富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

九月廿四日(金)晴れのち曇り。養和病院の歯科にて先週の切開箇所抜糸。見事なる技巧にて治癒に導かれたL医師に改めて深謝。晩に自宅にて珍しく鶏腿肉をば僅か一匙の油でソテー焼しソースは一瞬牛酪ソースらしく見えるがヨーグルトソースといたって低カロリー。葡萄酒をグラスに一杯。腹七分目ほどの食事で一切間食せず酒も殆ど飲まねば今月だけで8磅の減量も易し。ビデオにて「はねるのとびら」なるお笑い番組見てもせっかく展開追っても最後のオチの台詞が聞き取れず何が可笑しかったのかわからず。最近のお笑い芸人の早口な台詞が聞こえぬのは余の老いの所為か芸人の口跡の悪さか。
江沢民君辞任問題報道の先駆となり積極的に報道続けたる紐育タイムズ北京支局の助手・趙岩氏が国家機密漏洩のカドで当局に逮捕される。何も言うことなし。事実が真実語るばかり。
▼久々に新宿のL君より同性愛專門誌『薔薇族』廢刊とメールあり(朝日)。三十三年間も男色雜誌の草分け的存在として刊行されたその世界の『文藝春秋』か『世界』か。廃刊は「不況で廣告收入が激減」「同樣の專門誌が次々と刊行され」「インターネットが普及」など樣々な要因ありとか。それにしても朝日の記事の「大學教授や法曹關係者などもをり」が「だから何なのだ?」であるし「作家の故寺山修司も寄稿してゐた」でどうなのだ?だが。その道に詳しきL君は十六歳の夏にこの雜誌をば故郷の地方都市の大きな本屋で見かけ恥づかしくて誰に見られてゐるかと恐れ、町外れの小さな本屋、L君の喩えは情景目に浮かぶが、京大文學部出のインテリは入社せし大手會社で組合活動などでパージされ解雇處分で故郷に戻り地元の女子校の国語教師となるが肺を疾み友人らが出資に協力し生活のためと小さな本屋開き、賣上げ稼ぎは何といつてもエロ本の類ひ。店の半分はそのテの本と漫画本だの並ぶが書棚の一角には高橋和己だの左翼系哲學書だの買ひ取りで返品きかず赤茶けた背表紙のゾラなどの岩波文庫が並び、白髮の老店主と若い頃には「こんな筈ぢやなかつた」奧さんが店番……の本屋に自轉車止めて店に入り『小説實話』だの『スパイナー』などゝ一緒に並ぶ『薔薇族』を手にとつて俯いてレジでカネを拂ひ自宅まで我慢できずにセミが鳴く近所の八幡神社の境内の林のなかでひつそりと汗を流して讀んだ、と。橋本治の物語の如し。この雑誌には同じ世代の同趣の輩の投稿などあり、L君も夏期講習で上京し新宿の花街仲之町に足を踏み込み、その新宿にL君早幾年と感慨深し。
▼根来コミッショナーの後任について。こういった人事に前任者の如き資質惑わしき方ばかり天下り法曹界といっても検察高官など体制派に対するご褒美人事。たまには護憲派の権威ある憲法学者でも起用しては如何か。築地のH君に長嶋コミッショナーといふような話ありやなきやと問えば長嶋コミッショナーでなら誰も文句言えず『プレジデント』誌的に言えば経営者としてのビジョンと情熱と実行力ある星野チェアマンが自由に大鉈振るふといふ噂もあったそうで星野コミッショナーでは必ず足を引っ張られるので長嶋といふ天皇が必要だった、と。長嶋茂雄が監督でオリンピックで金メダル獲りプロ野球コミッショナーといふのが最も理想的だったのかも知れぬがその長嶋が倒れたといふのは実に時代の象徴的出来事。長嶋なら万事が上手くゆく、だが、それはつまりは長嶋に頼ってしまって全て乗り越える、シンガポールのリークワンユー首相での成功と同じこと。先の大戦での敗戦も先帝をば頂き実際には米国に頼る図式の戦後日本、何も意識変革も市民革命も経ぬまま、で様々な問題をば抱えた今日に至るのと同じこと。それゆへ長嶋に頼れぬようになったことの意義を痛切に理解すべき。
▼仙台にプロ球団設立か。仙台出身のH君はチーム名は「仙台ドアーズ」でドアーズのキーボード奏者レイ・マンザレクを球場専属オルガン奏者にして、チャンスの度に「ハートに火をつけて」のイントロを弾きまくる、といふイメージ。間違っても「青葉城恋唄」だけはやめてもらいたいが。
▼読売新聞の今朝の社説(こちら)。NPB側にも、選手に理解を求めたりファンにアピールする努力が足りなかったことは否めない」とまるで他人事(嗤)。築地のH君、かつて小泉三世が外務省の汚職田中真紀子と官僚のケンカでゴタゴタせし時「総理は何か他人事のようで積極的でない、との批判もありますが?」と記者に問われ「そんなことはありませんよ。わが事のように考えてます」と答えしこと彷彿させる愚者の答弁。社説で「今回の労使交渉は、球界関係者やファンだけでなく、ふだん野球にあまり関心を示さない人たちの注目も集めた」は余を含め事実だが(笑)。で最後に「この間のもやもやを吹き飛ばすような面白い試合、はつらつとした選手のプレーを見せてほしい」と結ぶが選手がはつらつとしたプレー見せられぬような状況作ったのは誰か。

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