富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2006-04-06

四月六日(木)毎週木曜日恒例の小泉メールマガジン。「初心忘れるべからず」という題に確かに小泉三世ほど5年前に総理就任での野望忘れておらぬ人はある面では大したもの。今日の話題はやはり先日の荒川きん嬢とのプッチーニのオペラ「トゥーランドット」観賞。やはり「これは私の大好きなオペラの一つ」で、首相在任が中曽根大勲位抜いて吉田茂佐藤栄作に続いた小泉三世「出演者の熱唱と力強いオーケストラの演奏、金メダリストとともに最高のオペラを鑑賞できるとは、私には運がついていると思いました」と有頂天。確かに運がいいことだけは認めよう。
総理に就任して5年近く。一人の平凡な人間が、ここまでやってこられたのは、多くの国民のみなさんのご支援、ご協力があったこと、そして運が良かったということだと思います。いつも何かに守られている、国民のみなさんが支持してくれている、運がいいな、と思いながら、精一杯頑張らなければならないと思っています。
そう、確かに。彼がここまで長期政権で絶好調なのは国民の支持があるから。小泉三世本人に罪は無い。で本日、諸事忙殺され滑り込みで銅鑼湾UA映画館。SABU監督のV6映画“Hold Up Down”観る。長蛇の列。ほとんどがV6のファン。SABU監督は堤真一主演の“Monday”という作品からこの映画祭常連。前作“Hard Luck Hero”だったかに続くV6が出て犯罪おこしたり巻き込まれたりのドタバタで……は同じ。前回の作品がカーチェイスにこだわったのに対して今回は若い強盗(井丿原、三宅)、警察(坂本、長野)に神父(森田)とヒッピー(岡田)という配役で彼らが事件に巻き込まれ、の展開はけっこう笑えるドタバタ喜劇。だが残念なのは彼らがハプニング的に巻き込まれる処までは良かったのだが全員が同じ方向に向かって追いかけっこ始めてからは筋が収拾つかなくなり香港の三流アクション映画の如き乱闘シーンや幽霊シーンなど意味不明。当初からかなり爆笑していた館内も途中から「V6が出てきただけでウケるファン」除き笑いが停る。あらためて007シリーズやスピルバーグ作品など最初から最後まで「手に汗にぎる」凄さ痛感。この映画の筋であればハプニング的に事件に巻き込まれた素性異なる6人が大騒動のなか仕方なく協力し警視庁あげての捜査線掻潜り逃げ切るような展開のほうがよかったはず。冷凍になったヒッピーがなぜ溶けぬのか、冷凍の臭かったはずのヒッピーが溶けたらなぜ小奇麗なのか、なぜ彼らが乱闘始めたのか、幽霊シーンは何なのか、なぜ警察の追っ手が朝まで到着しないのか、なぜ神父だけが刑務所に入っているのか、などドタバタ作品とはいえ辻褄の合わぬ点多すぎ。SABU監督には監督自身に堤真一と共犯役で出演望みたいところ。尖沙咀Citysuperのフードコートで評判の鹿児島阿久根らーめん銅鑼湾に開店と聞き旧・華潤百貨のビルに向かうが階上への入口いっこうに見つからず三越側の狭いエレベータでようやく上がる。阿久根らーめん初めて食す。店員頗る愛想よし。店を出てからこのフロアへは銅鑼湾広場からの横断歩道橋から直接入る、と知る。UA映画館に戻る。鈴木清順監督『オペレッタ狸御殿』。傑作。清順監督、老いて尚お痛快。映画で「狸御殿」と聞くと「ひばりの」とすぐに連想し「七変化狸御殿」など口ずさむのは余の齢ゆゑ。佐藤忠男氏は清順監督の『ツィゴイネルワイゼン』で
鈴木清順監督は、リアリズムが嫌い、建設的なテーマが嫌いで、もっぱら遊び三昧の境地に至るために映画を作っている稀有の映画作家である。めざすは現実を超えて夢見ごこちの世界であり、官能的であって、しかも魂が浮遊するような喜びを与える時間空間である。その鈴木清順の美意識が長い模索をへてついに到達した最も○○な作品である。 ……○○は富柏村自らの抜き書きの乱筆読めず
