富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十一月三十日(火)晴。橋本龍太郎的に表現すれば、余は本日は行動予定表や手帳に記載に基づけば早晩に中環に行ったのは事実だと思う。ふと思い立って献血した事実は否定しない。通常以上に時間がかかり行ってから献血終わる迄八十分を要した記憶がないわけではない。それからハリウッドロードの額縁屋に頼んでいた鏡の直しを受け取ったという記録もある。そのあとFCCに寄っていつものようにドライマティーニを二杯飲んだのではないかという疑いもあると聞いてはいるが実際にはそれは事実ではない(とここだけが威張れるところ)。帰宅経路は今となっては記憶にないが帰宅したのだろう。……とこれじゃボケ老人か、たんなる嘘つき(笑)。それが元首相。子どもに「嘘をついてはいけない」とか「自分の行動には責任をもて」などとは誰も言えまい。香港は香港で、ホンハムに建てられた公団住宅が政府の二年前の不動産価格下落時の公団住宅の販売中止で売られぬまま放置されてきたが、それを財閥系民間デベロッパーが買収の上で取り壊して高級マンション建設の「再開発」をば批准する方向。さすがに世論の非難を恐れデベロッパー側は環境保護と資源再利用謳いすでに室内に整備された浴槽や冷房機などは新中古で売り出し売り上げ慈善団体に寄付だとか、建物の混凝土は埋め立てに使うとか、建物資材の九割以上が再利用可として建物取り壊しの工事も付近の環境保護優先して最新の工法だとか。そこまでするのも結局は不動産価格の再びの上昇で既存建物の取り壊しと再建築でも六十億ドルだからの利益が見込めるそうで。この無節操なる「開発」問題で政府の愚鈍なる役人ら誰も責任もとらず。西九龍には巨大文化施設建設だとか、思慮と感性に乏しき者が弄るなら単に公園にでもしておくことが後生へのせめてもの遺産のはず。金陵の純米酒でおでん。映画撮影師・西本正を山田宏一山根貞男がインタビューしてまとめた『香港への道』(筑摩書房)読む。旧満州満映で映画撮影の道に入り戦後新東宝中川信夫監督『東海道四谷怪談』の撮影をした西本正。話は飛ぶが80年に第4回の香港国際映画祭で中国チャンバラ映画の巨匠・胡金銓作品上映があり、この映画祭訪れた山田宏一山根貞男は胡監督にインタビューするのだが二人が英語難あり日本語堪能だからと通訳で紹介されたのが当時ショウブラザース映画の撮影所所長であった蔡瀾。蔡瀾との話でブルース=リーの映画の撮影をした賀蘭山といふキャメラマンが実は日本人で西本正と言うと聞き、帰国してその西本が上述の如く『四谷怪談』で注目浴びた西本正だと判り山田と山根の二人による西本正への取材始まる。二人は92年には同映画祭に「発見された」小津の『突貫小僧』など映画持って来港もしている(この上映を余も92年い見た記憶あり)。で、西本の話だが五十年代末にショウブラザースからの招聘で香港に数作の撮影に来た西本は李翰祥の名作『梁山伯與祝英台』などを撮影。一旦帰国するが日本映画斜陽に見切りつけ再び来港。66年には勝新太郎座頭市』に影響受けた前述の胡金銓の名作『大酔侠』撮影。西本によれば、胡監督はショウブラザースと袂を分かち台湾に渡り『龍門客桟』(邦題『血斗竜門の宿』)を作ることになる。この作品は数年前に徐克(ツイ・ハーク)によりリメイクされ、蔡明亮台北の閉館する映画館舞台にした『不散』でこの映画を映画館の最終上映作品に用いているが(『不散』で主人公演じる苗天の俳優デビュー作がこの『龍門客桟』)。その後も西本は香港で活躍続け日本から、小林旭映画などで著名の井上梅次招聘するなどにも尽力。で西本にとって最も大きな仕事となるのがショウブラザースから独立したレイモンド=チョウによるブルース=リー作品の撮影となる。日本での公開順でいうと2作目の『ドラゴン危機一髪』、3作目『怒りの鉄拳』で初作『ドラゴンへの道』となるのだがた西本のカラー撮影技術はブルース=リーをかなり満足させる。西本の膨大な語りのなかでブルース=リー十五、六歳頃のデビュー作『雷雨』など興味深い。で西本はその後マイケル=ホイの『Mr.Boo』シリーズなど撮ることになるのだが、あの当時、マイケル=ホイの怪しげな香港映画大笑いしていた余もまさかこの撮影が日本人キャメラマンなどとは知る由もなし。ところで西本によればマイケル=ホイはもともと李翰祥の『大軍閥』72年という映画に主人公として俳優デビューだったそうな。この本からかなりいろいろなことを知る。蔡瀾氏がショウブラザースからゴールデンハーベストに移る当時の逸話なども興味深い。その西本は九七年一月に香港で没くなるのだが、インタビューの中で八七年の当時すでに日本で脚光浴びる香港映画のレベルが落ちていると嘆き、監督が素人で編集でどうにか作品に仕上げてはいるがベテランの編集技師がいなることを憂慮。実際にその通りの現状。ちなみにこの秋、西本の生まれ故郷の福岡で福岡市総合図書館で西本正撮影作品特集上映が開催されたそうな。
秋篠宮誕生日にあたり記者会見で兄宮の先頃の皇太子妃に絡む人格否定発言につき秋篠宮は驚き陛下にも事前に相談なかったこと残念に思ふ、公務は受け身的なもので云々と兄宮の「身勝手」に比べ実に優等生的なるお答え。宮中事情察し得ぬが希臘劇とシェイクスピア下敷きに蜷川演出で平幹二朗?……は否、それぢゃ絮すぎるから敢えて鈴木忠志演出でオイディプス王ならぬ宮中劇は如何だろうか。父親役は加藤剛中村敦夫、兄は宮脇康之で弟にはいしだ壱成を敢えて抜擢。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/