富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

五月三十日(月)見事なほどの天晴。ここ数日気になる蘋果日報の「名采」人気コラム頁での地殻変動。最高位である左肩に長く蔡瀾氏君臨しその右(つまり上中央)に陶傑氏、蔡瀾氏の下に左丁山氏と固定していた(図)
蔡瀾 陶傑 某氏
左丁山 尊子1コマ漫画
それが蔡瀾と陶傑が交替し下段から才女・李碧華女史が抜擢され
陶 蔡瀾 李碧華
傑 尊子 左丁山
といふ布陣となる。饒舌で字数も増えた陶傑氏の人気上昇に呼応しているが、どう考えても蔡瀾の扱いへの苦慮。蔡瀾の随筆が内容も雑で投げやりで面白くないことは事実。だが天安門事件のあと周刊壱が発行された際に反中国色の強い週刊誌に著名な人気随筆家である蔡瀾が潔く連載開始した過去もあり蘋果日報も創刊以来の人気随筆。その恩義もありそう簡単に落とせないのが蔡瀾。だがネタのマンネリは他の連載随筆家に揶揄されるほど。で今回の「異動」が現在の蘋果日報で唯一できることだろうか。香港の新聞に特有のこの連載随筆頁はどの新聞にとっても重要で、とくに並べ方は「その頁開いたら何処に目がゆくか」で黄金律の如きものあり。信報でも唯霊氏と劉健威氏の場所など本当に移動困難。早晩にジム。一時間有酸素運動。帰宅途中にバスで乱歩の短編『化人幻戯』を光文社文庫で少し読む。黄金色の夕焼け鮮やか。九龍の超高層ビル金色に映える。帰宅してドライマティーニ一杯。薯蕷芋で麦飯。小芋煮。当然のように焼酎をぐいっと一、二杯。なぜ麦とろ飯で焼酎なのか。八十年代後半に新宿の三越裏に「麦とろ」といふ店あり当時はそれほど脚光浴びておらぬ焼酎が充実していた記憶。テレビニュースで中国の通商担当大臣欧州の中国繊維輸出への警戒に対して口から唾飛ばしながら強い反発見せる。それは結構だが「発展途上国の経済成長に対して」といふ一言に椅子から落ちそうになる。人民の生活レベルでは発展途上かも知れぬがロシアなど足下にも及ばぬ米国に対峙できる覇権国家で欧州がその繊維に象徴される輸出に全欧でその輸出攻勢を憂慮するほどの経済力。発展途上国とは……。ジョン=ダワー『敗北を抱きしめて』上巻読了。第八章「革命を実現する」は圧巻。戦後日本を「マッカーサーの指揮下にあるGHQと改革の課題に不本意ながら従っていた保守派の有力者たちと、日本の「進歩的文化人」や日本共産党は、それぞれ形は異なっていたものの、ともに天皇制民主主義の実績者であった」とダワーは断言。徳田球一が「愛される共産党」は「民主的な人民戦線の創設は資本主義を覆してまでも社会主義を実現するものではない」として「共産主義が真の愛国者、真の民主主義の擁護隊である」もので「現在進行しつつある、わが国のブルジョワ民主革命を平和的に、かつ民主主義的方法によって感性させることを当面の基本目標とする」とした当時の共産党は今それを聞くと「当時の共産党が?」と驚きそうだが小熊英二クン的にも、当時はそういう時代であった。この戦後の社会民主主義政党の魁となるべきテーゼがなぜ武力闘争政党と化すのか、がこの章の一つの主題でもあり。1946年は世田谷区の米よこせ区民大会に端を発した食糧デモが皇居に押し寄せる食糧メーデーにまで規模拡大したのだがダワーがここで着目したのは抗議団体が宮中にまで参内した運動は「民衆の抗議運動が天皇へ上奏する」形態であったこと。「マッカーサー元帥に宛てられた手紙が最高司令官に対する媚び諂いと平和と民主主義への賛歌が混ぜ合さっていたように、左翼を自認する人々が、奇妙なことに天皇の絶対的権威に訴えかけるという伝統的なやり方をとることによって、民主的な人民政府求める運動に汚点を残した」とダワーは手厳しい。当時の共産党社会民主主義的な現実的な政策は日本人民の支持を高め下手すると天皇共産主義国家の実現か(ダワーはそこまで言っておらぬが)。この民主改革の勢いは当時、吉田「臣」茂君が組閣に苦慮するほど保守派を追いつめており、米国は食糧支援の追加を決めて吉田内閣がどうにか政権維持したほど。この時点で戦後の保守勢力の追米隷属の道が決定したようなもの。民主的で平和的なデモに対して対ソ戦略もあり米国は進駐軍司令部をして「組織的指導の下に増加傾向にある集団的暴力行為は、日本の将来の発展に重大な脅威となる」と声明を発表し「無規律な少数分子による行きすぎた行為」(これが現代ではテロリストに当てはまるのだが)これの弾圧を明言し実行する。その後、国鉄の列車転覆「事故」など続き「革命勢力」は過激化すれば「危険」から身を守るために社会が権力に対して隷属化する社会となる……まさに戦後の佐々淳行的な治安国家の誕生。このモデルが現在のテロ対策社会の原型でもある。柳治男『<学級>の歴史学』少し読む。好著。
▼フィリピン在住の残留日本人姉妹が老齢おして来日。日本国籍取得要望の陳情。フィリピンには戦争で二千五百人ほどがまだ残留。靖国とか歴史の見直しする前にこういった人たちに日本国籍与える作業こそ保守反動右翼の諸君が率先して行うべき。
▼東京都では浜渦副知事の問題に端を発して他の副知事、教育長らが辞表提出していたが都知事は都政一新の抜本的な改革として浜渦君更迭。全て任せっきりにした部下の監督も出来ぬのだから「男だ」「日本人だ」と威勢よき都知事自身が「男らしく」「日本人の道徳心でもって」責任とって辞任すべきでは?
