富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七月七日(木)驟雨と晴れ間幾度となく繰り返す。夏のバーゲンセール始まるがサマーセールは通常の商品が安価になるものに非ず例えばポロ=ラルフローレンで見ても普段は店頭でみかけぬ「こんなの売れるはずないだろうが」の奇っ怪な意匠の服と極端に大きなサイズばかり並ぶ。ポロシャツ一枚購ふ。この暑さではさすがに食欲失せる。海南鶏飯はこの季節やはり食すに適すが「ふと」佐敦道の馬華餐庁はまだあるのだらうか?と気になる。十数年訪れておらず。上環の新嘉坡餐庁、銅鑼湾の南亜餐庁などと並び昔ながらのマレイ風の南洋餐庁の雰囲気あり。何も変わっておらず。海南鶏飯食す。この店のタレは秀逸。晩に薮用済ませ予定より早めに終わり一瞬どこかバーで一杯と思ふが、さういへば家の酒が数本切れていたと思い出しスーパーでスミノフウォッカとゴードンのジン購ひ帰宅。アル中の恐ろしいところで自宅にて酒が切れているわけでも、ジンとウォッカが切れているわけでもなし。厳密にはジン数本のうちゴードンとウォッカのうちスミノフが切れているのだけで他の酒があるならいいぢゃないか、と思へもするがさうはいかぬのが酒飲みの執着心。最近ふたたびあまり外で飲まぬのは先月二人の人に続けて「最近けっこう飲み歩いているらしいですね」と言われ亦た「見かけた」「出没している」と知らぬところで話されている由。別に後ろめたい事に非ずも旧知のY嬢に「あなたらしくもない」と言われ少し考えるところもあり。自宅の書斎で好きな音楽をかけ好きな音楽流れ而もバーと違いある程度の明るさで好きな本が読めるのだから悪いことぢゃない。ところで本日、晩に会つたK嬢と、もうかれこれ二年にわたり毎週のように顔合せている女性なのだが今日会うのがおそらく最後かといふ席で雑談でK嬢が実は余が最近この日剰でも何度も言及せし香港政府の某組織に主要成員として所属していることを知る。余もかなりこの組織について連日の新聞連載記事を読んでいたものだから、その話をするとK嬢もかなり驚かれ問題ない程度にいくつか内情と彼女なりの感想を聞かされる。帰宅してテレビつけると倫敦で早朝の通勤時間に地下鉄で爆破あり。イスラム教テロ組織の残虐な犯行と。一般市民が巻き添え。ブレア首相も「野蛮な犯行」と声明発表。だがイスラム教がテロの下地あるのではなく誰がイスラム社会を其処まで追いつめたのか。野蛮なのは誰か。その声明発表するG7の、そのブレア首相の背後に相変わらず間抜けた表情で立つているではないか。その野蛮人に追従したのが誰か。ブレア君含めやはり同じ画面に言葉も通じぬが立つているぢゃないか。一般市民の巻き添えも間接的ではあるがその野蛮人に政権任せ好き放題させているのが我々だと思えば被害に遭ふ責任とまでは言わずともリスクがあるのは当然か。だがイラクでは被害者は本当の意味で何の責任もない一般市民が巻き添えだと思えばイラクの被害者より侵略国家の市民ほうが責任あり。話は前後するが本日、金鐘の本屋でJung Chang(張戎)女史の八百頁の大著“Mao: The Untold Story”購ふ。Jung Changは(この人の名前などについて日本語でどうすればいいか、矢吹晋氏が詳しく紹介している……こちら)『ワイルドスワン』で文革期の体験を綴り世界中で読まれた作家であり英国での中国研究の権威の一人。この本は当然、中共にとつては語られなくない部分多く香港で売られているだけでも御の字か。この本については昨日のヘラトリ紙にJonathan Mirskyといふタイムス紙の元編集委員(極東担当)の文章あり。Mirsky氏がFar Eastern Economic Review誌(これはかつての週刊経済誌に非ず月刊で学術誌として再出発したもの)六月号にこの本の書評書いたが中国ではこれが発禁(当然、本書も発禁だが)。毛沢東の死後三十年経ち中共政府も1981年に毛沢東文革など政策でいくつか大きな誤りがあつたことまで認めているのに何故ここに来てまで禁忌なのか。文革については本書でも毛沢東文革の始動に繋がる思想改革を提言しただけで大規模な民衆の政治運動が起きたのではなく実は政治闘争がためにかなり細部にわたるまで毛沢東文革での具体的な政治行動画策したことなど言及されているが、これは中国政治の研究者の間ではすでによく知られていることで、1949年の国家成立以前の毛沢東の率いる共産党の動きも実はエドガー=スノーが『中国の赤い星』で世界に紹介した神話=事実が実はかなり創作である点も知られていること。Jung Changの本書でのスクープといえば長征の物語の最大の山場である長江上流での渓谷渡りの段。吊り橋の向かふ側には国民党軍が待ちかまえる中を相手を打ちのめしながら渓谷渡り切るのだが、それが実際にはなかつたこと、といふ。事実は蒋介石の国民党軍は紅軍を逃した、そうな。では何故、毛沢東は未だに守られるのか。ソ連フルシチョフによるスターリン批判ができたのに、である。それは紛れもなく毛沢東が建国の父であり、思想的支柱であり(ソ連共産党執行部が非難されてもマルクスは別なのとはわけが違う)、長征であるとか国民党との内戦での勝利などが毛沢東とともに否定されると中国共産党指導の根拠、現在の党執行部の正当性まで疑われてしまうがため。譲つても「中国共産党が過去に犯した誤りを正せるのは中国共産党だけ」というところ。このテーゼに対して中国の国民が何処まで政府に信頼を寄せるかが鍵、とMirsky氏。御意。いまの中国の問題は天安門事件のころのたんに政治的な抑圧に対する反発に非ず。共産主義国家にありながらの所得格差や貧困の問題、政府の汚職、そして政府による土地の強制接収に対する不満など爆発恐ろしきことばかり。

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