富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

農歴五月十五日。夏至。日に幾度も大雨走り去ってはまた大雨。朝いつも新聞数紙買う新聞スタンドでふと明報を百年ぶりで購入。かつては「香港の朝日新聞」とかいわゆるクオリティペーパーであつたのも武侠小説の大家・金庸氏が社主の時代の成功で曾ては地下鉄でいかにも公務員、教員など明報を読んでいたものが最近ではすっかり発行部数もおち学校の図書館や病院の待合室など毒にも薬にもならぬ場所でしか目にせず。政府関係の広報誌のごとし。唯一この新聞らしいのは本日から二日間、香港城市大学の中国文化センター主催で「文化伝統と華文創作」といふシンポジウムあり(それぢたいは面白くもなさそうだが)パネラーとして作家・白先勇氏とストックホルムから漢学の碩学Goran Malmqvist教授が参加とは豪華。そのMalmqvist教授(漢名:馬悦然)が漢文で綴つた4つの短編小説まで掲載されるのは明報だからか。余の銀行より電話ありクレジットカードのセキュリティに憂慮される点ありカードを新規番号で再発行いたします、と。これはマスターカードで、ところでヴィザのほうは?と尋ねると、その者はマスターのプラチナムカードの担当で同じ銀行の発行カードでもヴィザについては恐れ入りますが知りかねます、と。もともとヴィザのゴールドカードありき、で銀行から年会費無料にするのでマスターカードのプラチナカード持っては如何か?と勧められし経緯だが、こうしてクレジットカードの情報漏洩などといふ惨禍に遭ふと上級カードから対応されるのはタイタニック号での避難と同じか。夏至も暮時まで諸事忙殺されジムにも寄れず帰宅。鰻丼を食す。随筆家でファッションデザイナーの畏友W君より本晩招飲を受けるが連絡来ず夜晩出かけず。本日、ドナルド曽蔭権君を北京の国務院が正式に香港特区行政長官に任命。即日発効。温家寶首相が任命状に署名するニュースも驚くなかれ晩のニュースで大雨などに続き三つ目。せいぜい話題といへばドナルド曽君が前任・董建華君常用の行政長官専用車トヨタ・センチュリー選ばずもう一台の専用車であるベンツS500選び任命と同時に乗用し始めたことくらい。雨空の向こうにおぼろに十四夜の月の明かり浮かぶ。
▼小泉靖国参拝について。首相の靖国参拝について「賛成」の意見でも体温かなり違う事実。例えばA級戦犯の遺族や『諸君』的感覚だと「首相が参拝をやめると先の大戦侵略戦争であったと認めてしまうことになる」のだが小泉三世ぢたいは先の大戦がアジアにおいて侵略行為があったことは認めた上で戦死者については慰霊すべきで靖国神社参拝することで今日と将来の平和を祈願するモットーであれば「賛成」のこの二者ですら感覚の相違甚だし。築地のH君の話ではA級戦犯の遺族(娘)が「日韓で歴史認識を完全に一致させるなんて無理。いつまでも過去のことにとらわれないで、未来志向で行きましょう」と語つたそうで確かに「完全に一致」は無理だろうが「悪いのはヒトラー」という程度の歴史認識は世界中で完全に一致で東アジアでそれに相当するのが「悪いのは日本軍国主義」であり、それを完全にひっくり返そうとは、とH君。中国側の対応こそまさに「罪を憎んで人を憎まず」であり小泉三世は中国に過去の「罪」をどう憎んでるのかの証拠を見せてくれと言われてるのにA級戦犯も含め「人を憎まず」の方しか実践せぬことの拙さ。このA級戦犯の娘のコメント流したテレビニュースのキャスターは「加害者と被害者では歴史の感じ方も違いますからねえ」などとコメントしていたそうだが逃げの口上。で今度は経済同友会代表が小泉三世に対して「個人的に参拝を」と。経済同友会の代表幹事で日本IBM会長の北城恪太郎君が公式参拝はやめるべきだとの考えを示す。「近隣諸国に理解を得るためには、どういう形で参拝するかをぜひお考えいただきたい」と、ここまでは理解できるが「羽織袴で神社に行くのは見た感じからし軍国主義クールビズで行かれたらどうか」といふコメントはどんなものか。羽織袴で神社に行くのが軍国主義なのではなく国家神道として神社本庁系の神社ぢたいが国家主義なのであり、クールビズなど靖国の問題で話す必要もなし。いずれにせよ小泉三世の場合こういうことを言われるとますますムキになる可能性もありか。
▼で小泉三世はもはや終わっているとしてポスト小泉であるが築地のH君によれば毎日新聞(夕刊)での小特集で松野頼三は「麻生、谷垣、福田が横一線」、伊藤惇夫は「安定政権志向で福田氏有力」、森田実は「亀井、平沼、加藤氏らの可能性も」と。余と築地のH君による福田首班での組閣もまんざらでなし。で森田実君の分析が興味深く政権のカギをにぎる公明党は「これまでの小泉政権を正当化でき且つ対中政策を転換できる人」を推挙。これだと福田と谷垣。公明党自民党の反発を恐れてあまり強く干渉せぬ場合には親小泉・反小泉の中間派として高村浮上。一方で郵政民営化をめぐって政局が激動すれば小泉路線の正反対の路線が登場し亀井、平沼、加藤、野田聖子らもあり。小泉三世は靖国を積極的に紛争テーマにするのも岸派以来のネオコン政治を保守本流に押し上げようとの狙いもあり。しかしこれをやりすぎると小泉・安倍・町村らに対し「こだわり過ぎておかしいのではないか」という雰囲気が生まれ「政治家は大衆感情以上に度を超えると見放される」といふのが森田分析。なるほど。で伊藤惇夫(元民主党事務局長)は小泉三世のような「一点突出内閣」の次ぎはバランス型が求められ「だから福田」と。わかりやすし。福田二世そもそも福田赳夫の息子で「岸派以来のネオコン政治」の主流にいてもおかしくない筈がここであえて距離を置けるあたりは早稲田しか出ておらぬのに東大卒の町村よりも先が読める頭のよさ。ところで気になるのは、とH君の憂ひは本当に小泉阿倍の三世コンビが「大衆感情以上に度を超えているか」どうか。朝のテレビで毎日のように勝谷誠彦様がキャンキャンと中国の悪口を喚いて喝采を浴びる。大衆感情も小泉阿倍のレヴェルとどっこいどっこい。これが衆愚政治の弊害としてはいけぬのかも知れぬが戦前なら首相を皇居に呼びつけて「小泉、中国のことでは少々やりすぎではないか」と陛下が一言こぼせば臣小泉は恐懼して退出そのまま総辞職で直ちに福田康夫に組閣の大命降下、とか。