富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七月十八日(月)猛暑。摂氏34.4度は香港天文台観測史上十位の高温とか。この気温、山形や京都、甲府など日本の盛夏に比べれば南洋の香港がこんなものか、でジャンジャン、だが朝晩の気温低下で日格差大きい日本に比べ晩も三十度で蒸した体感気温は香港凄まじきものあり。呼吸も能わず。湾仔のMTR駅のA3、A5出口付近に政府の合成麻薬の配給所あり。麻薬中毒「患者」が麻薬に深く手を染めぬやう、かといつて「更生」難しき者どもに政府が麻薬合成して支給する場所なり。ちなみにこの合成麻薬の原料は覚醒剤など政府押収の非合法麻薬類にてここ数年香港での押収量減り減量不足とか。でこの配給所の門前には中毒者が徘徊。その日に決められた所定の次の配給時間までこのへんに屯する。一見して「廃人」モード、小汚い犬など連れて座り込む者少なからず。此処は湾仔のハーバー沿いの政府庁舎や會議展覧中心に向かう歩道橋の入り口でもあるが「あそこを通るのは怖い」とジョンストンロード側からは敢えてA3から湾仔MTR站に下りて地下構内のエスカレーターで歩道橋にあがる(またはその逆)市民も少なからず。話は長くなつたが、この暑さと淀む大気のなか、その麻薬中毒者の屯するところを通るのはかなり不快。それだけ。それにしても福祉といふのは立派なもの。麻薬中毒で廃人化した者にまで公的資金合成麻薬給してまでの業。人間性。愛情。人権の尊重……だが裏を返せば合成麻薬与えることで「これ以上、暴れるな」かも知れぬ。最終的には社会の保全。早晩にジムで久々に一時間の有酸素運動。いつも冷凍庫のように冷房きついジムも強烈な西日で蒸すほど。上海三六九飯店で青椒肉絲飯と蝦仁豆腐飯をテイクアウト。そのへんの茶餐庁に比べても高くない(どころか安い)HK$29で立派な「ぶっかけ飯」に美味なる例湯がつく。注文して、待てば数分なのだが、その待ち時間を理由に近所の愛蘭土バーDelany'sでギネス麦酒一杯飲む。本来であれば「ちょっと、すぐ戻ってくるから」で三六九飯店にジム用のカバンくらい置かしてもらふのだがブッシュ、ブレア、小泉の三馬鹿トリオのおかげで「ちょっとカバン、置かしておいて」も警戒される時代。上海料理屋はまだテロの標的になつておらぬが、あと数年すればウイグル独立武装戦線など各地の北京、上海料理屋なども標的にするかも。すべてその元凶がテロリズム利用する<体制>にあるのだが。ギネス麦酒でほどよい酔心地でテイクアウト受取り、ついでにこの店の秀逸なる芝麻地湯圓も一箱。帰宅。青椒肉絲飯はイマイチ。おそらく最後の味付けと片栗粉流すの忘れた感あり。最近の晩の閑かな生活。自宅で晩飯を済ませ季節の果物、それに甘味を一口。美酒。読みたい本。江藤淳的に他に何も要らぬ。これでこのまま死んでしまふと伊丹十三の「お葬式」の奥村公廷演ずる老人のぽっくり死でさぞや幸せなことであらう。だが元気なので資料整理したり書棚からいくつか本を出して調べ物などしていると、本の隙間から昨年七月廿九日の吉田秀和氏の語り書きの切り抜きが出てくる。(昨年七月下旬の日剰参照されたし)再読。愛妻を亡くし「心の空白」填められぬまま執筆を中断した氏の悲しみ。朝日新聞での「音楽展望」の再開も「せめて正月にならなければ、この先いつやれるかわからない」とこの切り抜きは終わるが、今年になつても再開されぬまま連載は梅原猛氏にかわる。ダワーの『敗北を抱きしめて』続き読む。
