富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

十月五日(火)快晴。信報で劉健威氏が「冷飯」といふ題で「まったく!この二日続けてつまらない映画を見てしまった」といふ書き出しで“La mala Educacion”と合わせて王家衛の「2046」をば酷評。前者については観客を引き込みこそせぬもののまだ独特の色彩など美的感覚ありとしつつも後者については全く評価する点なし、と余が見たかぎり王家衛に甘い香港で「化学調味料たっぷりかかった冷や飯」と最も辛辣な王家衛批評。「2046」といふタイトルからして97年返還から半世紀といふ政治的暗喩に何の意味もなし。「阿飛正傳」から「花様年華」と炒完炒再で同じ話が延々と続き「没有脚的鳥」がどうしただの愛情の記憶は山深き果樹を探す如しだの、最初は新鮮な話も二度三度と繰り返されてはウンザリするばかり。話の筋も感情も単調なこれに撮影で数年費やしたのは映画界の笑い話だが、笑っておれぬのはプロモーターで聞くところではこの制作にかかわった日本人は惨澹たる状況に涙を流して泣いたとか。結局、豪華スターを並べただけでその化学調味料王家衛といふ冷や飯にふりかけてあるようなもの、と。御意。早晩に香港大学博物館のA君と親しいT女史とハッピーヴァレイのジョッキー倶楽部のクラブハウスにて会いカフェで来月の旅行の打合せ。格式高きはずのジョッキー倶楽部もクラブハウス市口で見ておれば下品かつ野暮なメンバー多くカジュアルとはいへ服装も品もなし。遊技施設などあり子供多きことも保育所の如し。タクシーで北角。寿司加藤。一ヶ月以上ご無沙汰で体調のことや歯の治療のことなど店忙しくなる前のご主人と話す。トレイル一緒するメンバーで集い打合せといいつつ酒盛り。終わってO君、I君とCity Garden Hotelの地下の酒場に一飲。
▼経済学の奇才といってもシカゴ派経済学で香港でフリードマンを紹介したのが功績といふ点ではポランニーでの栗本慎一郎と奇才といふ点では似ており但し国会議員に身を落とさずは評価もされようがなかなか奇抜な書家としても評判で骨董などの道楽が嵩じてシアトルだかに開業せし骨董品屋が偽物売りだの脱税で米国当局の捜査受け本人も参考人として出頭すべきところ香港から米国に戻らず今は中国国内で隠遁中といふ噂のある張五常君(元香港大学経済学部長)が蘋果日報で「五十五年有感」といふ論説あり。張教授の水晶球に見える将来は中国の経済発展はあと十八年で米国に追いつくそうで中国の現在の経済発展は七十年代の日本をも陵駕する勢い。現在の中国は当時の日本を十個合わせたほど、と絶賛。珠江デルタの経済成長が全国に普及すれば十二年で到達可能の。これぢゃ竹村健一(笑)。この中国の高度成長支える要因として張教授が指摘するのは毛沢東の政策のいくつか。まず人民の「上山下郷」(これは文革での強制労働など含んでだが)で全国的に移住が進み隣村でも言葉通じぬといわれた中国で普通話普及し意志の疎通が可能となったこと。そして大学進学、とくに理工系の技術部門で高等教育が普及していること。三つ目が住民登録制度の完備で治安維持が図られていること、と。単なる保守派を超え状況に合わせ何でも理屈に合致させられる点は確かに奇才か。

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