富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

五月四日(水)晴。ふと思い出したのは今日が我を育ててくれた義理の祖母の誕生日。明治三十六年生れの卯年。早晩にジムで一時間徹底して有酸素運動。マガジンハウスの『ターザン』誌が母から送られた小包荷物に在り。表紙にはChemistryなるグループの歌い手の青年の端正に鍛えられた裸姿で、この時期の『ターザン』誌にありがちな「夏までの腹を凹ませる』なる特集(これが腹デフの若者刺激して売上げが何割か増えるのだろう)。この雑誌に余の香港トレイル50kmのゴールの時の写真が実に小さく掲載されていると聞く。かつては運動とは自民党革マル派くらいの距離にあった我が嘘でも『ターザン』誌に載るとは宮本顕治靖国神社参拝するが如し。後生までの記念。帰宅してウォッカを氷で飲む。麦とろ飯。NHKのニュース10くらいしか見れないので時間があれば見るばかりだが今晩は冒頭から九分費やして「五四運動の今日、中国では目立った反日運動はありませんでした」がトップニュース。確かに「何もなかった」ことにも政治的に深い意味あるが静岡での県警ヘリ墜落や福知山線事故続報、民間ヘリが送電線截断して新幹線運休など日本での事故災害の報道より「なかった反日デモ」が優先とは。而も五四運動の紹介で運動の発端を「当時、日本による中国での権益拡大に対抗して……」と説明。権益拡大とは美辞麗句、関税引き下げなどなら権益拡大といふ表現でもいいが明らかなる侵略行為でこの表現。これが被害者側にしてみれば日本は歴史を深刻に反省していない、といふ証左となる。でニュースの最後は「北京の在住日本人や日系の会社はデモがまた起きるのではないかと懸念しています」と〆るが実際に北京の日本人の具体的にどれだけがこう懸念しているのか。取材したのか。SARSの時の思い込み報道と一緒。「現地の情報を総合すると」とか「今後の行方に注目が集まっています」「現地では懸念が広がっています」といった表現でまとめてはいけない、ということはマスコミで記者が最初に叩き込まれる基本の「き」の筈だが。NHKの北京総局の加藤青延総局長(「せいえん」はまるで日本画の大家のような名だが「はるのぶ」と呼ぶ)が当たり障りのない「今後の反日デモがあるような、ないような」のコメント。本来なら加藤君は89年の天安門を現場で取材した人であるから「反日デモは収まりした。しかし最も懸念されるのは政府が何らかの形で誘発した噂もある反日デモが、いざ実施されれば参加者が今度は不法活動の犯罪者扱いにされる、その民衆の憤りがまた深く抑え込まれ、これが今後の中国の安定をどう崩すのか、それが懸念されます」とでも言いたいところだろうか。で計9分。JR西日本脱線事故の「続報」では「県警は今日は現場検証の範囲を拡大。列車がめり込んだ地下駐車場などで壁にできた痕跡の確認やビデオカメラでの撮影をしています」と。こんなことがニュース番組の原稿になることが甘い。そこで何か発見されて初めてニュースとなる。静岡での県警ヘリ墜落事故でも「こわいですねーっ」とよく話す主婦のコメント。ヘリの墜落よりテレビカメラ前にそれだけよく喋るアンタのほうが「怖い」と思う。これがニュース番組だと思うとやはり思考回路停止社会らしさか。渋谷の神南にあるNHK放送センターの建物の中でもテロ襲撃まで考え警備厳重なニュースセンターで莫大なエネルギーが注がれ毎日のニュース報道がされているわけだが「それでこの程度」なのだろうか。提灯張りの内職済ませジントニック飲んで臥床。
▼日本のマスコミが「何も起きなかった五四運動の日」を報道する時に紐育タイムスが何を記事にしているかというと反日デモに参加した世代へのインタビュー記事。これが報道。取材を受けた北京でNirvanaなる五店舗のジム経営する青年実業家の青年は反日感情を隠さず「自分たちの世代は中国の国際的地位にプライドがある。しかし日本人は六十年前と同じで中国人を見下している」と答える。マスコミが伝える言葉でこれを鵜呑にできないが。ここで記者が「具体的にどういう見下し方をされていると思うか?」とか「中国の国際的地位と覇権主義の関係は?」とか「トレーニングジム産業は非常に米国的産業だが、その米国は日本のように中国を見下していないのか?」とか、この青年実業家に問いただすと更に記事は面白いし、この青年がたんにマスコミの取材を喜んで受けてしまったのかどうかの真偽もわかる筈。いずれにせよこの反日感情が早かれ遅かれ対中国政府に向かうことへの懸念が記事をまとめている。
