富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七月初二。土。青空。二晩続けて何かと机上のことに夜更かし続くが五時間も寝ぬまま起きてしまひ今朝も七時半には起きる。朝日社会面に作家萩原葉子の訃報あり。朔太郎長女、つまり朔美の母。朔美氏は余にとつては雑誌『ビックリハウス』初代編集長。喪主が朔美氏で多摩美大の教授であることを知る。朔美氏がBHの編集長であること以上に衝撃的に記憶に焼き付いたのは澁澤龍彦責任編集の雑誌『血と薔薇』の創刊号(といつても1968年創刊で短命に終つた雑誌で余がみたのは古本屋で、であるが)にある深瀬昌久撮影の「情死」という写真で白馬に跨つた土方巽が情死の道連れとした少年を連れて去る瞬間だが、その少年役が萩原朔美。この雑誌のこの創刊号は篠山紀信の撮影で三島由紀夫が「聖セバスチャンの殉教」の他に「オルフェの死」(中山仁・撮影細江英公)や「サルダナパルスの死」(澁澤龍彦・撮影奈良原一高)、「横死」(唐十郎・撮影深瀬昌久)や「ピエタ/キリストの昇天」(土方巽・早崎治」で執筆陣には渋澤の他に三島、足穂、埴谷雄高武智鉄二が並ぶ。垂涎の本であるが当時は学生には高値でとても入手できず。国際面にベタ記事で「香港返還8周年民主派デモ、激滅」と記事あり。確かに董建華辞任と景気回復で今年数十万人が繰り出すには至らず、だがこれは正常。だが「カトリック、教員組合などが動員を見合わせたこともあって参加者は約2万人にとどまった」と記事が結ばれているが教会と組合の動員は参加者減には直接大きな影響もない気がするのだが。朝日の外報部はデスクがかなり思い込みで記事を直すといふ噂も……。九時半にはあまりの天気の良さに勇んで山へ。パーカー山から漑ぐ水も見事な勢いで水際は涼風。マウントパーカーロードの峠まで登れば大潭への下り道が通行止めで何かと思えばこのところの大雨で土砂崩れ。島南岸の海岸まで一時間走る。麦酒ごくごくと飲む。誰からか貰つて家にあつたビートたけし『日本人改造論』なる角川の文庫本読む。下らない話は下らないがポール牧が飲み屋でやくざ者と口論となりポール牧師匠が「外に出ろ!」と。ビートたけしが扉の隙間から覗くと師匠土下座で謝っている。何も見ておらぬふりして飲んでいると師匠が手をぱんぱんと叩きながら戻つて来て「口ほどでもない奴らだった」と。先月だつたかポール牧師匠が投身自殺の訃報あり。印象に残るビートたけしの語りは、本来、電車で老人に席を譲るなんてことは優しさじゃなくて常識。常識でできることが優しさなんて思われている誤解。優しさというのは本来は教養。優しさがあることは教養があることだ、とビートたけし。これはもう村上陽一郎の認識のレベル。ビートたけしの凄いところ。赤柱から大潭のダムをまわればダムの見事なほど碧き水湛える。これほどの青空は五月のいつ以来だろうか。フーコー『自己のテクノロジー』(岩波現代文庫)を少し読む。ジムに一浴し帰宅。早晩に西湾河の香港電影資料館。Z嬢と「歴史と記憶」なる抗日戦争の頃の映画特集あり1951年の『花姑娘』監督は朱石麟。「羊脂球」(これはおそらくモーパッサンの『脂肪の塊』であろう)の話を抗日戦争期に据えたもの。日本の憲兵隊に囚れた一台のトラックに便乗し戦地から逃れようとしていた人たちの物語。一人の娘が犠牲となり憲兵隊隊長の好色の餌食になると見せかけ人々を逃すのが筋だが面白いのはその囚れた人々がけして全員が善良でなく奸商から買辧韓非、土豪に退廃的芸術家、善良な運転手から共産党工作員と様々でそれのやりとりが面白い。当時は抗日映画だが今はそれ以上に中共による人民共和国建国二年目の作品で大躍進や反右派闘争始まる前の自由な共産中国の時代らしさがこの映画からも感じられるのが面白い。西湾河なので太安楼の太原街側にある牛什煮屋(電気屋の副業)で牛レバー一串食し大安街側に抜けて海鮮の二記で晩飯。瀬尿蝦(蝦蛄)、四季豆に粟米羹。美味。一見そこらにある小汚い店だが太安商場の通路からこの店の厨房覗けばどれだけしつかりした店かと納得。帰宅してドラマ「義経」義仲の最期をビデオで見る。義経が六条に後白河法皇のもとに参つた時の平幹二朗の演技やりすぎだが面白い。資生堂パーラーのチーズケーキ食す。Bowmoreの12年開栓し飲む。ジミ=ヘンドリクスのイン・ザ・ウエストのライブ聞きながら机上のこと片付ける。
▼昨晩このサイトの全体の容量が150MBを越えそうになり(画像が多すぎるのか)50MBの契約追加。そのついでにサイト情報覗いたら04年1月22日のTripodでのサイト開設から1,154,283ヒットもあり驚く。これは頁更新だの日剰読んでいて写真クリックして復た日剰に戻ればカウントされるもので閲覧者数ではないが百万とは。ちなみに(思い当たる方多かろうが)閲覧が最も多いのは月曜日で週末は少なく日曜日より土曜日が最も低いのは土曜日はネットなんか見てるより楽しい気分か、で時間的には平日は香港時間で朝の8時(日本は午前九時)からの二時間。つまり月曜日の朝が最も閲覧が多いわけで月曜日のブルーな朝で仕事する気力も起きずぼんやりネットサーフィンの御仁多き証左かも。

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