富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2006-08-19

八月十九日(土)走らずにバスで島南岸の海岸へ。西湾河から赤柱(Stanley)に向う14番のバスに乗車して今更ながら右手には大潭の湖水に豊かな水、遠くに見事な石橋とパーカー山、左手には断崖の下に海岸、で一面に緑、と見事な景観。海岸で読書。岩波『世界』八月号の残り半分。特集は「イラク占領は何をもたらしたか」。共同通信イラク派遣取材した石坂仁氏のサマワ取材での自衛隊報道の統制ぶりに関する文章一見の価値あり。メディア発達で戦争現場の報道など全て茶の間で見えているようでいて実際にどれだけ報道が統制されているか、の事実。臼杵陽(うすきあきら、日本女子大文学部教授、中東研究)の語る、米国によるアラブの民主化について「アラブ世界で民主化論がそれほど活発にならなかったのは、政治的アジェンダとしてプライオリティが低かったと考える方がわかりやすいだろう。重要だったのは、かつては帝国主義に対抗するアラブ・ナショナリズムであり、一九六七年の第三次中東戦争後はナショナリズムの代替としてのイスラーム主義であった」として、イスラム諸国にとって、欧米の帝国主義に寄生した「人種主義」としてイスラエルシオニズムがあり、「その眼前の敵の存在が、アラブ諸国の政治的アジェンダとして、イスラエルとの抵抗を上位に置く姿勢を決めてきた」とする。わかりやすい。吉次公介「知られざる日米安保体制の守護者、昭和天皇と冷戦」も面白い。戦後、憲法で象徴という立場となり国政に関与せぬはずの天皇が、実は日米安保体制について積極的な発言、間接的ではあるが介入をしていた事実。姜尚中の『オリエンタリズムの彼方へ』岩波現代文庫残り半分読了。姜尚中は在日で東京大学教授という、まさに「日本のサイード」。この本、第五章「世界システムのなかの民族とエスニシティ」が白眉。階級、エスノ、民族集団や国家といったものが資本主義世界経済のなかからシステムの制度として創出されたものであること、「過去の記憶」の所産。フランスの政治学者Ernest Renanの“Qu'est-ce qu'une nation?”(国民とは何か)からの引用「国民の本質とは、すべての個人が多くの事柄を共有し、全員が多くのことを忘れていることです」。午後、バスで湾仔。毎夏恒例の「書展」(ブックフェア)終わっているのにコンベンションセンターに向う恐ろしい人出に何事かと思えば同会場にて「美食展」開催中の由。グルメ食品のタダ食いか。ジムで久々に筋力運動と有酸素運動を各一時間。Delaney'sに寄りギネス1パイント飲み帰宅。モヒート。パスタ食す。NHK@ヒューマンなる番組で終戦記念日靖国支持、反対の若者に密着取材、とか映画「蟻と兵隊」を取り上げたり、スタジオには美輪明宏先生招き「戦争と愛」とか、企画はいいのだが如何せん司会と出てくる若者、それに百マス計算校長が拙く、アイデア活かせておらず。岩波『世界』9月号読了。自民党の良心・山崎拓さんが靖国問題について語る。北朝鮮のミサイル発射は(官房長官の発言とは異なる見方で)、あれは「北朝鮮の閉塞感を示している」ものと理解。これは山拓さんの、北朝鮮の核問題の解決は「日本の一部にある核武装論を抑えるために大切」という持論に結びつくもの。靖国問題は「小泉政権が終われば消滅する問題」と見方示すが、次期首相が靖国公式参拝をせぬと、今度はマスコミが「中国の圧力に屈するのか」とナショナリズムを掻き立てる、マスコミの責任に論及。テレビのレベルの低さ、勇ましくやろう、というまるで戦前回帰、敗戦から学んだことを忘れ昔の軍国主義に戻りつつある、と山拓さんの警笛。ところで加藤紘一さんの自宅放火「テロ」について小泉三世と安倍二世(岸三世)は終戦記念日午後から夏休み中で一切のコメントなし。『世界』9月号では保坂正康「靖国神社A級戦犯」、John Breen「靖国……歴史記憶の形成と喪失」の2本が秀逸。保坂氏の指摘は、昭和天皇の発言で脚光浴びたA級戦犯合祀の松平宮司の思想について。松平宮司の著作によれば「私は就任前から、「すべて日本が悪い」という東京裁判史観を否定しないかぎり、日本の精神復興はできないと考えておりました」で、じつは就任前から靖国神社の総代会などからA級戦犯合祀は既定だが宮司預かりとなっていた事実。松平宮司の考えは、昭和廿年の八月十五日は天皇の命により「一切の交戦行為をやめた」日だが「むこうが撃ち込んできたときは、応戦せよ」との但書きがあり。で対米戦争の戦闘が終わったのは国際法上は昭和廿七年四月廿八日(サンフランシスコ平和条約締結)で、それまでの時期(戦闘状態にあった!)に行われた東京裁判は軍事裁判で、そこで処刑された人々(A級戦犯など)は、戦闘状態の最中に敵に殺された「つまり戦場で亡くなった方と、処刑された方は同じなんです」と。