富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

六月八日(水)薄曇。体調万全ならず。ヘラルドトリビューン紙(紐育時報からの転載)の一面巻頭に“Nationalism spurs growing Beijing-Tokyo rivalry”といふ記事あり。これまで日中両国間にこれほど両国が強大な時期はなし。中国は25年に及ぶ経済成長続けアジアに影響力強め日本は国連常理目指し自衛隊を国軍化し平和憲法改憲を画策。日本は呉に戦艦大和の記念館建立し中国では戦争終結六十周年で六十本余の戦争映画制作。天津の南開大学のPang Zhongying教授(国際関係論)は「我々中国は日本に対して被害者心理がある反面、我々より小さな国(日本)が豊かで中国に対抗し得る国力があることを認められない」とした上で大切なことは「中国は自国が軍事力増強している時に日本も「普通の国」になろうとする事実を好む好まざるに係らず現実的に認めることだ」と述べる。この記事は三面に続き更に日本の政治状況を詳細に報告。政界から引退の野中広務先生に取材。先生曰く、現在の憂慮されることは政治家が昔の鬼畜米英のように外国を利用し愛国心を煽ること、と指摘し安倍晋三君を名ざしでポスト小泉狙いで北朝鮮に対する反感を利用していると断言。更にこの記事では東京都での学校での国旗国歌の扱いで三百名近い教師が処分され富士ゼロックスの経営者が首相の靖国参拝に否定的発言をしたことで右翼の抗議受けたことなど紹介。それと同時に中国の問題点としてあげるのはYu Jieといふ作家の言葉で「中国は靖国神社を非難するが我々は北京の中央に毛沢東崇拝の祠社をもつ。毛沢東は日本軍以上に国民を殺したのが事実。それを認識せぬまま日本を非難はできない」と。これもまた然り。早晩にFCC。溜った新聞読み。ドライマティーニ三杯。ドライマティーニは本当に凄い酒で同じレシピで注文してもバーテンダーが三人居れば三つ違う味の酒になる。ジンにベルモット滴らすだけで、である。余のレシピはステアもせず氷入れたロックグラスに注ぐだけ。オリーブ不要。檸檬皮のみ。FCCではDavidなる還暦くらいなのだろうか老練のバーテンダー氏に作るマティーニが格別。David氏に彼のマティーニを賞めるとベルモット滴らす時が最も緊張する、と。三杯目を彼が作るのを見ているとベルモットは栓を緩ませ栓をけして取らずに栓と瓶の口の隙間から滴らす程度。蹴球W杯の日本対北朝鮮の試合が始まる前に酒場を辞す。今晩は香港もあちこちで蹴球観戦であろうが先日のバーレーン戦なら素直にスポーツ観戦できたが相手が北朝鮮となると考えること多し。試合は見ぬが0対0のドローに賭ける。日本の勝ちではオッズは1.4倍。引き分けでも独逸での本大会出場可。0対0の3.85倍は魅力。六月のこの時期は日も長く帰りの車の窓から眺めれば中環から銅鑼灣のハーバー沿いの超高層ビルにさっぱりとした晴天のなか西に傾いた陽がビルの壁に輝き実に見事。帰宅してワイルドターキー一杯。カレーライス食す。テレビは衛星放送映らぬがネットで2対0での日本の勝ちを知る。ちなみに2対0での日本の勝ちは5.85倍であった。NHKのニュース10で日本がW杯出場決定のニュースは実に35分間。日本のサッカーは本当に強くなった。見事。だがそれを国力と勘違いせぬことが大切か。中国など近隣に対してデカい態度に出ぬこと。生きててよかった〜!とつぶやくオヤジ(もし日本が北朝鮮に続きイラク戦で二敗したらこのオヤジは生きていけなかったのだろう)。みんなありがとう!と新宿の駅前で泣く若者。朝鮮学校で頬の左右に日の丸と北朝鮮国旗のシールを貼った若者が「どっちもたくさん点をとってほしい」と願ふ。様々。サッカーでは賭け外れたが今晩の競馬ではテレビ中継眺めれば第4レースのクラス5で連複で55倍、ワイドで16倍の高配当得る。ここ数日けしてひどい暑さでなく気温は夜も摂氏27度くらいだが努めて冷房消して窓開け少し蒸して汗かくくらいで過ごす。
▼中国内地から香港への旅行が実質上自由化され香港旅遊発展局は一人六千ドルの消費力と踊っていたが実際には今年の5月の大型連休での数字では旅行者の三分の一が香港での消費額は二千ドルから四千ドルであり平均は3,976ドル。香港への個人旅行が解禁となり始めた頃の平均消費六千ドルはやはり富裕層の話。
