富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

五月三日(火)薄曇。憲法記念日。だが今では憲法改正推進の日の如し。自民党保守反動右翼の諸君は非現実的で不毛な改憲護憲の対立の時代が終わり現実的思考の中で廿一世紀の時代に合致した日本の新しい憲法の創建と息巻くが実際は真っ当な思考と判断もなきまま漠然と「そろそろ憲法も変えたほうがいいんじゃない?」の空気。その無思考状態を戦後の弊害とし間違った個人主義や偏向教育の所為にするが真実はその戦後を担った政府与党が無思考社会を完成に導き自由民主党の結党以来の党是である自主憲法制定がその無思考社会の中で具体化できる時代へと至る。恐ろしきこと。朝日新聞憲法記念日にあたり樋口陽一先生の談掲載。
憲法とは国民が権力をしばるものだ、というのが、近代憲法が大前提にしてきた立憲主義です。憲法という国のかたちの中で、一人ひとりが自由に自分の生き方を選べるし、選ぶべきなのだという考え方。改憲論の中には、憲法に日本固有の歴史や伝統を書き込むべきだとか、国民が守るべき義務を盛り込んだ規範であるべきだといった、正反対の考え方がある。
と樋口先生の指摘。御意。西欧民主主義の憲法が「国民が権力をしばるという普遍的原理を掲げ、国民一人ひとりの生き方を指示しないのが原則」なのに対してアジア、アフリカやイスラム圏の憲法が自らの宗教、伝統、民族性など固有性を強調し、問題は「日本はこれまで国際的に西側文化圏の一員として自己定義してきた」のであり(明治以来の憲政上のこと)、その立場と「きちんとつきあわせた議論をしているのか」と樋口先生の指摘。つまり今どきの改憲が実は大日本帝国憲法制定する明治の近代国家からの伝統にそぐわない点。これは重要。晩に太古城にて工作任務あり「食文化不毛の地」太古城訪れるまえに北角ジャヴァ道街市対面の回味古法清湯南にて牛南米粉食す。美味。それにしても牛南「粉」(粉麺)注文したはずが牛南飯か?と言われ「飯じゃなくて粉」と言った末に「米粉」供され我が広東語の発音の拙さ恥じ入るばかり。太古城はあまり足踏み入れる機会もなし。ただその度にトラウマの如く思い出すは90年当時のクレジットカード発行事件。当時中文大学の学生であった余は香港でクレジットカードなき不便ありクレジットカード得ようと思うが収入も不安定(ほとんどない)学生で外国人とあっては信用皆無でさすがに当時銀行口座あった恒生銀行ですらヴィザカード発行せず。で困っていたところ「日系のジャスコやユニーのカードなら日本人であれば査定基準がかなり弛い。日本人家庭で飼う犬猫でも申請したら家族カード発給された」といふ噂あり。いわば都市伝説の類だが「佐藤ポチ」と印字され犬の写真と署名に足跡のついたカードあったら面白い。で当時は台所もない学生寮暮らしで日本食材購ふ必要もカネもない立場の余がジャスコとユニーのカード申請書ゲットのため香港に住んで半年だかして初めて太古城訪れる。でジャスコとユニーのカード申請書ゲットの帰路、太古城のMTR站(当時はコンコースにつまらぬ商店なく実に見事な空間)でアメックスカードの申請書も見つけ「どうせ無理だがついでに」とゲット。でクレジットカード申請。数週間後にジャスコとユニーから続けざまにカード発行不可の手紙届く。やはり。犬猫以下か、と落胆しておれば数日してアメックスより分厚い手紙届きカード在中に欣喜雀躍。懐かしきこと。工作任務完了し帰宅。ジントニック欲するがトニック罐はマークス&スペンサーの100ml罐もはや買い置きも欠いてシュウェップスの350ml開ければ雄に二杯飲んでも余る程で閉口。一杯目をゴードンドライ、二杯目をボムベイサファイヤで飲む。松本清張少し読む。
憲法改憲が何が怖いかといえば戦後六十年、否、正確には明治の大日本帝国憲法施行からの百十五年の歴史のなかで日本が個人、人権と社会に関して原則的ルールも作れずに来て、その状態で改憲など口にするいい加減さ。その判りやすい例が教育。日の丸・君が代の強制で東京都立高校ではこの春、卒業式に警視庁の私服刑事が張り込み。日の丸・君が代反対の団体によるビラ撒きを監視。ここでは日の丸・君が代の問題は問わない。問題はそれに反対するという「それだけ」の主張行為がまるで国家転覆行為の如く扱われる不思議。警察ばかりか学校側の対応が異常。具体例は町田市の都立野津田高校。学校長は校外でのビラ配りに対して警察に通報。校長が「校外であるが学校の敷地内」といふことで被害届出し勾留請求。