▼米国のおそらく黒人で初の大統領に近い将来なるであろうBarak Obama君のイリノイ州Knox CollegeでのCommercement(こちら)が話題になつている。一読したかぎりApple社のSteve Jobs君のCommercementよりかなり深い内容。この小濱馬楽君の政治家としての特性は見事なものでシカゴで開催された米国図書館協会の総会にも招かれての演説(こちら)読むとFBIなど国家当局がテロ防止のため図書館が憂慮する個人情報蒐集について(なんと醜悪なるPatriot Act「愛国者法」といふ法律の名前)ワシントン(政府)はいつも“either-or”で「テロから市民を守るか、或は、我々の最も大切な基本的精神(つまり自由)を守るか」の選択を強いるが、小濱君に言わせると問題はそういうことぢゃない、で“We can harness new technologies and a new toughness to find terrorists before they strike while still ptotecting the very freedom we're fighting for in the firtst place”で市民的自由という基本を守りながらも図書閲覧や電子メールの解読といつた技術捜査もテロを未然に防ぐには必要であり図書館員は図書館利用者の閲覧記録の当局への提供や電子メール解読に不安を抱くであろうが議会がこの愛国者法の制定にあたつては政府捜査当局のこういつた情報捜査に対して議会の監視と司法の厳正な判断が規制力となるものであることへの理解を求める。個人的には我は賛同できぬが小濱君は「テロの驚異」も利用しつつ米国の建国理念であるとか議会の、つまり議員の尊厳と権限であるとか巧みに用いて自らへの信頼を求める演説内容。見事ではある。これだけの演説ができる代議士が日本にどれだけいようか。せいぜい北朝鮮の悪口言つて陳腐な愛国心煽るだけ。それにしても日本のマスコミ、通信社の小濱馬楽君への感心が低すぎる。ワシントン総局とか日米間の尻ぬぐい報道ばかり。
仙台市市長選挙。現職藤井黎君引退で31日投票。公明党の藤井君支持を思えば実質的な禅譲で(河北新報公明党自民党が便乗で元経済産業省通商交渉官の梅原克彦君の当選は確実。せいぜい話題といへば選挙違反疑獄で民主党離党した鎌田さゆり女史の立候補だが今回の選挙には香港市民オンブズマン元代表・小野寺信一君が市民団体の推挙で立候補しており本来であれば自主投票決め込む民主党票や相変わらず単独候補擁立の共産党が小野寺君支持にまわるべき。小野寺、鎌田での票の喰い合いで共倒れ。この二人の票に共産党票加えると当選の梅原君の得票を上回る、ということか。結局、チャンスはあつてもそれを活かせず。なぜか。利権がないから。利権があれば保守であれ「思想信条を越えた」自公の協調もできるといふこと。仙台市長選挙もかつては26年間市長勤めた革新市長島野武君の逝去で84年の市長選では保守の推す(って実質的に三塚博君の子飼いだが)石井亨に対して伝説的な社共共闘で弁護士の勅使河原安夫君が対決。結果、石井亨の当選となつたが石井亨は全国市長会会長にまで就任した三期目の93年にゼネコンからの1億円収賄で逮捕され有罪。で藤井君の登場だが今にして思えば藤井君擁立での自公協調はその後の小泉政権での自公蜜月の前兆だつたのかも。
李嘉誠財閥の土地開発会社・長江実業のいくつもの新築マンションの中でも高級さでは群を抜く72階建のホンハムの海名軒の広告で「以睿智創造経典」(睿智ヲ以テ経典ヲ創造ス)と金庸の言葉らしいが大きく引用し顔こそ写らぬが金庸らしき老文人の手許の写真。これでこのマンションの気高さの宣伝か。宣伝はいいが金庸先生はケムブリッジ大学の栄誉学位授かった中国の現代文学代表する小説家(武侠大衆小説とは言わぬが)、日本でいへば池波正太郎司馬遼太郎である。それほどの文人が財閥の一マンションの宣伝に荷担するとは。

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