富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十二月八日(水)晴。早晩に湾仔。華潤の薬局にて昨日注文の漢方薬受領。改装なった中藝百貨にて母にカシミアのカーディガン。自分にもカシミアの丸首セーター購ふ。湾仔のDHLに寄れば送付物一見して社内規定により許可なしでの持ち込みでは運送不可との由。タクシーで中環。中央郵便局の小包櫃台は聖誕節前で故郷に禮品送る人長蛇の列。今晩のハッピーバレーでの競馬はInternational Jockeys Championshipにて世界の馳名の騎手集まる。Dettori君の姿なく寂しいがファロン、スミヨンといった騎手に日本からは常連・武豊君参戦。R4〜6の3レースで勝敗競いR4の4班芝1マイル競走にて武豊君Cherishedに騎乗。4.8倍の二番人気。中位につけ狭いHVのコースで最終コーナー回っても前方塞がり「ダメか」と思ったが最後二百米で左前方僅かに空いたところ見事にそこを尽いての勝利。三年前の国際ヴァースでのステイゴールドの劇的なるEkraar負かした勝利での武君の騎乗思い出した香港ファン……いるか? R6で武君入賞期待でき結果スミヨン騎手一着で武君三着にくらいつきR4で三位のスミヨン騎手と同点でこのチャンピオンシュップ獲得。阪神競馬場での日本での同大会に優勝の香港地元ホワイト騎手は振るわず。R7で馬主C氏のDashing Champion二番人気で期待されたが振るわず。遅晩に折口信夫『餓鬼阿弥蘇生論』読む。
折口信夫と藤無染につき久が原のT君よりメール拝受。今日八日釋尊得道の成道會。去る五日に浄瑠璃本の蒐集にて有名な虎ノ門大倉集古館にて素浄瑠璃の会ありT君「中將姫古蹟の松」雪責の段を聴かれる。浄瑠璃は豊竹嶋大夫。で話は折口信夫になるが大正六年の釋迢空の歌に
窓の外は 師走八日の朝の霜。この夜のねぶり 難かりしかも
とあり。死病の床に臥す母堂看病中の吟。これは一種の本歌取りで前述「雪責」の
あらいたはしの中將姫、七日七夜は泣き明かし、明くる八日の朝の雪
は継母の折檻に悩む姫が下着薄着で雪の庭に引き出ださる場面。迢空がその前述の歌衰弱の母堂に示せば母堂たゞちに推察し「あゝ、中將姫さんの雪責かいな」とつぶやき莞爾たりしと云々と。でまずはここまで折口と中將姫の話。で中將姫説話の集大成・世阿彌作の能「當麻」に
濁りに染まぬ蓮の絲の、五色にいかで染みぬらん
とあり。中將姫は右大臣藤原豊成の息女。清淨なる信仰を紡ぎ出だすのが能「當麻」の物語。おわかりの通り「藤」家の姫が何物にも「染まぬ」ままさに「藤無染」。信夫にとって母堂死去の吟→「死者の書」に至る中將姫幻想が「人生を貫く通奏低音」ならば、この「藤無染」とは名乗りも名乗ったる逸名。信夫の中將姫への思い入れ思えば、この藤無染といふ名の人の存在も「あんまり」といふ気もしないでもなし。『二聖の福音』なる藤無染の著書の存在明らかとなり「既に現存の人物と知れし今も半ば架空の人物の如き心地してならず」とT君。

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