警察→検察は道路交通法違反で逮捕。さすがに司法(東京地裁八王子支部)は「被疑事実が建造物侵入罪の構成要件を充足しない」と勾留請求却下(『世界』五月号と三日朝日社会面)。この過剰反応がどれだけ異常なことか。校長たるもの本来は学校への警察権力の介入を防ぐべき立場であり(非行少年の警察による補導を学校長が学校での指導を楯に少年を学校で保護するなど)、戦前とて官憲の力強きなか旧制中学高校において学問の自由と自治が伝統として育まれ、例えば明治41年の旧制水戸中学の校長舌禍事件と学生の同盟休校など(参考)今の日本では想像もできぬ学問と思想の自由に対する姿勢。大学など本来は羽仁五郎の指摘を待つまでもなく「自治体」であり何れの権力も介入できぬところに学問の自由存在したが東京都立大の如く国家政府どころか一介の地方自治体の長によって学問自由が骨抜きにされる悲劇。「いわゆる先進国では」想像もできぬ、この惨澹たる個人主義と人権の蹂躪。でただ「和していればいい」集団社会。それが憲法改正に着手とは。憲法改正の暁には日本国籍離脱し……は「まさか」。
▼松戸出身で蘇州在住のI君、グリーンスパン君の金利引き上げに伴う円安嫌い東京三菱銀行に預けし日本円ドル転換し香港に送金せむとネット上で試みればオンライン繋がらず。四日は「国民の休日」でオンライン取引も休み。オンラインは年中無休に意義があるもであり而も外貨為替両替で「日本の」祝日でオンライン不通とは。それがワールドスタンダードか。為替操作は譲っても口座確認さえ出来ぬロジック乏しき「決まりごと」崇拝国家の僕のなせる業か、とI君。香港も銀行のネット業務当たり前の中で東京三菱銀行はいまだにセキュリティ重視で顧客に専用ソフト供してのモデム通信。そのサーヴィスに海外電信送金のオプション機能追加する場合に月額五百ドルの使用料としり驚くばかり。今の時代、寧ろ窓口業務こそ地代人件費量むのだから手数料徴収でいいかも。
▼香港の星巴克珈琲が営業開始から五年で五十店舗。珈琲文化不毛といわれた香港で俄然好調。香港のスタバ経営はご存じの通り美心飲食集団(マキシム)。信報の記事で興味深いのは美心集団の御曹司伍偉國の指摘によると米国では七割の客がテイクアウトなのに香港では95%が店内で飲食。また珈琲と一緒にケーキなど食す客がアジアでは多く売上の四分の一が珈琲など飲物以外の食品であるそうな。テイクアウト率低いのは、香港の場合とても店先や近くの公園で珈琲飲むには高温多湿と大気汚染醜悪で、どうしたって店内のほうが快適。ケーキなど甘味売上好調もわかる気がするが美心集団のトレーで各店舗に運ばれてくるのを見るとどうも我はあまり……。
▼ドナルド曽蔭権君の行政長官代理就任で気になっていたのが何故曽君は行政長官専用車(豊田自動車センチュリー)に乗らず「CS」ナンバーの政務長官車(BMWiL)のままなのか、ということ。代理でも行政長官専用車が使えることは董建華君外遊や休暇の折に代理務めた曽君であれ梁愛詩女史であれ専用車に乗っていたわけで曽君なら有無を言わさず専用車といふ気がするが。で今日の蘋果日報の副刊「汽車専題」でこの豊田センチュリーとBMWの7シリーズ最高級車取り上げ比較。価格ではセンチュリーがHK$1.7M、7シリーズがHK$1.3Mで値段的にはセンチュリーが40万ドル高いし内装もずっと豪華。ナンバープレートがわりに香港特区政府のダサい紋章がつく。並んでいると比較に易いがセンチュリーは董建華には似合うがオヤジ臭く曽君はあヽ見えて格好つけるのが好きで実際は還暦だが若々しくヤンエグっぽくBMWの7シリーズに固執するのであろう。行政長官車は今のセンチュリーになる前は実はこのBMW7(99年購入)。曽君はそのお下がりなのだが自分がこれに乗りたくてボスの専用車をセンチュリーにした、とか。いずれにせよ曽君の横柄さはすでに露骨で自動車の話題だけでも先日は毎朝の出勤途中の教会での礼拝で山頂の政務長官公邸から下りてきたCS車は花園道で車線変更禁止を越えて聖ヨセフ教会に右折強行するのを蘋果日報に暴露され翌日から交通規則遵守。で昨晩はホンハムの香港体育館でのマイケル許冠文のトークショー参観の曽蔭権夫妻乗せたCS車は体育館側らを入場待つ参観者をこれ見よがしに進入禁止域まで乗りつけ夫妻は殆ど歩かず入場。国際会議など公務ならまだしも休日の個人的遊行でこの横柄さ。董建華には見られぬ(勿論董建華夫人は論外だが……笑)悪態なり。

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