富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2005-08-15

八月十五日(月)晴。朝早く護国神社近くを自動車で通る。意外とひつそり。小学四年の時だか写生会で一度だけ訪れたことあり。余は当時、郷土の歴史にかな り興味あり、耳年増で祖父母の話に親しむだがため戦前の市街の様子だの「まるで見たように語る」奇妙な子であつたが(今もあまり変わつておらぬが)護国神 社については知識なし。祖父母や近くの大人たちの話に護国神社は出てきていたのだろうか。小学四年の学級担任のS先生が写生会の日にこの 神社がどういう神社なのか説明された記憶もなし……と言うと日教組の偏向教員が祖国の歴史をきちんと指導していない!と今なら指摘されるのだろうが。午前 中、旧宅にて書庫整理の筈が書庫と読んでいた部屋は開けてびっくり亡き父の骨董品市などで蒐集の所謂「がらくた」ぎつしりで入るも能わず。叔父の助け得て 三時間ほどで徹底的に整理。書籍も古書店に引き受け願う分段ボール箱十二個ほどまとめ残すに残したのは本棚2つ程。岩波新書の旧赤版数十冊、月刊趣味誌 『月光』全18刷、中森明夫編集の『東京おとな クラブ』、『満州読本』や戦後すぐの社会科教科書『民主主義の話』や清原なつののコミックスなどなど残す。昭和62年のキティレコード創立15周 年記念の多賀社長の礼状入りの記念オリジナルワインセットなど物置にあつたことも本人知らず。母 子手帳から小学生の頃のユースホステル協会の会員証、鉄道切符などのスクラップブックなど自分で保存していた記憶なき子供の頃の記憶の品々。保存してくれ た父に感謝するばかり。父方の祖父の戦時中のスクラップブックは祖父の長男にあたる東京のM叔父にお返しすべき物。昭和12年、中国に出征した祖父の記録 集。昭和14年10月23日の日捲暦が表紙に貼られ下記の通りの書き込み。(便宜上、句読点を打つ)
昭和十二年十月十二日丿夜充員召集ヲ受ケ同月十八日二●應召、中 支、地ヲ西二東二馳セ轉戰亦轉戰、身二何等丿障リモ無ク昭和十四年二月五日無事郷●凱旋。今日有ルヲ思ヘバ自分ナガラ不思議デ●●二戰死シタ戰友、從弟、 國家丿爲トハ言ヒ痛惜堪ヘナイモカ有ル。今日此丿想出集ヲ作ルニ當リ自分モ出征中常二戰死スルコトヲ覺悟シテ居ツタヽメニ征中何等記念トナルモノヲ集メテ 來ナカツタ事ガ甚ダ殘念デアル。
とあるが開けて見れば、その自家製のスクラップブックには故郷の送つた手紙や当時の写真の他に中国の戦地での鉄道切符や弁当の包み紙、煙草の包み紙などか なりの数が丁寧に貼られ祖父の几帳面な記録癖に頭下がるばかり。祖 父の手紙は軍事郵便で検閲済みといふわりには具体的な戦地の記録多し。敵兵掃討。相手兵の潜む町を焼き払い相手兵を二十名程打殺。「農民や町の商人が逃げ るのは可哀想でしたが戦に負けた国は本当に可哀想です」と語る。祖父は中国の生活がいかに貧困か、戦争の中で子供らがどれだけ苦労しているか、を故郷の三 人の息子に平易な言葉で語る。そして自分たちの生活がそうならないために、お国のために戦う、はやく戦争が終わればいい、と。祖父の手記を冷房どころか扇 風機もない暑い物置で読んで、祖父の思考には、戦争に負けるとこんなに(中国のように)惨憺たるものになる、といふ観念あり。そこまでわからぬわけではな い。だが不思議なのはその六年後に日本は敗戦で、どういう不安感があつたのか、といふこと。マッカーサーにお礼状が数多く届いたのである。ラジオを聞くと 小泉三世の靖国神社参拝は「回避されている」様子。01年8月13日の小泉靖国参拝を思い出す。あの日の朝、その日がさうなるとは思いもせず皇居一周ラン ニング。右翼の街宣車日本国憲法を護りましょうと共産党の宣伝カーが静かな市街を走るのが聞こえる。