富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2005-12-11

十二月十一日(日)快晴。ヴィクトリア公園にはすでに週明けのWTO閣僚会議での抗議活動する民間団体が集結。今日午後もデモあり。ちょっと様子を見るつもりが昨日の日剰綴り競馬の予想などしているうちに昼近くなり慌てて九龍塘経由で沙田競馬場に向かう。KCRの一等車の車内で競馬場に向かうであろう一見して豪州人の二人組に、この列車は競馬場経由か?と尋ねられ「勿論」と答えるが競馬場経由せぬ列車に誤乗。二人に深謝。火炭站から一緒に歩く。こちらから入るゲートが沙田競馬場の正門であること、競馬場站経由はKCRが特別料金なので火炭站だと安いこと、その差額でTriple Trioの馬券を買い当たれば億万長者になることなど教える。が列車間違えての弁明にすぎず。二人はやはり豪州人でメルボルンから来港。メルボルンの競馬場のクラブメンバーだそうな。普通の競馬好き。のんびり、がいい。余の帽子を讃められる。豪州人だからつば広の帽子が気に入ったようで「どこで売ってる?」と尋ねられ自信をもって「東京銀座のトラヤ」と教える。競馬場にて昨日再会の方々の他、コロンボ発券の航空券にて来港のK氏など再会。斎藤さんに須田鷹雄さんが早くもこの昨日の日剰を読まれ九龍の太子は「田端でなく鴬谷」だ、とコメントされていた、と聞く。確かに旺角を上野とした場合に太子は鴬谷。……いずれにしても田端の住民には失礼な喩え。で競馬であるが珍しいほどにHazeの靄が失せ快晴の空、かなりの競馬日和。それにしても来場者は多からずメンバー席は余裕で一行で着席可。香港ヴァース(2400m)は英国馬のOuija Boardが実力見せつける快走。日本のシックスセンスが二着に入り「これぢゃマイルもサンデーサイレンス系でハットトリックか」と半ば冗談。仏馬で来るのではないか、とWesternerからShamdalaに流してしまう。香港スプリントは三年連続と期待されたサイレンウィットネスの不参加で期待はCape of Good Hope(好望角=喜望峰)で日本からはアドマイアマックス。11月のトライアルではPlanet Ruler(紅旗飛揚)、Able Prince(歩歩勇)、Natural Blitz(電光火力)の着順で中でもNatural Blitzの仕上げ具合がいい予感。そのうえ東京から成沢さんが現場のいなご社長に携帯でこの三頭の連複の注文が入ったのも幸運の前兆か、と期待。結果、28倍のNatural Blitzが一着でPlanet RulerにAble Princeと続き見事な的中。三連単で498.5倍の高配当。55倍の連複も当たり。香港の国際レースで当てたのは実はこれだけ競馬していて初めてのこと。調子にのりR6の地場レースも穴狙いで狙った馬が棄権、次に狙った馬はゲートインで騎手振り落として暴走し退場すればいいのに(それなら返金である)出走決定し当然スタミナも残らず。やはりあまり幸運は続かない。で香港マイルは一番人気は地場のBullish Luck(牛精福星)で二番人気が安田記念アサクサデンエン。この馬の浅草田園という名前から浅草田圃、で荷風散人の話にまでこの日剰で言及したが、まさか来港しようとは。で結果はアサクサデンエン6着に沈みハットトリックが優勝。それに「いつも時々、力量見せる」地場のThe Duke(星運爵士)が続いては誰も選べぬ。誰も笑顔ないなかで「君が代」が流れる。競馬場には「自称政治家」行政長官Sir Donald夫妻あり。不遜なる尊顔に拝す。で本日の国際レースの有終の美は香港カップ。香港の期待は何といっても昨季のダービー馬でQE II CupからCharter Cup制したるVengeance of Rain(爪皇凌雨)。これを軸に我の馬券はアイルランドからのAlexander Goldrunに仏蘭西のPride、それに地場はCruz厩舎のRussian Pearlでかなり完璧であると内心、自画自賛。