▼ヴィクトリア港の埋立工事の影響でスターフェリーの運航が前年比で25%、日に百本削減(SCMP紙)。埋立てで運行距離短くなつたのではなく埋立場所迂廻で時間要す。運行頻度も繁忙時間で4分毎が6分毎となり閑散時間は6〜8分毎が12分毎に。迂廻ばかりかヴィクトリア湾狭くなり潮の流れ激しくなり波もかなり立つようになる。
▼ドナルド曽蔭権君の行政長官選挙立候補(御用選挙で実質的な当選)。選挙事務担当の責任者に現役の警察予備隊副司令官(Lawrence Lam Yin-ming君)が就任し選挙法上も警察予備隊法上も違法と判断され選挙事務担当役も副司令官も辞任。政治的中立が求められる警察組織のいくら予備隊とはいへ副司令官が御用選挙での事務方とは粗忽。尤もドナルド曽君の実弟が元警察長官であるから今更驚かぬが。
▼取引先銀行から誕生月でお祝い届く。開けて喫驚。まずは旅行券。次に定期預金での利息増し、で最後に慈善団体への寄付のお願い。だが問題は旅行券は指定の旅行代理店で片道6時間以上のフライト距離にある目的地に旅行する場合のHK$600割引でしかなく、定期預金も50万ドル定期にしたら0.25%の利息増し、でカネを消費するか高額貯金しなければ利益なしの上に慈善団体に寄付せよとは失礼千萬。客の誕生日賀す気持ちあるなら失礼なサービス再考すべし、と提言添え顧客服務担当の責任者に送り返す。数年前までは要不要にかかわらず小物入れだの洋服掛けだの贈られ不要だと無駄であったが先方の気持ちは気持ち。不景気になりコスト削減もあり過去二年だかはCOVAのケーキ買えば大きさ倍にして差し上げます、で我は誕生日賀すことせぬが普通には(本人の消費をば前提にするものの)誕生日ケーキなら周囲の家族と友人とそれを頒ちあふも可。それが今年はこれ。粗忽その2。
▼顧客服務の意味わからぬは銀行ばかりに非ず。アメリカンエクスプレスも粗忽さは同じ。八月に親友来港の打診ありペニンスラホテルの宿泊料金調べる。アメックスのペニンスラゴールドカード有するためカード所有者優遇料金の照会願えばHK$2200とのこと。ふと同ホテルのネット予約で料金見ればHK$2188と万人向けのほうが安値(笑)。これは納得いかぬと問えばカード所有者にはVIP待遇で様々なご要望に対応しますしアップグレードも場合によっては可、と。ペニンスラともなれば客対応は普段でも慇懃でアップグレードも柔軟。市価価格より廉価で而もアップグレードなりあるのが特典。電話口の職員では埒あかず、その上司と話すが、この上役が驚いたもので我に向かって「その価格の違いがあるのなら何故ホテルにクレームしないのですか?」と。アホである。「あなたのカード会社のプロモーションがプロモーションにならぬのだから、客ではなくカード会社側がホテルと内容の確認すべきことではないでしょうか?」と説くと「ホテルと確認します」とのこと。本日の粗忽その3。その電話のお答えは「8月は閑散期でホテルは割引料金を提示しています。これはアメックスカードでの割引より安くなる。しかし繁忙期はそうならない」とのお答え。確かに3月の繁忙期にはカード優遇料金のほうが安かったが閑散期であるからこそカード優遇で廉価提示できてこそ。少なくともホテル側のネット予約料金と同額にした上でアップグレードなど特典あり、とくらいはすべき。それがマーケティングだが思慮足らず。だがこのアメックスペニンスラゴールドカードで、まだ上述の銀行よかマシは誕生月でペニンスラホテルからのお祝い、とカード届きペニンスラでお食事すればシャンペン一本と誕生祝のケーキを無料奉仕致します、と。6時間以上のフライトで海外旅行に行け、よかまだ現実的なサービス。
▼ヘラルドトリビューン紙のビジネス面にデジタルカメラの普及でContaxどころか、あのライカまで存続の危機、と。昨年度のライカの損失は1,550万ユーロ。フランスのエルメス社がライカの三分の一のシェアホルターで再建(というか維持のため)増資決定とか。そういえばエルメス仕様のライカM7発売になっていたが、そういう背景か。スウェーデンのHasselblad社はデンマークのImaconというデジタル会社に買収されドイツのRolleiはMP3やフラッシュメモリ製造で生き延びている、と。

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