午後、静かな場所にあり雨音で土砂降りを知る。昏 時、バイパス沿いのヴィクトリア運動具店で買物してからケーズデンキ本 店。六歳の時に父にせがみソニーの中波ラジオ買つてもらつた間口四間ほどのカトーデンキ。父のお気に入りの家電店。このラジオが我が家で最初のトランジス タ製品であつたはず。でカトーデンキは確かに他の家電店よりオーディオなどに力入れていたが昭和60年代はまだ市内に二、三店舗程度。それが今では全国に 220店舗の東証一部上場企業……。ヤマギワだの石丸だのヤマダ電機など東京資本の量販店が全国席捲する中で地方都市のあの小さな電気屋のこの急成長。本 店の規模のデカさに感無量。創業店舗など知る店員はいるのだろうか。香港では入手できぬ様々な品、オーディオテクニカの耳フィット型ヘッドフォン、ジム用 にとソニーの防滴使用のヘッドフォン、フィリピンで紛失のソニーのラジオICF -SW100Sに代るローテクなソニーICF-SW11など購入。Sharpがノートブックで余も重宝する軽量のMMシリーズ製造中止となつていること を店員に教えられる。オーディオテクニカの噂の最高級ヘッドフォンATH-AD2000を 試聴。試聴用のCDをオンにすると、いきなりコルトレーンのバラードが流れ、思わず「このヘッドフォンください!」だが定価84,000円がケーズ価格 65,000円。でさすがに我も衝動買いに躊躇。たかだかヘッドフォンに65千円?と思うがオープンエア構造で外にも音がスピーカーからのように漏れるの だから防音のためのヘッドフォンでなくスピーカ以上にいい音を聴くためのヘッドフォンであることを理解。革命的。美しい世界。革命の美しい世界といへば書 庫から母が19歳の時に購入した『ドクトル・ジバコ』の上下巻と尾崎喜八の詩集を自宅に持ち帰つたのだが母に聞けば当時、月給が四千数百円の時代に『ドク トル・ジバコ』は一冊300円。本一冊を購入することにどれだけの思い入れがあつたか。帰宅してそんな話を聞きながら祖父の戦時中の記録集をあらためて母 と妹と眺める。母にねむの木学園の「ねむの木とこどもたちとまり 子」といふ園児らの画集(こちら) を見せられる。圧巻。言葉もなし。やましたゆみこと いふ少女の絵は草間弥生より凄かった。深夜のオーラ番組に美輪明宏山咲トオルが共演。長崎県の凄さ。涼しい夏の晩がさらに涼しくなる。深夜のオーラ番組 に美輪明宏山咲トオルが共演。長崎県の凄さ。涼しい夏の晩がさらに涼しくなる。山咲トオルの怨念の強さといふ話で「漫画家になるまでいろいろなバイトし てきたんですが、いろいろ理不尽なことをされたりして、その店がみんなそのあと潰れているんです」といふ山咲に美輪先生が「そうでしょう」と深く頷いてい るのだがオカルト論破の大槻先生なら「アナタがバイトしてたのって新宿のお店でしょう、よく潰れるじゃないですかっ!」と指摘しそう(笑)。
▼久ケ原のT君が昨晩、初めて大河ドラマ義経』見た、と。余も昨晩見ていたが那須与一屋島での登場と活躍で滝沢義経に対して相方・今井翼君の演技が期 待とかなかなか大河らしいと驚く。T君に言わせれば、平家物語の原典と比べれば、扇の的に鏑矢の命中する位置も違ければ的の下に立つのは上臈女房のはずで 平家の身内(義経の妹・能子=後藤真希)が矢面に立つはずナシ。その衣装も春らしい「柳襲の五ツ衣」に緋の袴と原典にあるのに全く踏襲せず。「扇撃ち」も 戦場の慰みとて敵も味方も大喝采するはずのところ平家の反応鈍く祝祭的にも地味(こうした戦いの中の祝祭が日露戦争まではあつたもの)。二位尼君以下平家 の女人が長袴を着ておらず下臈でもあるまいに、この当時のこの身分の女が着流しに袿を羽織るなんて風俗がありますかいな、とT君。

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