富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十月廿五日(火)晴。早晩に帰宅途中にふと北角ジャワ道の「回味古法清湯南」にて牛南河粉を食す。部活帰りの学生ぢゃあるまいに、ただ肥満のもと。それにしても香港で「清湯」の極みの如きスープ。牛南も非常にあっさりと牛肉の旨味がとてもよくわかる。ずいぶん古い店と思っていたが新聞で紹介された切り抜きを読むと01年開業。店主が十数年の経験あり、と。ふと思ったのは上環のCleverly街だかに五年ほど前にあった清湯牛南の店。確か名前は「生記」で近所のお粥の老舗「生記」と同じ店名だったので記憶あり。やはりあっさりの味でよかったが二度目に訪れた時にはもう閉業。それで逸したが、この店の主人がその生記で働いていた、とか。推測だが。帰宅し昨日O氏より託された桂文楽のLPを録音。がLチャンネルのみ音が聞こえず何かと思えばアンプのPhone端子のLが不良。三十年以上前に父が家の新築の際に買ったヤマハのアンプでは不具合生じても当然か。無理やりターンテーブルをチューナー端子につなぐ。Line Outも壊れておりヘッドフォン端子もダメ。テープ録音など十年もしておらず古い録音機能ありのウォークマンに無理やりつなぎ劣悪なる音質で録音済ます。それにしても文楽の「寝床」の面白いこと。話芸の極み。会話は声色を変えたりする技量にあらず感情のもちようなのだ、とあらためて痛感。日本酒。雑煮。週末の新聞雑誌などたまっていたのをかなり読む。朝日新聞の衛星版では普通なら一日違いの加藤周一夕陽妄語」と梅原猛「反時代的密語」がなぜか紙面に並ぶ「豪華」ぶり。加藤先生は六十年前の廃虚から立ち上がった日本の近代を建築家・前川國男(1905〜86)など引き乍ら語られフランスの18世紀の思想家セナンクールの言葉を紹介する。
人間は所詮滅びるかもしれず、残されたものは虚無だけかもしれない。しかし抵抗しながら滅びようではないか。そして、そうなるのは正しいことではないと言うようにしよう。(渡辺一夫訳)
これを加藤周一は「廃虚からの思想」と呼ぶ。戦後が60年経っての今の絶望的状況で加藤先生の叫び。だが恐らく加藤周一など知らぬ人にすれば「?」で終わりなのかも知れない。加藤周一を知ってる人でも「そういえば『羊の歌』なんか読むと戦時中、敗戦後も同じようなこと言ってたよな」で「今さら」で終わってしまうのかも知れない。加藤周一がどれだけ苦悩しようとも加藤周一の言葉に耳傾ける人は少なくテレビで「ちょっと見ただけ」で何を考えているのか全くわからぬ首相には支持が集まる。今朝の朝日新聞に先の総選挙「面白かった」という人が50%超。狂気。常識的には「しまった。ちょっとやりすぎだった」と我に返るところ。その後の選挙も全国で自民党が連戦連勝驀進中。何も面白いことが他にないので小泉改革に「盲託」の勢い。仙台出身の畏友も宮城県知事選を嘆く。自衛官出身で、当選後最初に浅野知事のもとで揉めていた県警の裏金の承認に言及。ですからね。「これじゃ、もう茨城並みと嗤われる。多摩のD君は「そのなかで武蔵野市が稀有な例外」と。多摩地区住民の民度の高さか。このままでは消費税も夢の15%も実現か。確かにEU各国の付加価値税はもっと高い。しかしフランス人は週35時間労働で1カ月のバカンスをとり、スペイン人は遅い昼にご馳走たべて昼寝して過ごすも可。そういう暮らし方ができるなら20%でも払おうが年収300万円と貧困なる社会保障が約束された上での増税に憤りもなく何故「改革」支持するのだろうか。
▼行政長官に就任し初の御外遊中の「自称政治家」Sir Donald君。カナダから米国へ。香港の普通選挙実施など問われ米国も婦人参政権実現まで百年を有した、と宣う。呆れて言葉もなし。
▼米国が占領中のイラク憲法草案が国民選挙で可決。過半数で而も15だかの選挙区のうち3つ以上の選挙区で住民の三分の二以上の反対があった場合は廃案という高リスクであったが2つの地区で三分の二以上の反対になり最後の開票結果待ちはスンニ派住民の多い地区。開票遅れたが結果的に反対票は55%で憲法草案通る。米国の先の二回の大統領選挙といい、なぜキャッチングボードとなる際どい地区がいつも開票が遅れるのだろうか。不思議。……いや不思議じゃない。わかりやすい。

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