富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

一月十八日(火)iPod用のiTripなるFMトランスミッター購ふ。iPodが十分に機能性高く室内でもケーブルにて音響製品に接続せばイヤフォンなしでも音楽鑑賞可。なぜわざわざFM電波にてiPodからFM機に飛ばすのか、FMトランスミッターの品数の多さ理解できずにいたが、ふと思えばiPod Shuttleの如き製品出たが小型携帯ラジオこそ持ち歩き最も楽で革鞄のなかにFMトランスミッター装備のiPod入れ小型携帯ラジオにて聴取せば確かにケーブルなど邪魔にならず便利至極。晩に上環に有事。昏時さきに晩食済ますべくConnought Rdの金葉海南餐庁に海南鶏飯食す。この店は確か改名したかもしれぬが香港にて新嘉坡系では老舗。銅鑼湾の南洋餐庁閉業とマンダリンオリエンタルホテル地に堕ちた今は香港にて海南鶏飯の美味さではここが筆頭か。鶏肉もけして肥えてもおらず痩身でもあらず日本語にては表現し難いが「滑」の歯ごたえ秀逸。十五程前若き友人この近くにてグラフィックデザイナーしており昼時この店に連れて来られ屡々訪れたが七、八年ぶりか。上環の小さな録音編集スタジオにて作業。経営者兼編集者のK氏なかなかの紳士にて聞けば香港警察にながく勤め早期退職にて趣味でスタジオ経営だそうな。晩遅くまでの編集作業など若者の仕事のようだが警察時代から夜業は慣れている、とK氏。納得。作業済ませば午後十一時。ここで真っ直ぐ帰宅せば可愛いものだがタクシーで向かった先は銅鑼湾。Bar Seedに寄り一飲のつもりが、こんな晩に限って店も閑かで十二時には客も我一人。ついつい亭主M氏と酒談義。M氏と語らえば驚くこと多く今晩は香港の酒屋の話となり中環のOliversは別格として他に何処の店が酒きちんと揃えるか、と思えば余が思い浮かぶはまずは尖沙咀の、と言えば、M氏が山林道に、と隙かさず酒屋「銀鈴」で、それともう一つ名前も知らぬが佐敦の徳成街に何故ここに、といふほど小さいが立派に酒瓶の並ぶ酒屋あり、と余が言えばM氏かつて尖沙咀の店に働きし折そこから何本か酒調達、と。それにしてもあんな店のこと知る人他に知らず、と我もM氏も驚くばかり。老夫婦の営む酒屋にてあと何年続くか。あの店の酒の在庫はどうなるのか。かなりビンテージの酒多く散逸だけは避けたいところ。店ごと買収の要ありかも。そのほか油麻地あたり迄何軒か気になる酒屋あり一度きちんと探検を、などと話しておれば午前三時。今晩の酒はモルトでここまで辛口があったか、と驚くBraes of Glenlivetの75年物(01年瓶詰)。辛いは辛いがBenromachよかずっと風味あり。
▼昨日の「方々、参る」につき久が原のT君から、T君は京都へ初釜に向かふ寸前に返事いただき、咄嗟に平家物語思い起こしても「参る」がかりに命令形で先陣に「参れ」でも思い当たらず。尤も平語がそのまま厳密に当時の直接話法を写したわけでもなかろうが「見参に入れん」「見参せん」は当時の通行語とはいへ「方々、参る」はどうも江戸時代の武家言葉(結構丁寧)臭さあり、と。いずれにせよこの『義経』とてT君の如き目利きからすれば衣裳・室内調度・用語どれも×。せいぜい戦後の黄金時代の時代劇映画レベルまで遡れれば良いほうか、と。この「方々、参る」がT君は「いさうれ者ども、我と思はん殿ばらはこの義経に続けよや」とでも言えば立派に源平盛衰記、しかしこれぢゃ、たきざはクンも「???」でせうねぇ、とT君。御意。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/