富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

一月十一日(火)晴。地震津波に北極からの寒波での大雪大雨大洪水。香港は雨も降らず広東省の経済勃興による大気汚染。本日諸般いろいろ不愉快なこと多し。そんな日にかぎり唖然とするほど思考能力と常識皆無の方から電話での問い合わせなどあり辟易。対応に苦慮。疲れた日にかぎり携帯は忘れる、タクシーに乗れば自宅までの料金に見合うだけの現金持ち合わせず途中の天后站で降りれば香港に珍しくも站の地上周辺に銀行なく地下コンコースに降りれば恒生銀行のみで他行の機械は一旦改札入らねばならず改札潜りこれで出札せば入場料取られるのも癪なので結果的に地下鉄に搭りいつも以上に時間要して帰宅。シチュー。休肝日で食後に走ろうかと思ったが貰ったビデオに読売テレビ大阪ガス提供「大阪ほんわかテレビ」の年末特集あり「どーでもいい」情報喫茶店ランキングなどついつい見てしまひランニングの機会逸す。一ヶ月遅れで岩波『世界』一月号読む。寺島実郎氏などの文章読み、旅券保有率がわずか1割といふ閉ざされた国家・米国での総統選挙においてのキリスト教原理主義の強さや選挙での明らかな不正など、あらためて唖然とするばかり。原理主義といへば昨日、Tu女史もキリスト教からの乖離にはこの原理主義の受け入れがたさと言及あり。
▼信報に畏友登β達智君「元朗之醜」といふ随筆あり。生っ粋の元朗之子の登β君はこの地に千年の歴史有す旧家の嫡流。その彼曰く自然裕かなこの地の破壊は今日も続くが何よりも元凶は八十年代の屯門より元朗に至る軽便鉄道の建設。青山路の緑豊かな樹木がこの鉄道建設にて伐採され元朗市街はこの鉄道により南北に分断され醜悪さもさることながら自動車交通も不便きたし必要以上の渋滞招く。その鉄道建設が本来の目的がけして新界の公共交通網の整備にあらず英国にて建設需要減った軽便鉄道の供給であったと登β指摘。この大気汚染のなかこの醜悪なる元朗の街を眺める登β君の悲しさ。
周星馳の映画『功夫』について。数日前の朝日新聞にも褒められぬ映画褒める苦肉の映画評あり。かつての映画の都・香港にても最近で唯一集客ある周星馳王家衛の如く容易く罵倒できぬ空気あり。そのなかでまず五日の信報に梁款なる人の「城市筆記」で周星馳に今以て無頼さ求めるのは筋違いと、その意味で魅力なきことを指摘。それに続いて、七日の信報に匿名の「周星馳功夫」(周星馳こそ工夫が必要)といふ映画評ありこの映画に苦言呈す。この映画に失望、と容赦なく、まず物語散漫にて明確な主題なきこと。チンピラになること夢見る若造が突然どうして正義に覚醒め、どのようにカンフーの技力を学び、なぜ最後には仏にまでなってしまふのか……一切不明。それぞれの場面面白くとも物語全体として『食神』や『喜劇之王』『少林足球』に比べ見劣り。更に周星馳に対して「監督として」最も秀でた役者つまり周星馳の起用に浪費があり、この役者の最も素晴らしい演技を引き出せなかったこと。その原因は本人が監督兼ねることで周星馳本来の役柄、ネタを他の役者へ振ることで本人が他の役者のなかに埋もれた感あり、と。御意。そして十日には香港大学アジア研究センターの鄭建生なる助教授が『功夫』を例にして海外資本にて中国映画製作の難しさについて言及。『功夫』は制作費1億5千万香港ドル(二十億円以上)の大作だが海外で売れる作品に仕上げるための制作上の要求、制限も多く制作者として周星馳もかなりの苦労と関係者の弁。余の感想は実際に映画見てみれば「奇っ怪な中国映画」の域を出ておらず、とても世界水準で笑える作品とはいえず。『食神』のほうがよっぽど食の都・香港のイメージで受け入れ可であるし『少林足球』は少林寺といふ世界的にも有名な武道の寺とサッカーといふ世界で最も普及した球技の組み合わせ、その発想だけでもう面白そう。それに比べ『功夫』は異様なるシノワズリなり。

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