富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

五月十七日(火)曇。昨年度分の所得税確定申告の書類記入済ませ郵送。毎年のことながら憂鬱。就労人口の四割だかが実質的に納税しておらず納税者の多くもかなりの控除枠で年にわずか数百ドルといふ現状。高額所得者もまた累進課税なきことで節税楽しみ結局は中途半端に収入のある層にかなりの負担あり。不公平。早晩に久々にジム。自宅マンション電気関係の緊急工事で午後十一時まで建物全面停電と報せあり。階下で漏電とか。「仕方なく」を理由にまずは銅鑼湾のバーYに寄りドライマティーニ二杯。Z嬢と北角の寿司加藤。板前N君の酒の肴美味。帰宅するとすでに通電あり。
朝日新聞夕刊で梅原猛「反時代的密語」に「日本の傳統とは何か」といふ一文あり。教育基本法の改「正」で政府與黨「傳統の尊重」謳ふことへの懷疑なり。筆者は「傳統といふものをどう考へてゐるかわからないが」としつゝ教育勅語を日本の傳統に根ざすものと考へ勅語の精神に基づき道徳教育行へば日本人が立派な道徳的人間になるといふ發想に對して持論述べる。保守反動右派勢力の最も深刻な誤謬は豐葦原瑞穗の國から明治の大日本帝國まで日本の姿をまるでパースペクティヴに日本の傳統的なものであるとすること。實は大きな斷層がいくつもあり、その一つが明治政府の近代へ向けての傳統の否定。梅原先生指摘するのは偏狹な國學的思想で占領された明治政府が日本の傳統である神佛習合否定して教育勅語も廢佛毀釋の神佛分離の延長線上で作られたこと。神佛不在の場所に新しい天皇といふ神を据ゑる。倒幕と近代國家建設に天皇が利用されたこと。そのやうな歴史の斷絶あること無視して實は存在もせぬ虚像でもつて傳統だの美徳説くことのまやかし。梅原先生は今上天皇が(と書くが今の若い人には「今上」なんて名前の天皇ゐたつけ?だらうか)百濟武寧王の血をひく高野新笠桓武帝の母)に觸れ韓國との縁を語り、君が代を歌ひ日の丸を掲げる運動を嬉嬉としてとして務める棋士(笑)に陛下が「強制にならないことが望ましい」と述べることが天皇こそ實は今の日本が妄想する傳統だの美徳の嘘に乘らず本當の意味での豐葦原瑞穗の國からの神佛習合に見られるやうな日本のいゝ意味での「好い加減さ」の象徴であること。傳統だの美徳といふまやかしに瞞されてはいけぬぞよ。

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