と評しているが『オペレッタ狸御殿』こそ鈴木清順の美意識と芸術性の極致であろう。この映画は奇想天外であるように見えてシェークスピア以来の非情劇の伝統をきちんと押え、而も現代演劇で蜷川幸雄鈴木忠志などが目指す地点と同じところを「落とし所」にしている。而も、この鈴木清順初の時代劇を観ていると、この作品が「巨匠」黒澤明の『影武者』や『乱』への「痛快なるオマージュ?」であることも読み取れる。誤解していけないのは、黒澤時代劇へのアンチテーゼなのではない。鈴木清順黒澤明を相手に戦わない。土俵が違うのだ。「こういう世界もありますよ」と見せてくれる。その世界が素晴らしいから観ている我々は映画を観ている間は幸せになれる。終わって「なんだ、ありゃ」と笑顔になる。……とか佐藤忠男先生ならこんな調子で書くかも知れない。オダギリジョー章子怡を王子様とお姫様の主人公に、シェークスピア劇的なる父に平幹二朗と妃は由紀さおり、すっかり濃い役に馴染んだ薬師丸ひろ子高橋元太郎水戸黄門うっかり八兵衛)、山本太郎、そしてキーシン……否、パパイヤ鈴木など錚々たる顔ぶれの清順ワールド。清順監督は「わけのわからない映画を作る」から日活から放逐されたが今では「わけのわからない映画を作る」ことで香港の観客も心底楽しむ。愉快。深夜帰宅。SCMP紙に映画 “Isabella (伊沙貝拉)”について2本映画評あり。畏友Paul Fonoroff君はレンズを通してこの映画を評し、Clarence Tsuiなる評論家は主演の杜?澤(プロデューサーでもあり)のこの映画に至る心の経緯、模索を語る。
▼「伝説のバンド」などという陳腐な言い方はしたくないが村八分のCD全集と山口冨士夫の回顧本。村八分、ハードロックでは「紫」、しばらくしてPanta頭脳警察くらい迄は凄かった。
▼信報の林行止専欄にてタイのタクシン退陣の下りで、タクシンの曽祖父が広東省梅県出身の客家人とあり。税吏で財も残すがタクシンの生れた頃から家計傾きタクシンは中学卒業後に父の経営する珈琲屋など手伝い二十歳でバンコクの警察学校に入校。その後頭角表わし米国に国費留学で犯罪学などで博士号まで取得し……の、これ以降は有名な話。林行止曰く事業に成功し億万の財を得たものの心得は政界に進出せぬこと、と。香港の李嘉誠など見ればわかる通り。董建華は別(笑)、ありゃ億万の富を無くしての藁をも掴む中共からの庇護。
▼信報に時どき卓南生という京都龍谷大学教授の政治論評あり。ポスト小泉の自民党総裁レースにつき語るが題名が秀逸。阿倍小鷹與福田非鴿、と。タカ派だがヒヨッコの阿倍に対してハト派ではないがハト派という見方に納まった福田、と言い得て妙。
▼同じ信報の随筆で劉健威兄が日本の自衛隊の滑稽話を書いている。日本の劇作家の知人が取材で得た話、だそうで、福岡の自衛隊で取材してみると、自衛隊専守防衛が建前であるから自衛隊は絶対に先に開槍はできず相手が発槍したら反撃できること。それゆえ軍事訓練もまずは「相手の攻撃を避けること」の大事。福岡の基地といえば、もともと在日米軍基地跡地だが米軍撤退の後にここにはまず幼稚園と中学、老人ホームなど社会施設が建設され自衛隊は結局、敷地内のビルに納まる。福岡空港は民間の国際空港で自衛隊は空港の一部を借用。自衛隊本部から空港まで3kmあり空港では十数枚の書類に許可を得なければ空港自衛隊の飛行機は飛ばせず、その間に敵の攻撃受ければ福岡は廃虚、と。また海上自衛隊も日本離れ平和任務についてはいるが小型艦での出動で大海の大波に揺られ船酔い嘔吐も実は甚だし。戦艦の便所で嘔吐し続ける部下を上官が「それでも自衛隊にいたいのか?」と問うと敬礼して「他の仕事が見つかりません」と部下は素直に答えたと言う。中東に派兵されたくなければ命令は絶対だがスーパーで万引きでもすれば数週間、牢屋に入るだけで中東への任務も取り消される、という話もあり。劉兄曰く、日本の自衛隊の海外派兵だの軍国主義復活だのと中韓は憂慮するが、最も不思議なのは、そんなことより、日本人の考え方でその奇妙なところが時たま理解に苦しむことである、と。