富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

五月九日(月)雨。Z嬢の旧友T嬢名古屋より来港。中部国際温泉空港開港記念の格安ツアー(三泊三万八千円)で名古屋より七十余人の団体旅行。かつてキャセイの客室服務員が日本便で「名古屋だけはイヤ」と内心を吐露。飲物サービス中に一人が「水割り」と言えば周囲が「俺も、俺も」で接客中にお尻触られビジネスクラスに乗せろと強要されカネ払えばいいならと財布から万札出す強者もあり、と。T嬢の宿泊先は屯門の黄金海岸酒店で団体飯は尖沙咀天文台道の漢京楼にて午後五時半より北京鴨。店にすれば晩の繁盛時間の前に客こなすわけで団体客も食後にオープンデッキバスでネーザン道お練りだのピークから百万ドルの夜景見物など楽しめもする。でT嬢の早い晩餐終わっても午後六時半でZ嬢お座敷かかるも芸者の務めと余がT嬢ピックアップ仰せつかる。といふわけで小雨のなか早晩にFCC。ドライマティーニ二杯。BLTサンドイッチ。T嬢より電話あり尖沙咀に向かうが折からの土砂降り。尖沙咀の地下鉄站より天文台道まで裏道選んでもびしょ濡れ。お座敷おわったZ嬢より電話あり尖沙咀には着いたといふので雨に濡れぬようシェラトンホテルで待ち合わせと決めT嬢連れまだ続く雨下シェラトンへと戻る。ロビーでZ嬢と前回はベトナム放浪帰りのT嬢十数年ぶりに邂逅。外に出るには雨もひどくシェラトンホテルのスカイラウンジ。FCCでフロア長であったE氏が此処で給仕長となっており偶然の再会。改装なった(といっても数年前)スカイラウンジ、もう少し隣席との余裕欲しいところ。夕餉まだのZ嬢は軽食。ドライマティーニ本日三杯目。天気さえ良ければ夜景もきれいなのだが一番の問題は湿気とホテルのこのラウンジの冷凍庫の如き冷房でガラス窓外気で曇り何如ともし難し。と突然ラウンジ内のBGMけたたましいMCに変わり何かと思えば曇ったガラスと雨と霧の向こうにぼんやりと霞む香港サイドの超高層ビルに派手な電飾踊り始める。これが噂に聞いていた光のページェントなり。テープのMCが紹介するビルが光り(ビル2つほどズレているのはご愛敬)十数分の演出が続く。これにあわせ団体客乗せた観光船がビクトリア港に浮かび月見ならぬビル見。屋根に金色の龍が踊る屋形船?もありダサいと思って笑ってみていたら、さすが名古屋出身のT嬢「うわ〜、あれに乗りたい」と一言。御意。「どうせなら中部国際空港との直行便就航記念でスターフェリーの屋根に金鯱シャチホコ)のディスプレイもお洒落かもね、と余が宣うとT嬢曰く「あれをダサい」と思うのは簡単で「素直にステキと言えるようにならないと」と諭される。確かに。雨も小止み。最悪の場合はYMCAホテル横から出る黄金海岸酒店のシャトルバスに直ぐ乗れるべくシャラトンでの歓談をと思ったが雨が止むなら香港観光楽しんでもらうべきで尖沙咀から佐敦の先まで歩く。数年ぶりに重慶マンションに入る。噂通りでこのビルの改修進み商店街もかつてのアメ横的な香辛料や布切屋などすっかり少なくなり携帯電話や電脳など電化製品売る店目立ちテナント料吊り上げて「好ましくない店舗」の追い出し功を奏してか空き店舗多し。数年でさらに「きれいな」つまり何ら面白みもなきショッピングセンターに変貌か。いつも歩く尖沙咀も観光客気分で歩けばネオンも眩しくデジカメで写真撮り。佐敦の中華国貨・裕華百貨店の店内冷やかし廟街。街に企つ売春婦かなり減る。T嬢のシャトルバスの時間までT嬢と甘味でもといふZ嬢と別れ一人地下鉄で銅鑼湾。客のある日はあるもので今は東莞だかに住まふF君と実に六年ぶりかで再会の約あり。F君は十二年ほど前か尖沙咀のボトムエンドの日本料理屋・銀座太郎に働き、その後ハッピーバレーで近所に住まひ懇意にする。ハッピーバレーの競馬場では「ハッピーバレーの虎」と名を馳せ、当時より(最近よくご一緒の)B氏関連の仕事請け負ひ広東省で生活の日々。今晩来港とのことでB氏に誘われる。再会の約までまだ多少の時間あり銅鑼湾でバーYに寄りハイボール一杯。若いバーテンダーのT君が酒調合にありがちな微笑ましいミスあり。バーSに移るとすぐにF君連れたB氏とグラフィックデザイナーのT氏三人も現れ一気に歓談始まる。F君に再会できるなら、とZ嬢もT嬢シャトルバスまで送り三更に駆けつけるがバーS近所から電話ありF君帰ったことにしてZ嬢悲しませようと酒場にありがちな策略でテーブル席にはF君除く我々だけでF君はひとりキザにカウンターで知らぬ顔で飲んでいて、といふ指向。Z嬢あらわれ深更まで涙出るほど歓談尽きず。京都のB氏に西宮のF君と広島カープのT氏皆香港十年以上住まひの猛者で格別級の御仁。香港で酒飲ませての「べっしゃり」の面白さ。強かった巨人軍へのオマージュなど可愛いほうでF君が神戸の地震災害復興コンサートでシンディ=ローパーが来た際に生田神社でのコンサート会場通りかかったF君が何のイベントかと警備のオッチャンに「何してんの?」と尋ねたら「なんだかウーパールーパだかが来てますねん」と言われた、と。深更歓談尽きず「ひとまず」カラオケに突入の三氏と別れ帰宅。バーSで朝も辰の刻迎えた勇伝ありの三氏ゆへ今宵も再びバーSに戻るやも知れずとバー店主M氏も嬉し悲し。
▼FCCで五月一日のオブザーバー紙眺めていると五日の選挙での郵便投票について注意喚起あり「郵便で投票用紙を受け取ったら」がまず最初。次ぎに「投票する場合は」とあり最後が「投票用紙を郵送する場合」に続く。ちょとしたことだが投票用紙の受領から発送の間に個人の判断として「投票する場合は」の注意事項があるのが興味深し。
▼連日の深酒であたま壊れているかもしれぬ。ふと思い出したのは一昨晩にバーSでカクテルの話題となりドライマティーニくらいしかカクテル知らず、飲まずだがヘミングウェイを真似てフローズン=ダイキリをばシュガーレスで飲んで余りの酸っぱさに驚いた話となり、このヘミングウェイのレシピでのダイキリが何度も物語に登場するのが『嵐の中の群島』という作品名であると口走っていた我。お恥ずかしいかぎり。『海流の中の島々』の誤り。『嵐の中の群島』ってのもヘミングウェイの作品にありそうな名だがソルジェニーツィンの『収容所群島』とでも混同したのだろうか。意外と驚いたのはその場にいたB君、バーSの主人M氏など吉田秋生の『バナナフィッシュ(甘蕉魚)』でブランカが読み耽るのがこの『海流の中の〜』で印象あること。所謂少女漫画でありながらさすが吉田秋生

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