富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十月十四日(木)快晴。イラクサマーワにて自衛隊員2名がパトロール中に爆弾で死亡といふニュースありマスコミは報じておらずと東京の報道関係の友人よりメールあり。誤報といふ説もあり、と、そこに読売新聞の号外がメールで届き「やはり」とドキッとするが開けてみればサッカーで日本がオマーン相手に勝ちW杯最終予選出場。晩に独り尖沙咀の「Kimberley Roadの」源記茶餐庁に食す。叉焼だの焼鵝だの焼蝋が馳名の店ながら焼蝋は高カロリー多脂質で「金牌」と店が自慢の牛什麺を食す。あっさりと上品な味だがふと思えば香港で殊にこの尖沙咀に「源記」と名宣る、殊に牛什だの牛南を供す食肆いつたい何軒あろうか。余が知るだけで四軒。遅晩にウォッカ檸檬搾り飲んでいてふと思うは人の行動に「異常」といふものあらず全ての行動が自然であり、だから許されるといふものにあらず自然のままでは自我の崩れた存在としてのヒトは暮らせぬから何らかの規範が必要になるが、問題は、その最低のルールを越えて、それが英国でいへばビクトリア朝以降なのだろうが、寧ろその行為者をば異常者とレッテル貼ることでその異常者に向けた「健常者」のまなざしと、その異常者を排除することでの共同体の社会化図ること。殊に近年、その健常者がテロだの変質者だの異常者に対して「異常に」過敏反応であり、そのテロだの変質者の存在で自分が生きていけぬような錯覚に陥り、場合によっては寧ろ健常者と信じる己れが実は異常者になっていること、勿論本人はそれを理解するはずもなく毎日自分は健常者として生きているのだが、そんな社会が現在あること。『世界』十一月号にテレビ朝日の紐育特派員であった丸川珠代女史の「ブッシュを支持する人々」といふ文章あり。米国大統領選挙の共和・民主の支持率がかつては4:4で2割の浮動票の取り合いであったものが今回は45:45で僅か1割の、それも中部州のわずか千万の単位の投票によって米国大統領が決まる現実。ムーア監督の『華氏九一一』が米国でヒットすることで米国の良心と見ても、実はこの映画見る人は民主党支持の45%の中だけにありブッシュ支持者が見る筈もなく、いくらこの映画でブッシュをば揶揄しても45:45:10といふ比率に影響なきこと。而もブッシュは小学生でもわかるような英語の間違いがあり、新聞も読まず(読めず?)、イラク大量破壊兵器は見つからず千名を超える自軍の兵士が死亡し失業者はこの4年で百万人増加し財政赤字はゼロから4770億ドルにまで膨張し……とその大統領を国民の半数が支持する事実。何がそのブッシュ支持かといへば、前回の選挙でいへばゴア候補のスマートさへの嫌悪であり今回はケリーのわかりづらさであり、それに比べて酒場で会ったら肩をすぼめて「ヒーヒーヒ」と笑うこの男(ブッシュ)はすぐさま声をかけて握手して盛り上がれそう、といふ感覚。ではブッシュでなければならないか、といふとそうではなく石油メジャーであるとか軍事産業、基督教(プロテスタント)保守派の原理的福音主義者など「ゴアやケリーじゃ困る」人たちにとって「無害な」(イラクだのにとってはとても有害なのだが)この大統領。やはり当選するのだろうか。だがケリー当選でイラクから名誉ある撤退となることも期待できず、ケリーの「よくわからなさ」よりバカであること明白なブッシュのあと4年に期待?もあり。伏牀し荷風日剰少し読む。昭和十九年の夏、隣家のラジオの騒音ひどきことに悩む荷風先生、いっそのこと米軍空襲をと祈る。勿論期待するは米軍空襲への危惧で隣家が疎開でもしてくれれば、といふことで自家も含め一帯が焦土と化すことまでは期待しておらぬが。
▼今月に入り在港のテレビ局で晩のニュース番組の前に「心繋家國」なる香港政府製作の愛国プロモーションビデオ流がし国歌演奏で祖国の限りない発展褒える。余の納めた税金もその製作に用いられたかと思うと嬉しいかぎり。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/