富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十月十八日(火)快晴。早晩にFCCにてハイボール一杯。かつてはいつもドライマティーニが最近はバーテンダーに「ヰイスキーソーダ?」と聞かれ黙ってい ても氷なしのハイボール供されるは嬉しいところ。伊太利の赤葡萄酒一杯飲みパスタ食す。晩に尖沙咀の文化中心大劇院にて中国電影展2005なる映画祭の開 幕上映で『為 了勝利』観る。中国での映画制作開始百年記念する、といふ が実際には愛国映画ばかりでプロパガンダ的。この映画も今年制作された(山東電影製作廠&中央新聞記録電影製作廠の共同作品)もので党中央の党史編纂室だ かが監修の「中国人民抗日反ファッショ戦争勝利六十周年記念作品」と冠のついた抗日15年戦争の記録映画。史実は事実として記録片として製作は当然である し制作意図は反日精神でなく平和の尊さ謳ふといふのも真っ当。だが実際にはこの映画もご多分に漏れず愛党作品。この作品のなかに出てくる抗日戦争の中で祖 国のために尽力した人民、知識人、資本家など、そして1945年に日帝支配から解放された台湾……と当時は事実であるがその後、その知識人や資本家が反右 派闘争と文革でどれだけ悲惨なめに遭遇し自由を得たはずの台湾が国民党支配下でどうなったのか(日本による侵略と虐殺は事実として中共による建国後に毛沢 東政権下での政治政策に起因する闘争や飢饉などでの死者が抗日戦争での犠牲者を大きく上回る事実)、は当然語らず平和希求するが「党のプロパガンダ映画」 の印象強し。
▼小泉三世靖国参拝。昨晩香港で開催された小沢昭一永六輔らによる「日本の芸能」なるトークショー、今晩は広州で開催の予定が「時節柄」で当局より指導 あり開催されず。IHT紙は一面トップで小泉参拝報道するが書き出しは“Prime Minister Junichiro Koizumi's visit to a nationalist war memorial here Monday...”と「靖国神社」はその名より先に“a nationalist war memorial”と称される感情的事実。根本的な問題として小泉参拝は彼自身の個人的気概などどうでもいい話で台湾の立法議員で日本で小泉靖国参拝違憲 訴訟おこすKao-Chin Su-mei女史が指摘しているように“Being the prime minister, he deliberately challenged Japan's judiciary and its constitution by visiting the war shrine. He is a bad example to the people in Japan”と首相がその国の司法と憲法に明らかに抗していることが立憲法治国家として許されぬ筈であること。首相が立憲国家の法治に従ふことは当然の責 務。それが無視されては首相も問題だが問題の重要性の理解できぬ(つまり法治が実は「ある程度」で許容されてしまふ)事実。近代国家の前提である法治蔑ろ にされるのだから日本は近代国家に非ず(陶傑氏なら土農、と嗤ふだろうが「農」といふ字は卑下されるべきでない)。
▼陶傑氏といえば陶傑氏が必ずや嗤ふであらう話が有人宇宙ロケット神舟6号(昨日の無事帰還)の二名の乗組員の英雄視、で二名のそれぞれの故郷の地方政府 と「単位」は郷里の英雄を厚遇。江蘇省昆山出身の飛行士には昆山市政府が飛行士の父母に(実質的には飛行士本人に、だが)別荘を贈呈。もう一人の飛行士は 自家用車で地味といへば地味だが、二人の故郷はすでに観光地化し参観者絶えず生家の近所には早くも宇宙ロケットの玩具など売る土産物屋まで開業。今後この 二人を宣伝に使いたい企業からはテレビや家庭用品、健康保険などの贈与多し。或る不動産屋も別荘地の不動産寄贈しようとしたが拒否された、と(で市政府か らのは頂戴した、ということ)。
▼中国の作家・巴金氏が逝去。享年百一歳。信報の弔報で「巴金」の名が(本名は李堯棠、李堯堂?)ソ連無政府主義者ミヒャエル=バクーニン(巴庫寧)と 克魯泡徳金(誰だかわからぬが、この人の「金」)から、と知る。15、6歳の頃にこの巴金の『家」や『春』など読み当然のようにもう他界した作家だと信じ ていたがまだ健在と知り驚いたのは串田孫一堀田善衛の時のように驚いた。で克魯泡徳金が誰かわからず築地のH君に尋ねると克魯泡徳金はピョートル=クロ ポトキン。世界三大アナキストといえば、バクーニンクロポトキン、それにプルードン、と言われても革命関係に疎い私。クロポトキンの「一革命家の思い 出」は岩波文庫に入ってるくらいの古典。ロシア革命を批判しつづけたが亡命はせず1921年に死んだ時は国葬並みの扱いを受けたというからボルシェビキさ え一目置く存在。スペイン内戦期を描いた「蝶の舌」という映画で、理科を教える老教師の書斎でチラリとクロポトキンの著作が映り教師がアナキストで共和国 派であることを示唆するシーンあり。つまりそのくらい(一部で)メジャーな存在、とH君に教えられる。
▼で共産主義といへばもう一つ面白い話を築地のH君より聞く。「仁義なき戦い」の笠原和男が書いた幻の企画「実録・共産党」の脚本が、なぜか(笑)扶桑社 の文芸雑誌の付録についていたそうで、これを読んだH君。完全に共産党英雄物語。笠原先生の実録モノというから、てっきりリンチ事件とかハウスキーパー問 題とかを扇情的に描いてそのせいでクレームがついてオクラ入りになったのかと誤解。「かつてこんなに英雄的献身的な革命家の男女がおりました」という偉人 伝。主人公は「渡政」こと渡辺政之輔と、その妻丹野セツ。いまや「渡政」を知っている人が何人いるか(私も知らない……富柏村)。山城新伍が「実録共産党 は絶対にやりたかった」と言っていた、と。いまからでも山城にこの脚本を撮らせるプロデューサーはいないか。角川春樹先生とかどうだろうか。

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