▼「シアトルでの骨董品屋でのマネーローリングと脱税容疑で米国からインターポールに逮捕令状出て中国に潜伏中の」経済学の奇才・張五常教授が昨日と本日の信報に「中国の前景」といふ見事な評論掲載。二十一世紀は中国の世紀などといふ言葉踊るがGDPで見れば確かに巨大な中国であるが米国と比べれば人口は四倍余で民生や一人あたりの実質的収入など米国には遠く及ばず一人あたりの天然資源量や知識レベルなど考慮すれば今世紀、中国が首位になれる筈もなし。三十年前に日本が経済力で世界を席捲し始めた頃と同じ勢いの中国の発展を見れば人口比で十倍なら当時の日本の十個分の機会が中国にあることになる。数年前までセメントの輸入国であったのが今では世界一のセメント輸出量となり十年前に国内電話が不足していたのに上海では1人あたり3台という電話の普及、今年落成する東海大橋は32.5kmの長さを誇り世界一だが数年度には杭州湾跨海大橋は36kmの長さであり世界の皮製品の8割、DVD機の9割が中国産。工員数十二万人という規模の製靴工場に日に三千万個の即席麺を製造する工場……数字の上では偉大であり北京政府の功績が評価されもするが、それは十三億人が生産労働に携る環境を作ったことでの評価であり経済発展というのはそれに比べ簡単なことではない。中国が世界経済を震撼させる勢いは日本の八十年代初めの頃に似ている。悲観的に見ればその日本が八十年代後半にはすでに経済成長に陰りが見られたように中国もそれを避けることはできない。戦後の独逸とも同様。その繁栄の時期の短さも同じ。であるから中国の世紀などとは言っておれぬこと。本日の続編では教授が指摘するのは経済成長での大きな誤謬。日本で見れば(これは過去のことだが)日本が農産物の輸入をかなり制限したことは国内の農業生産の保護がタテマエだが実際にはコストの高い国内の農産品が地価高騰にまで影響があったこと。二つめは国際的な圧力で円高が一気に進んだが経済成長中の国家の貨幣価値の上昇をその受益者の権益のために下方調整することは容易でないこと。現在の中国にとっての問題は一つは異常な市場経済ぶりで航空券の価格が搭乗者の需要で分刻みで上下するなどの行き過ぎ。そして二つめに国内の地域間競争の激化。一つの生産品目について浙江省湖南省で競り合うなど資本主義経済での競争原理の度を超えた地域間競争が激化。さすが内地に籠る教授だけあり中国経済の実態には詳しい、か。
▼昨日の信報で鄭永年氏が日中関係について見事な論説を書いている。非常に簡潔。中国と日本の関係は理想論で「改善しよう」などと宣うより冷静に「どう管理するか」の範疇であること。二国間の関係など米ソ冷戦の時代を見ればわかる通り日本が米国に寄り当時、中国はまずソ連と蜜月にあったが中国がソ連と決裂し米国と関係を結んだことで日本も中国と関係が良好になり冷戦構造が崩壊し米国の覇権となると米中関係が拗れ日本との関係も悪化する。中国にとって最も重要なことは経済成長を持続することであり日本にとっては国際戦略のなかで中国との関係をどれだけ良好に維持するか。お互いが自国と相手国の利益を冷静に見極めればそのために何が必要で両国関係をどう管理すればいいかの実務は明確になる、ということ。見事な論理。
▼中環の路上の民園麺家が路上での営業権有する老人の逝去で路上営業権失い閉業の危機にあること先日綴ったが、この路上営業の飲食店、いわゆる大牌档(だいぱいとん)は香港に現存するのは僅かに廿九軒のみ。九龍の石Kip尾に十四軒、中環に十軒、湾仔に四軒と大嶼山等は大澳に一軒。これについて劉健威氏が見事な分析(本日の信報)。同じ大牌档と言っても九龍の石Kip尾のは基本的に「炒菜」系で(つまり煙油や汚水の問題少なからず)大牌档とはいふが大牌档の政府規定は二卓八椅子で実際には通り沿いの店舗も有して大規模に営業するのが事実。それに対して中環の場合は麺家、珈琲紅茶、甜品で環境問題も小さいもの。大牌档の最も集中するのはStanley街の突き当たりと民園麺家&玉葉甜品のあるハリウッドロード横の坂道で、その風情は独特のものあり、そういった大牌档の文化的価値を再考すべき、と。
▼外相町村君の「中国に媚び売るからおかしくなる」発言(こちら)に対して自民党野田毅君が町村君指摘の「ごまをする人」は自らのことか?と抗議。築地のH君に勧められ野田君のHP見ると日中関係靖国について理路整然、立派な主張あり(こちら)。サンデープロジェクトでの発言や産経新聞に寄せたコラム(産経、森田実氏の評価こちら参照)でかなり嫌がらせ受けている様子。自由党から保守党経ての自民党出戻りで苦労も多かろうが是非頑張っていただきたいもの。それにしても産経新聞がなぜ野田先生のここまで正論を載せてしまったのか。産経新聞がここまでリベラルだったとは驚き(笑)。
