富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2005-12-13

十二月十三日(火)曇。WTO閣僚会議開幕日。天后の地下鉄站は各所の消火器がケースにマスキングされ使用不可と表示あり。「過激派」団体が抗議活動に消火器用いることを防ぐためだろうか。消火設備である。偶然にも地下鉄で火事があった場合にどうしろ、と言うのだ。過剰警備の異常さ。午前十一時より銅鑼湾ヴィクトリア公園にて反WTOの民間団体の抗議集会あり。韓国からの参加者威勢よく日本からも農業団体だの組合、市民運動などいくつかの団体が参加。ヴィクトリア公園を出で銅鑼湾の繁華街を歩く。百貨店「そごう」がシャッター半ば降ろすはデモ開催日に見慣れた光景だがBody Shopが臨時休業は奇妙。Body Shopといえば自然環境保護だの人種差別だのに関心高い企業のはずで寧ろ反WTOの立場のようだが。根本の思想はどうであれあそこまで世界企業となると反WTOでは攻撃される立場と恐れるのだろうか。マクドナルドならわかるがシアトル会議での星巴珈琲といい、このBody Shopにしても、世界経済やグローバリズムの問題で加害者と被害者の立場が不安定な証左かも。Lockhart Rdを湾仔に進めば徐々に臨時休業の商店の数多し。この一帯は事の他、内装関係やインテリアの店多し。臨時休業はたんに過激デモ恐れて、に非ず、商売柄資材の運送ができなければ商売にならぬ業種でありほぼ全日自動車通行止めでは臨時休業も止むを得ぬこと。朝から賑わうのは麻雀荘なのも納得。昼になりStewart Rdの泉記に魚蛋粉河でも食そうかと思えば此処も臨時休業。Wanchai Rdの李景粥品専家は営業しており及第粥。それにしても昼時だというのに客は数名。Johnston Rdの三不賈で野葛菜水を飲む。健康に佳し。警察の厳重な警備のなかGloucester Rd渡り「禁区」であるWTO閣僚会議開催される香港会議展覧中心に入る。建物の入口で一度、入場証を確認。会場のプレスセンター入口で入場証のナンバーから開催事務局側がもつデータ上の写真と本人の顔を照合。最後に警察の荷物チェックと金属探知器潜りようやく入場。プレスの資料いくつか入手して、それ以上いても用事ないので退場しようとすると記者会見終えたWTOの親玉Pascal Lamy君に遭遇。反WTOの人々から見れば胡散臭き手品師。この人たちがスイスのジュネーブレマン湖岸の屋敷で世界貿易について画策するのだから遠いアジアや南米の農民はたまったものぢゃなかろう。午後2時にデモ隊がヴィクトリア公園出発して会議開催地に近い湾仔運動場までデモ行進あり。デモ隊はLockhart Rdをお練り、Marsh Rdから陸橋渡り沿岸に出るため陸橋の手前の交差点でデモを眺める。香港の地場の団体に続き東南アジアや南米などの団体、日本、で最後が韓国からの農民らの団体。過激なことで有名な韓国のデモ隊ゆへ扱いは先頭にせず、と主催者の配慮らしい。デモの終点は湾仔運動場で、そこで抗議集会の続きがあるのだと思っていたら実際の終点は運動場の敷地と鴻興道をはさんで海側のヘリポートの敷地内。かなり細長い場所で数千人のデモ隊がはいっても集会は前方ばかりで後方には内容が伝わりもせず。何のトラブルも衝突もないまま各地からの参加者の主張表明や歌などが続く。性風俗従業の女性たちも参加。性風俗WTO?だが、海外からの風俗嬢の流入自由化に反対の地場の風俗嬢という話ではなかろう。海外で不法に買春出稼ぎするのも故郷の農産業が不況で貧困によるもの、ということ。ヴィクトリア湾には警察や水上警備隊、消防の潜水隊などがボート十数艘も出して警備に当たる。過剰だろう、と思っていたが午後4時頃、韓国からの参加者の男たちが数十名、救命胴衣をつけて海に飛び込む。韓国の国旗を掲げ目指すは湾仔の波止場の向こうの会議開催会場。水上の警備側は阻止せずに抗議者らを泳がせ体力消耗したと思われる者は救助。警備側はマラソンの時にゴールで配布している保暖用のシートまで用意しておりボートで抗議地点まで運んでは陸揚げさせる。完ぺきに用意周到というか予定通り、というほどの対応。そもそも不思議なのは市街に異常なほどの障害物置いて警戒に当たるのにデモの到達地点が沿岸で高さ60cmほどの防波堤?越えれば海。「どうぞ飛び込んでください」と言っているようなもの。結局、十名ほどが湾仔フェリーの先、会議会場近くの岸まで泳ぎきり警察に保護される。その間に今度はこの終点から湾仔運動場側に出るゲートから「これでは納まらない」抗議集団が動き出す。抗議活動主催者側は「ここが終点」としており、その先は機動隊がお待ちかね。韓国の団体が機動隊と衝突。デモで担いできた御輿に火をつけ機動隊のほうに倒す。機動隊とかなり小競り合いとなり機動隊側は香港警察お得意の「胡椒スプレー」を抗議者に散布。この小競り合いは一時間ほど続き抗議者はその場に座り込むこと晩に至る。