わかりやすい。で、そういう人を宮司とした総代会は東条英機内閣の時の蔵相や大東亜相といった自らもA級戦犯だった人がメンバー。合祀にかかわった厚生省の引揚援護局というのも元陸軍参謀など厚生省内では別格的職場。そういうところで、東京裁判の否定、A級戦犯の免罪、太平洋戦争の敗戦の否定、が物語れる。であるから、保坂氏は、とても靖国を首相が「心の問題」だの「他者からあれこれいわれる筋合いではない」と片づけられない、とする。御意。昭和天皇はこの作為をば見抜いて、それで率直に不快感示したのであろう、と保坂氏。本来、親皇派であるはずが、天皇の意志、聖慮にまで叛いての作為。英国倫敦大学SOASの碩学、John Breen氏は達者な日本語で、靖国という「記憶の場」、その記憶により語られる歴史の歪み、を指摘。靖国では慰霊祭の宮司祝詞を聞けば「天皇陛下のしろしめすこの国と天皇陛下の大御代が、永遠に、そして威厳をもって続きますよう」と「英霊」は戦没後も軍人として戦っていた時と同じく天皇を護ることに大義あり。戦没は悲劇でなく賞讃すべき名誉。戦争は敗北に終わったが、やはり有意義で名誉ある戦いであった、という記憶の神話化。靖国にある遊就館での「敵の姿の、不思議な不在」。「今日の日本の平和と繁栄が、戦没者尊い犠牲の上に成り立っている」とする小泉三世らの「礎」論の史的根拠の無さ。確かにそうである、小泉三世のいう戦没者は特攻隊隊員であり、三木清を祀っているのぢゃないのだから。靖国神社にしてみれば天皇、首相が参拝することにより企図するのは日本の国家としての国民のモラルの昂揚、それは神社が戦没者を政治的に利用しているのであり、純粋な慰霊、悲しみ、反省をもとにした追悼はできず、とBreen氏。卓見。ところで裕仁天皇を描いた映画『太陽』について四方田犬彦氏の映画評読みたい、と思っていたが『世界』のこの号にあり。「映像による人間宣言」という題。このアレクサンドル=ソクーロフ監督の作品につき四方田氏は大方好意的だが、一つだけ天皇マッカーサーの会見につき「完結に纏められすぎていて、成功していない」として「戦争犯罪をめぐる討論が回避されている」と指摘。はたしてそうだろうか疑問。四方田氏の言う通り「時間の推移はきわめて朦朧とした調子」で「文章の喩えでいうならば厳密な句読点が施されていない」「結果、出来ごとは曖昧に準備され曖昧に生起することになる」なかで「すべてが終わり残響だけが遺されているなかで、観客は何か決定的なことが生じてしまったのだ、と遅れて気づくことになる」という、四方田氏の的確なこの映画への指摘に従うならば、そのようななかで、天皇マッカーサーにどう具体的に戦争責任について語らせよう、というのかしら。疑問。ところで映画『太陽』は日本でも好評、と先日、築地のH君と村上湛君に聞く。右翼の暴漢に狙われるのではないか?とすら言われていたイッセー尾形氏は決断でこの映画に出演し、好演、が結果的に成功。桃井かおり女史も今にして思えば、NHKトーク番組「夢・音楽館」の司会を一昨年だったか「米国での映画出演のため」と放送途中に中村雅俊にだったかバトンタッチしたが、この『太陽』での皇后役も退役の理由に絡んでいなかったのかしら。ふと気になる。
▼日本から超党派日華議員懇談会の議員らが訪台。黄昏の亜扁総統と会見。で今回はこの議員団訪台に合わせ大相撲の台湾巡業あり。これは1936年以来70年ぶり「戦後初」というのが台湾ならでは。で力士らも亜扁総統に謁見したが傑作なのが横綱朝青龍の着物姿で、着物の絵柄は万里の長城。台湾独立路線の民進党政権にとって総統謁見に「万里の長城」も御法度なら、朝青龍も中国出身なら「万里の長城」もわかるがモンゴル出身の彼はいわば長城によって防がれた辺境の異民族の末裔だろうに。ところで李登輝先生も今回の台北場所はご覧になったのだろうか。向う正面一列六、控えの行司の隣、あたりに李登輝先生がいたら往年の高橋義孝先生とでも間違えた鴨。横綱審議委員シラク閣下、デーモン小暮閣下に続き李登輝閣下も推挙したいところ。
2chに小泉三世の靖国参拝インタビュー(亀田版)あり。傑作。
Q. まず最初に一言
A. どんなもんじゃーい!
Q. 参拝なさった心境は?
A. まだ実感ないな
Q. なぜ、8月15日を選んだのか?
A. オレ流のサプライズや
Q. 中国・韓国が反発していますが?
A. 言いたいことがあったら言ったらええ、人それぞれ、いろんな見方があるからな。
Q .国内からも、参拝に批判的な声が上がっていますが?
A. それぞれ判断基準があるからな。 でも、オレは公約を守るだけやから。
と「答え」はすべて拳闘の亀田君の実際の発言だとか。確かにそのまま首相発言としてもよろしかろう。

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