富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2006-04-07

四月七日(金)晩に旺角UA映画館。若松孝二監督『17歳の風景』。会場で映画評論などされる畏友S嬢と邂逅。Z嬢来る。会場に若松監督来臨。上映に先立ち挨拶あり。岡山で母殺しの17歳の若者の逮捕される秋田までの17日間の旅がモチーフ。17歳の風景というタイトルから、大江健三郎の『セブンティーン』や尾崎豊、そして学校をさぼって二回観た柳町光男監督の『十九歳の地図』を思い出しながら少年(柄本佑)が東京から信州を越え日本海に出て冬の厳しい寒さと風雪のなか自転車でひらすら北上する風景をスクリーンにぼんやりと眺める。若松監督も17日間で撮影した、という。それにしても少年が偶然に出会う人は左翼的な老人(針生一郎)、政府の海域政策に愚弄される漁民、在日の老女(演じるは関えつ子、日本に強制連行され子どもの産めぬ身体となったものの結婚した夫は「北」へ渡ったまま、という) 。「つくる会」的な右翼の思想統制も不快だが、このモチーフにされた少年は北上の逃避行の最中に左翼的に目覚める必要もないわけで、そういう意味では映画の話は教条的。17日間も旅をするから、といって顔や服装が汚れたりヒゲが生えたり、そんなリアリズム(例えば北野武『Doll』や是枝裕和『誰も知らない』等での「汚れ」)はこの映画ではけして必要とは言わぬ。だが昨晩のSABU監督のV6映画でもそうだが、筋に重要に関わるところで、この『17歳の風景』では少年が自転車から転げ落ると自転車はそのまま坂道を下り続けガードレールにあたりチェーンが切れ前車輪破損。そんな、Dettoriのジャンプじゃないんだから(笑)自転車も倒れます、って。それに丈夫なロードバイクが坂をよろよろ走ってガードレールにぶつかって大破とは。演出のために自転車の車輪止める軸ネジなど外している撮影現場など想像すると「若松孝二のこの映画であるからこそ」興醒め。上映後に監督との質疑応答の時間あり。但し映画ぢたいの好き嫌いの関係なく映画の上映で監督や出演者が語ることを聞くのが苦手なので終演後すぐに会場を出てしまう。たとえ大好きな映画監督であろうとも映画は映画、であるから監督の映画についての語り、など聞きたくはない。この映画のシーンに17歳の親殺しの新聞読みながら同じ年くらいの高校生三人のラーメン屋でのラーメン食べながらの親や社会への不平不満の鼎談あり。この場面もあまりに高校生の会話が脚本で出来過ぎていて不自然。兆民の『三醉人經綸問答』ぢゃないんだから。ただこのシーン眺めていてZ嬢が「ラーメン食べたい」と所望し旺角UAより風俗街Portland Stをば社会見学しながら散歩して油麻地のらーめん横綱に食す。十人ほど店外に待ち客ありの繁盛。隣店で麦酒購いちびちび飲みながら入店を待つ。結局あちこちに日本らーめん専門店出来てはいるが結局、この横綱尖沙咀の一平安が香港で普通に落ち着いたらーめん。地下鉄で中環。市大会堂。三池崇史監督のホラー映画『Impact』観る。工藤夕貴主演。原作は岩井志麻子ぼっけえ、きょうてえ』(角川ホラー文庫)。で制作は角川ヘラルドでキャスト全てが英語で完全な米国向け(欧州ぢゃない)ホラー映画。どうでもいいけどセンセーショナルにするしかないジャンル。米国映画で中国の女優使った花魁芸者映画には日本でかなり批判もあったようだが、日本の花街だの貧困だの、この『Impact』もかなり米国人が喜びそうな恥部世界で描いてみせているわけで、そういった意味ではこの映画こそ保守反動右翼の諸君など角川書店に何故抗議せぬのか不思議……というか日本では北海道の映画祭でこの春上映されただけか。例えば米国や中国やフランス、その他どの国でもそうだろうが、例えば他国に偏見的に自国を描かれることはあっても、自国をばここまで徹底的に恥部的要素で描きホラーとして楽しい、と感じられることぢたい日本は(昨日の日剰に綴った劉健威兄の感想の通り)かなり変であるのは確か。

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