱。これも起因して3年後の1948年にジダーノフ批判でショスタコーヴィッチは反革命的芸術家の烙印押されてしまうのだが、このショスタコービッチの権力に対するアンチテーゼ的な明るさをゲルギネフは見事に表現。後半はブラームス交響曲第4番。ヴァイオリンが第1ヴァイオリンと第2で二部合唱に聞こえるくらい美しい音色にただ茫然とする、が、この曲はウィーンフィルにとってゲルギネフのニンではない。バレンボイム指揮とかのほうがずっと引き立つ演奏だろう。ゲルギネフならウィーンフィルはやはりショスタコーヴィッチや当然のようにラフマニノフとか面白いだろう。アンコールは4番に続けてブラームスの匈牙利舞曲5番。もう一曲はおそらくヨハン=シュトラウスの舞曲の一曲(だと思うが知らない)。ブラームスもそりゃウィーンフィルだから凄いがショスタコーヴィッチの9番が今晩の収穫。明日はモーツァルト交響曲36番Linzとチャイコフスキーの5番。ゲルギネフならチャイコフスキーのほうがモーツァルトよかずっと面白いはず。ところで今晩のウィーンフィルは香港初、と思われそうだが実は1959年に、なんとウィーンフィルなのにカラヤンが指揮して香港で初演しており今回は実は二度目。ウィーンフィルカラヤンというのも好事家にはたまらないが、この1959年は日本でもカラヤンが指揮するウィーンフィル最初で最後の来日あり(こちら)。どこかの飛行機会社(おそらく当時ならパンナム航空くらいだろう)が世界一周航路の宣伝でウィーンフィルが40日間で世界一周する大企画があり(ちなみに映画『80日間世界一周』は1956年公開)、それでおそらく日本公演の次に香港に来たのだろうが、当然、香港は南回りの飛行機の拠点だったから、で、当時、まだ中環の市大会堂もなく、なんと銅鑼湾の利舞台(The Lee Theatre)でカラヤン指揮でウィーンフィルが演奏した、というのだから物凄い話(この逸話は今回のパンフレットにも出ておらぬ逸話)。で半年ほど前だったかのベルリンフィルに続く香港の実質上初公演に近いウィーンフィルであるからチケットも七月だか月曜日朝に発売数時間で売り切れ。今回確保できた席は1階5列目の舞台に向って左から8番目くらいのA席ではかなり上席(一つ右隣はS席でHK$1800!)。この席であるからヴァイオリンの旋律が流れ落ちてくるような感覚。ちなみにウィーンフィルは今回、ソウルで先週2日演奏あり、香港も2日、来週は中1日おいて豪州はシドニーだがウィーンフィルの豪州での演奏はなんと今回が初の由。

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