VoRさえくれば「あとは勝ったも同然」で強気でVoRを一着固定の軸馬に。やはり強さ見せつけたVoRであったが最後、放送作家村上さんが当然応援する(年末の特番、観てね)のPrideがかなり追い込み、それでもVoRはやはり強かった。青い勝負服(Russian Pearl)が三着で、これで「またも三連単!」と一瞬悦んだが「あれれ……」でRPは四着で三着には同じ青い勝負服だが英国馬Maraahelが(さすが国際レーティングで121の実力か、ちなみにVoRは119)入る。VoRは今年これでQE IIと香港カップの2勝で勝ち点24となり今年のWorld Racing Championshipを制す。香港馬が世界の馬王になろうとは……。感慨無量。ご一行と尖沙咀に戻り一旦みなさんホテルに戻りそれぞれ小憩。晩に復た集合してQuarry BayはTaikoo Placeの同楽軒にZ嬢も参って十名で食す。この食肆は春のQE II Cupの時に入江さんが所望され偶然訪れたら黒服の給仕S君が安田記念菊花賞まで熟知の競馬好きで話題盛り上がりワインのコレクションも含め納得。で今回も此処。かなりの盛況ぶり。葡萄酒は四本。どの料理も当然美味いが何より富豪炒飯が美味。この同楽軒のあるOxford Houseのロビー中央に我々が「脱糞」と呼ぶ青年の裸体像あり。ダヴィデ像のような勇姿にあらず何処か「恥ずかしそう」。尖沙咀泊まり組は北海道関係者もいるので札幌ラーメンの「さんぱち」に行くという話もあり解散。帰宅。Gordon BleuのブランデーでStingerでしたか、珍しくカクテルなどつくり心地よく飲む。
▼書評は評論家がいいと断然面白い、とあらためて痛感したのが朝日新聞書評でのアントニオ=ネグリ&マイケル=ハート共著『マルチチュード』で表すは柄谷行人。どうでげす旦那、おもしろさうでせう。この二人の話題となった『帝国』であったが実際には世界は911での米国の愚行から改めて帝国主義の時代となったわけで(ネグリ&ハートの提示した<帝国>は国家を超えた世界国家としての帝国であった、羅馬帝国のような)、而もその世界帝国を形成するはずであったマルチチュード(多衆、と柄谷先生は呼んでいる、一般的には群衆)だが現実にはイスラム世界で見られるようにそのマルチチュードイスラム原理主義などの民族主義に動いた……ということでネグリ&ハートが現状に合わせ理論を修正し新たな展望を見出そうとしたのが、この『マルチチュード』である、と柄谷先生は完結に「流れ」を紹介する、まず。でネグリ&ハートがマルチチュードが自由奔放に発現されれば世界の状況が変る、としていることから、この本をば『共産党宣言』を現代の文脈に取り戻そうとする試みで、それは帝国(資本)対マルチチュードプロレタリアート)の世界的対決とする。しかし……とここからが柄谷行人の白眉だが、
しかし、このような二元性は、諸国家の自立性を捨象する時にのみ想定される。こうした観点は神話的な喚起力をもち、実際、それは60年代には人々を動かしたのである。とはいえ、私は、このような疎外論的=神話的な思考をとるかぎり、一時的に情念をかき立てられたとしても、不毛な結果しかもらたさないと考える。グローバル資本主義(帝国)がどれほど深化しても、国家やネーションは消滅しない。それらは、資本とは別の原理によって存在するのだから。
と書評を結ぶ。なんてこった。評論の面白さ。そうだよね、柄谷先生の言う通り、このネグリ=ハートの発想、ちょうどゲイ解放運動で世界が変革されるみたいな発想、は甘いよね。……と書評を読んで思ってしまう感じ。やっぱり柄谷行人がいいな、でその「資本とは別の原理、って何なのよ」と柄谷行人の著作を読みたい、と思ってしまう。なんてこった。すごくいい。

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