富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2006-04-08

四月八日(土)午前、先日上映取消しで見逃しの“One Day in Europe”を銅鑼湾UA映画館で観る。期待通りの秀作。モスクワで欧州サッカーのリーグ決勝戦が開催される日、モスクワ、イスタンブール、Santiago de Compostelaとベルリンを舞台に「旅人が旅の途中で携帯品を盗まれたり保険金目当てで盗まれたことにしたり」という同じ設定で話が進むのだが、欧州のどの都市でも市民も警察もサッカー中継に釘付け、それぞれの土地の人柄も見事に描く。こういう作品ができる欧州が羨ましい、とアジアで思う。映画が終わり突然リカーが飲みたくなり(恐らくモスクワのシーンでオバサン二人の飲んだウオツカに触発されたのだろう)Citysuperでドライジン小瓶購い(ウオツカの小瓶なし)クイっと一杯。昼から同じUAで李玉監督『紅顔』を観る。これも当たり。中国映画の洗練ぶり。四川省の美しい川沿いの古鎮を舞台に16歳の少女の妊娠から話は始まり10年後、とありきたりのような筋だが少女、10年後にはどさ回りの川劇の女優役の劉誼と子ども役の少年の演技の見事なこと。何洪記にて牛南カレー飯を食す。昼遅くなのに行列。此処の牛南カレー飯はHK$46と普通の茶餐庁の倍の値段。それぢゃ「2倍美味しいか」と言われると返答に窮する。銅鑼湾の老舗だが新宿中村屋のカリーとか、銀座で資生堂パーラーなり煉瓦亭でハヤシライスなど食する時ほど納得もせぬのだが。尖沙咀に渡る。香港文化中心にてメキシコ映画“Batalla en el cielo(Battle in Heaven)”観る。奇才Carlos Reygadas監督。あたしゃどうもこのテの観念的な作品はよくわからぬ。映画は冒頭からいかにも卯建の上がらなそうな中年のデブ親父を美女が口交するシーンから始まり而もデブ親父は軍隊の運転手で美女は上官の娘ときたもんだ。絶対にあり得ない情事なのだが、その常識を超えて成立してしまっているこの情愛が革命的なのだろう、きっと。後半は贖罪にテーマが移るし。口交シーンありで三級(成人)指定、で香港旅行中の大陸の田舎漢のオヤジ数名が旅路の記念に、と三級片を、と参観したようで上映後に「???」な表情もさもありなむな話。映画上映の間は海野弘の本など少し読み文化中心に戻り晩に監督は張元の『看上去很美』を観る。これまで社会派作品多く、公園で相手探し中に警官に捕まったゲイと警官の交番での徹夜の会話が続く『東宮西宮』など『蜘蛛女のキス』に匹敵の会話劇もある張元監督が保育園舞台に幼児をば主人公にして?というのはかなり驚く、が、さすが張元、こう来たか、とファンとして納得の保育園映画。舞台はおそらく北京の全寮制の保育園。孤児院でないのは主人公の方槍槍は両親とも党政府の上級職。両親が仕事に忙しく地方にそれぞれ配属されたりで党政府の高級公務員の子女多き保育園であることは、その古い祠堂を用いた校舎といい北京の中南海のような赤い壁に囲まれた緑多き静かな環境といい明らか。幼児であっても効能主義と賞罰が徹底し<教育>が施される様はフーコー的で張元の徹底した保育園の教育のディテールは大西巨人の『神聖喜劇』の域で管理徹底の教育が可笑しさすら映る。最初はこの保育園に溶け込めず教師を恐れていた槍槍君がご褒美の「赤い花」をもらうために「良い子」ぶり、次第に仲間を形成して奇妙なほど刑務所の監視人的な教員に幼児が集団で悪戯を仕掛けるほどにまでなるのだが度が過ぎると集団から隔離され反省を強いられ孤独の怖さに戦慄き集団に戻ること請うが今度は集団は上部(教師)からの命令で槍槍という造反者をシカトするよう仕向けられており造反者は集団で孤独なままに日を過すことになる。保育園舞台によくぞ此処まで撮った、とさすが張元と驚くばかり。珍しくマクドナルド。ライスバーガー食す。夜遅く香港島に戻りZ嬢と待ち合せ金鐘のTamar広場に特設の野外映画上映でシンガポールのJack Neo(梁智強)の“I Not Stupid Too”を観る。15歳の中学生の男子2人の「大人はわかってくれない」で非行に走る「中学生日記」だがシンガポール社会の直面する問題などもテーマとして大きく、しかも面白可笑しさは父親役で出演もしている梁智強の強み。この作品は三年前だかに“I Not Stupid”という作品あり12歳の少年二人と年下の弟を主人公にした映画があり今回はその時の主人公の少年3人がそのまま3年後、のお話。梁智強監督はこの映画はこれからも4年に一度で少年たちが成長する姿を作品にしたい、と語る。シンガポールではRoyston Tan監督が先日観た“4:30”で11歳の少年の葛藤、二年前には文字通り“15”で15歳を描いているがRoyston Tanは両作品とも家族などいない。少年たちは個として孤独に社会で?かなければならぬ。それに対して梁智強の一連の作品は少なくとも家族がいて家族も問題多いのだが最後はハッピーエンドなだけ、まだ「健全」というカテゴリーか、そういう意味で「中学生日記」だね、とZ嬢と話す。カタログには95分とあるが2時間たっぷり。弟役の子がトリックスター的に物語の語り部なのだが、途中、中学生のお兄ちゃんと友だちの非行に走るエピソードが饒舌すぎてもっと整理すべき。

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