此処でも不思議なのは市街にあれほど障害物置いてデモ隊阻止しているのにもかかわらず、この鴻興道から会場に向かう道路には障害物置かずにいてデモ参加者の一部が終点から出ようとすると即座に機動隊が出てこれ以上先への侵入を阻止する。最初からわかっているのだから此処こそ巨大な障害物を置くかすればいいものを。まるで機動隊とデモ隊が衝突することを企図したようにしか思えず。終点を最初から湾仔運動場内にすれば海に飛び込むことも道路封鎖で機動隊と対峙することもない。なにか全てが衝突まで含め予定されていたかのような錯覚を覚える。予定調和の如し。不思議。早晩にデモの終点を離れ湾仔市街に戻る。今更WTO閣僚会議の会場に戻って晩の日本政府の派遣大使の記者会見聞くのも、でタクシーで中環。香港政府総部も物々しい警備。誰も今日は此処にデモには来ないのに。FCCにてステラアルトワの麦酒大一杯。五時間ぶりくらいに腰掛ける。テレビで抗議デモの実況中継。午後三時からのWTO閣僚会議での本会場でも会場に入った公認NGOの団体がPascal Lamy君の開会の挨拶の時に立ち上がって横断幕掲げ抗議。Lamy君はにやにやと笑いながら「世界で最も嫌われている世界組織がWTOなのだろうが」と軽口。新聞読みながらハイボール一杯。信報の林行止専欄(13日)が2001年のノーベル賞受賞の経済学者J. E. Stiglitz教授の近著“Fair Trade for all-How Trade can Promote Development”を紹介。前著でベストセラーの“Globalizatin and its discontents”についても言及。“Fair Trade”はいぜん信報の書評で紹介されていたのだが切り抜き紛失。Stiglitz教授は米国でクリントン政権での経済顧問。……と聞くとこの一連の著作も「ありがち」な政府御用学者の経済本、と思ってしまうとさに非ず。Stiglitz教授の凄いところは米国政府の経済顧問までしながら自由貿易が経済発展の最も有効な手段という点は譲らないにしても反グローバリゼーションについてはシンパシーを抱き、どうすれば後進国の経済回復が出来るか、の理論的取り組み。関税撤廃による自由貿易を世界規模で実施することが先進国に有利なだけで後進国はさらに貧困に陥る懸念から発展途上国以下の経済体については保護貿易を暫定的に活用し云々という「地球に優しい」経済開発理論。また経済成長に必要なのは貿易自由化よりも実は国内の政治の透明さや汚職贈賄の解消など国内問題のほうが(経済成長の)ずっと重要な要因であることなど分析している(……とここまで読んでないが)。米国政府の経済顧問までして、退職すればこの学究。大したもの。私大の三流経済学者が首相に抜擢され経済担当大臣になり調子に乗って与党から国会議員で大臣続任……とは「矜恃」に明らかに違いあり。でこの本を捜しに中環の香港書局に寄れば近著は数冊あるが前著は確か一冊あったが、で売り切れ。親切丁寧な店員が二人で他の客の取り置き一冊あるのを見つけ「今日はもう閉店で明朝イチで来ることないから」とその取り置きを「どうぞ」と。香港の取次ぎには間違いなくあるから明日仕入れればその客にも支障はない、と。嬉しいかぎり。帰宅。近所のスーパーに葡萄酒など買い出し。コロッケと玄米米NHKニュース10WTO閣僚会議のこと「報道」していたが、あれでゃ紹介。
▼Kuala LumpurでASEAN会議出席の小泉三世。香港の新聞やIHT紙などでは対中韓で小泉冷遇被ること取り上げられているが朝日新聞は一面にポスト小泉と政界再編成について語る小泉三世、で政治面に辛うじて市川速水さんのベタ記事で中韓が日本に対して正しい歴史認識求めることで一致という記事があるのみ。この致命的な温度差。そのポスト小泉と政界再編成だが森さんの安倍温存に対してチャンスを逃してはいけないと安倍二世(岸三世)への期待語り、民主党との大連立については「民主党も前原さんをおろしたい動きがあるようだ。そういう動きになると前原さんもどう出るかわかならい」と語り来年9月が自民党総裁選と民主党代表選が同時期に重なることから「政界再編は何かのきっかけでどうなっても不思議じゃない」と示唆。訪中しても中共首脳に会うこともできぬ民主党代表。前原某には対抗野党党首よりも自民党の派閥の若頭か切込み隊長が適役か。北京での記者会見でも「自分たちに都合の悪いことを言う国会議員には会わないという姿勢なら、仮に靖国の問題が解決したとしても、日中間の問題は永遠に解決されない」と前原某。「靖国神社参拝の問題とは別に、中国の軍事力の脅威については……」と中国で堂々と物申すことが政治家としての務め、と。誰もが、おそらく中国首脳も含め「これよか小泉さんのほうがまだマシ」と思う鴨。

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