▼司法修習を終えて裁判官を志望せし神坂直樹氏が忠魂碑への公金支出の違憲性を問うた「箕面忠魂碑訴訟」にかかわった経験などが原因で裁判官への任官拒否された問題(朝日)。それが思想信条を理由にした違憲・違法なものかどうかが争われ最高裁は昨日、神坂氏の上告を棄却。最高裁の人事施策の憲法適合性について裁判所自身がどこまで判断できるかが注目されたが、訴訟が提訴から十年を経て最高裁は実体判断を示さぬまま神坂氏の全面敗訴で決着。氏は今後も任官希望する方針で最高裁が一昨年新設の下級裁判所裁判官指名諮問委員会での判断に任官の可否が委ねられる。諮問委は任官過程の不透明さを解消するための任官・再任を希望する全候補者について適否の意見を述べる。で今回の最高裁の第三小法廷の裁判長が藤田宙靖君。伝統ある東北大法学部の教授から最高裁裁判官任官。これまで東電OL殺害事件での「疑わしきは罰する」ネパール人容疑者への有罪判決(03年10月31日の日剰参照)やジャニーズ事務所社長ジャニー喜多川君の少年セクハラにつきセクハラの事実認めつつ週刊文春側の名誉毀損認める判断(04年2月25日の日剰参照)などあり。今回もご立派な判決。
▼武蔵野の市民運動家市民運動家って表現もヘン。単に市民としての活動だ)D君より先週の住基ネットについての正反対の判決。一つは金沢地裁、もう一つは名古屋地裁で対照表はこちら。弁護士にいわせると金沢地裁はプロの法曹の書いた判決。名古屋地裁のは結論ありきで論証部分が殆どなく司法修習生レベルの判決。で、二人の判事は28期と31期でほぼ同年代ながら金沢の方は地裁の支部ばかりを転々とする人生。一方の名古屋は東京、大阪、名古屋と中央の日の当たるところをずっとまわってきた典型的なエリートコースだとか。そういう背景だけでこれだけ異なる判決になるのだから。だから上述の神坂氏のような違憲訴訟に係ったなんてことだけで失格にする意味はない。最高裁裁判長藤田君程度にはそれも理解できまひが。
▼築地H君との組閣作業で人選に多少変更あり。外相町村君をせっかく内閣官房長官に抜擢したがここ数日の吠え方見て却下。野田毅君を外相に抜擢。
内閣総理大臣 - 福田康夫 H
無任所大臣(副総理) - 小沢一郎(無所属) FH
首相特命補佐官(中国担当) - 加藤紘一 FH
総務大臣 - 魚住裕一郎(公明党)F
法務大臣 - 武見敬三 F (評価↑)
外務大臣 - 野田毅 FH (新規抜擢)
財務大臣 - 亀井静香 FH
文部科学大臣 - 久間章生 H
厚生労働大臣 - 河野太郎 F
農林水産大臣 - 園田博之 F
経済産業大臣 - 額賀福志郎 H
国土交通大臣 - 平沼赳夫(古賀君絡み) H
環境大臣 - 浜四津敏子公明党) F
内閣官房長官 - 衛藤晟一 H (町村君落選)
国家公安委員会委員長 - 中曽根弘文 F
防衛庁長官 - 高村正彦 H
内閣府特命担当大臣
 沖縄及び北方対策担当 - 麻生太郎(古賀君絡み) F
 金融担当 - 塩崎恭久 H
自民党三役
総務会長 - 谷垣禎一
政調会長 - 笹川堯 
幹事長 - 古賀誠 (党内右派牽制)
衆議院議長 - 森喜朗
▼四度、浅草田圃について。久ケ原の畏友T君が「たんぼ」とくりゃぁ田圃太夫と称されし四代目澤村源之助、と。昭和11年だつたかに亡くなった江戸の悪婆の役の見事さで有名な役者(歌舞伎素人講釈こちら参照)。亡き歌右衛門も四代目源之助を「たんぼさん」と仰せだつた、とT君。当然、四代目源之助が浅草田圃に住んでいたゆへ「たんぼの」と云われたものでT君の記憶では「浅草田園」の田園を「たんぼ」と読むかどうかの話で源之助が「田園の太夫」と書かれた記憶は確かない、との由。やはり「田圃太夫」。ちなみに「エンコ」も上野が「のがみ」、新宿を「じゅく」と呼ぶような明治大正の現代語で(新宿はもつと新しいが)而も江戸以来の地元民というよりも地方出身で六区浅草公園周辺を徘徊した者が言い習わした隠語。浅草という場所が江戸らしさのように見られるがT君は浅草という土地柄、大正期には決して「粋」な風情ばかりにあらず。東武電車や常磐線など上野・浅草は北関東・東北方面への玄関口にて特有の田舎から持ち越しの土地感覚が漂い根っから東京人には寧ろ「ダサイ」町としての印象あり、と。確かに。
ナベツネ読売巨人軍のオーナー辞任から十ヶ月で会長として球団に復帰。唖然……といふより当然か。巨人はいま危機的な状況にあり建て直しに参画だそうな(嗤)。

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