富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十月廿四日(日)快晴。大埔站にO君、I君と隊りタクシーで大尾督。八仙嶺に登る。最初の頂・仙姑峰(五百十一米)まで五十分、黄嶺(六百三十九米)を越え屏風山、奈落の如く下り鶴藪水塘まで大尾督より三時間ほどで辿り着く。鶴藪圍の村よりミニバスで上水聯和墟。車窓よりジャズラーメンを覘けば昼の営業中で満席。まだ時間に余裕もありと嘘の如き名前の「デラックスレストラン」にて生ビール飲む。パブではないし一応、何か注文すべきかとエスカルゴ(缶詰)とチーズのかかったムール貝の二品。二時近くとなり「そろそろジャズラーメンも空いたか」と向かえば「休憩中」の看板あり。二時で閉店で「あの三人なんですが何とか」と請ふても「二時で終わって」「ちょっと」と内儀が店先に出で「二時までなんです」とまだ説明されるので内心「それはわかっているから、どうにか請ふているのだが」と思っても埒あかず。諦めるしかなし。寧ろラーメン一杯にこうして客でありながら店に愛想売る自分に情けなし。たかだかラーメンだろうが。といふわけで客家料理の新漢記へ。太鹽鶏、姜鼓葱爆珍珠螺(牡蠣の卵焼き)に一品雑錦炒魚麺といふ魚麺とは魚のすり身用いた米粉で実に美味。上水站。列車の行き先が「尖東」とあり何かと思えばKCRのホンハムから尖沙咀東への延長線が開通。だが今朝はいつも通りにホンハムからの発車であったが、本日午後三時に開通の由。新線初乗り。それにしても「尖東」といふ陳腐なる站名は如何なものか。尖沙咀の東、かつての操車場跡地の再開発で尖沙咀の東部のそこが「尖東」と俗称で呼ばれた「だけ」で、東中野を「東中」、東日本橋を「東日」と呼ぶ如し。而も東中野は小さな通過駅に過ぎぬが、こちら歴史ある広東九龍鉄道の終点としては陳腐この上なし。もともとこの路線の始発站は「九龍」といふ站名でありながら格調高きこの名をばMTR空港線の新站に譲り「ホンハム」といふ「狭い地名」となり、今回の新線で「尖東」なる更に格の低さに至る。ちなみに広九鉄道の歴史は
1898年 英資会社が清朝政府より九龍より広東に至る鉄道専利権を獲得
1904年 ネイザン総督が尖沙咀を鉄道始発站と決め尖沙咀の半島突端の埋立て工事開始
1910年 九龍より羅湖までの英国建営部分の開通
1916年 九龍站完成
1921年 九龍站時計塔(現存)完成
1975年 九龍站が現在のホンハムに移転
1978年 九龍站舎取り壊し
1990年 旧九龍站時計塔が重要歴史建築に指定される
2001年 ホンハム站より尖沙咀への地下路線の建設に着工
2004年 ホンハム〜尖東区間開通
O君、I君とお上りさんの如く「尖東」新站のホームからコンコースを参観。出札口に「KCRのご利用ありがとうございます」なる文句が英独仏日韓で書かれ「亜州国際都市」らしさの演出だろうが仏語は“Merci pour voyager par KCR”で日本語は何と「KCRによって走行しているありがとう」と意味不明。無理に理解せば乗客がKCRのこの鉄道営業に感謝すべき、か(笑)。地下道より尖沙咀ハノイ道に出る。ちょうどドイツビール飲ますBitburgerなるパブの前で復たビール飲む。三時間歩いてもデラックスレストラン、新漢記に続き三軒目で山歩きの甲斐もなし。帰宅するにMTRに乗ればここ数日かなり気になるはThe Spaghetti Houseといふチェーン店の広告看板でチキン味とポーク味の新しい料理の宣伝なのだが(合成写真ではあろうが)生きた鶏の上に黄色いソースかかる図ともう一枚は豚の頭にだらりと同じソースのかかる図(写真)。家禽類の肉食すは事実だが生きた鶏だの豚にだらりとソースかけて何か美味いもの想像するのだろうか。広告発案者、このスパゲッティハウスの担当者、責任者、広告代理店、MTRのいずれも疑問に思わぬのだろうか。発想と感覚の異常さに恐れるばかり。晩に銅鑼湾の茶荘「邀月」に二十年近く前に仙台にて業界仕事にての知己、K君とS君それぞれ夫人連れ来港ありZ嬢とK君らに会い旧交暖める。K君は当時仙台の業界某社の若手プロモーター、S君はその会社の学生バイトでK君も数年前に上京し新婚の奥様がかつて香港に住まひ今回は知人の結婚式に参列のため来港。S君は今では人気高き「ドラゴンアッシュ」の事務所社長。「邀月」は五年前だかに開業の茶荘。食事も供しK君夫人がかつてこの店で中国茶習った由。功夫茶の作法知らずの余はいつもこの店の向かいのイーストエンドにてビール飲むばかりでこの茶荘は始めて。経営者のV氏の招飲に預かり赤葡萄酒、上等なる紹興酒。料理はあっさりとなかなか美味。この季節始めて上海蟹を頬張る。上海蟹紹興酒あれば秋はほかに何も要らず。FCCのバーに場所を移し款語笑話深更に至る。

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