▼国民党連戦首席の大陸訪問終わる。今日の信報社説は具体的成果として、まず台湾へのパンダ一対贈与決定、次ぎに大陸からの台湾観光旅行解禁、そして台湾産果物の輸入品目拡大の三点挙げる。本来であれば中共と国民党との合作再開をば祝すべきところ「まずパンタ」とはにべもなし。今になって思うのは今回の両岸対話と先月上旬の反日抗議運動がセットであろうということ。昨日のSCMP紙で同紙編集委員のAnthony Lawranceが“Attacking Japan to win over Taiwan”といふ解説記事は興味深い。中国は台湾併合を急がないがその代償として日本叩きが必要であったこと。毛沢東が「台湾との対立が解決しないことは新中国建設にあたって中国共産党にとって最も重要な関心」と語ったと言うが「解決できない問題」の存在こそ国家経営にとって必須の命題。
▼その台湾問題について『世界』五月号に赤坂春和氏の分析が興味深い。台湾に対して「反国家分裂法」制定し両岸危機のように見えたが赤坂氏によれば胡錦涛政府の対台湾基本政策は「話し合いを求め、但し武力行使の策も捨てず、決して急がない」で、この「急がない」が大切。台湾の亜扁政府が新憲法制定に動いた際に米日政府が両岸情勢の緊張高まりに懸念が表明されたことで亜扁政権誕生以来初めて国際世論が中国に有利になり、米日の支持がない限り台湾の独立ができないとの認識で「急がない」時間をかけた台湾問題の解決の余裕ができたこと。そこで反国家分裂法を制定、と言うと何か矛盾しているようだが、この法制定で「台湾側が分裂行為をしない限り」中国は特段の実力行為はしないことを法的に明らかにしたこと。而も「統一法」にしなかったことは、統一法では中国が積極的かつ主体的な行為をとらねばならず、「反分裂法」としたことで急がなくても現状維持が可能になった、といふ赤坂氏の分析の妙。だが中国政府の誤算は、その「かなり懐深い」対台政策であったのに予想以上に国際的な反発を招いたこと。台湾に対してファッショ的強圧与える中国という印象で中国はその対応に追われる。赤坂氏の論析はここで終わっているのだが、現状は国民党連戦氏の大陸訪問にまで急展開。結局、反分裂法制定での負面の払拭が連戦の訪中急がせた、か。
▼ヘラルドトリビューン紙の読者投書欄興味深し。「ここまで、あり?」といふくらい要約際どい。例えば
Americans live in fear, not only of hostile foreigners, but also, and more grippingly, of sickness, joblessness, homelessness and despair about the future. The survival-of-the-fittestBush administration has turned the American dream into a nightmare of panic for basic survival - like affordable housing, education, health care - things other countries provide for thier citizens. とか
Your newspaper is pretty clear about what it doesn't like about the Bush administration. Please enlighten your readers if there is anything in the administration's approach to fighting terrorism that you do like.
とか前置きも婉曲表現もない。日本の新聞も見習うと面白いのだが。
▼三日東京は有楽町で革マル派全学連のビラ撒きに右翼が突入して小競合い(朝日)。それだけなら驚きもせぬが何が「えっ?」かといへば革マル派の諸君は憲法改正反対のビラ配り。革マル憲法擁護。余が高校生の頃同級のH君は大学生に混じり週末は泊まり込みで成田闘争に参加の政治早熟で革マル派だったがH君に憲法擁護なんて言ったらブルジョワ似非民主主義の憲法など「ナンセンス!」と嗤われて終わっていた筈。その革マル派が護憲とは時代もここまで変わったかと感慨無量。H君は高校卒業後「組合活動にあこがれ」当時の国鉄に就職。その後JRへの民営化と組合活動の形骸化のなかでどうしているのだろうか。でこの報道で革マル派憲法擁護より何に驚いたかと言えばこの騒ぎを見た六十三歳の男性の「まるで70年代の学生運動のころのようだった。平和な日本で今どき、こんな思想の衝突があるとは意外だ」といふコメント。まさに日本の最も深刻な問題がこのオトーサンの思考回路に集約されている感あり。冷戦下での健全な左右対立のあった政治的な当時の時代こそ平和だったのであり、今の日本が当時に比べどれだけ政治的に危機的状況にあるか。平和かもしれないが「護憲といった程度のことで」衝突になることの深刻さがこのオトーサンには全く理解できておらず。

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