富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

八月廿七日(金)雨。夏風邪で朝、近所のC意思の診断請ふ。軽いインフルエンザだそうな。早晩にジムに寄ろうとすれば銅鑼灣にてB君に遭ひ時代広場近くの日式喫茶にて暫し款談。中環。FCCのバーでドライマティーニ飲みZ嬢待ち新聞読み。Z嬢とFCCの主餐庁にて晩餐。Z嬢着てきたニットの服が初めて見た気もしつつ愚問発せば「このまえ買ったじゃない、一緒に」などと顰蹙かう恐れあり余計な一言禁物と思いつつ話題に触れぬわけにもいかず「似合うよね」と無難に言えば何とZ嬢の母親が四十年前に注えたニットの上下の上身だそうで、ニットといえばメルローズの横森美奈子女史も好きそうなデザイン、Z嬢七月に帰省のおりに母に譲られたと。服飾といふもの半世紀近き前のものがモダンに見えるから興味深し。ニットといへば今にして思えば十五年ほど前に東京でお気に入りであったメンズメルローズの黄色のニットのカーディガンも横森さんの落ち着いたタッチであったと、なぜそれが記憶あるかといえばその当時にZ嬢と浅草より東武特急電車で日光に遊び金谷ホテルに逗留の際の写真残るため。ところでこのFCCの主餐庁、壁に過去の一大事の新聞が掲げられるが越南戦争などと並び見出しに“JAPS ATTACK US”といふ真珠湾攻撃の際の新聞もあり、Z嬢は初めてみた時に「日本が我々を攻撃」と読んでしまったと笑ふが、これがこのFCCで前回は横田淳総領事(現イスラエル大使)が講演の折もその場に掲げられ、誰も注意せぬことが不思議。グラスで三鞭酒一杯。豪州のShaw & Smithの03年の白葡萄酒。ミディアムドライでかなり芳香豊かだが飲み口は甜からず美味。食事は鴨肝と黄茸、メインディッシュは本日豪州より届いたといふロブスターのグリルと温野菜。
週刊読書人の連載楽しんだ詩人桝野浩一のが最終回となる。犬漫画『ロダンのココロ』の内田かずひろ氏の個展に益田ミリ女史と訪れ会食した桝野氏「相変わらず」話題は離婚した元妻のこととなり益田に「元妻ネタはもう飽た」と言われ内田にも「週刊朝日の連載も元妻ネタは捨てて出直したほうがいい」と提言された詩人桝野。だがこの回の内容もこの話から始まりリリーフランキーも絡み(って桝野氏が勝手に被害妄想?なのだが)やはり元妻の話題に終始する。朝日新聞から発売の格言絵本と映画コラム短歌集『もう頬づえをついてもいいですか?』が全然売れなければ転職を考える、と桝野氏。どこかこの元妻や愛をこれでもかと語らざるを得ぬ平成のもの悲しさに惹かれる。
▼東京ファシス都の台東地区中高一貫6年制学校(こちら)が扶桑社とつくる会の歴史教科書の採用決定の快挙(朝日)。この学校、都立白鴎高校の附属中学で、日本の伝統文化の教育に力を入れるそうだが、この教科書採用決定した東京都の教育委員とこの学校に大きく関わる「日本の伝統文化に関する教育推進会議」に米長邦雄が兼任するなどもはや石原都政の唯我独尊甚だしく、何が伝統文化の教育か知らぬが、せいぜい三浦朱門の小説が読める程度の日本語と将棋が上手くなる程度の成果でもあろうか。この「つくる会」の教科書採択はまず養護学校がそれに利用され(まさに教科書採択の事実得るためだけに、また偏向左翼教師多きゆえの養護学校の政治的利用)そしてこのたびの正規採用。この一貫校でも出て大学は当然、首都大学東京で学び(首都大学東京ってもし首都移転になった場合どうするのだろうか、あっ、その場合を見越しての東京首都大学でなく首都大学東京か、これなら首都大学の東京校ですと言い張れる)、成績優秀なら松下政経塾、また将来の東京を背負って立つ気概あれば東京未来塾、教育を憂ふなら東京教師養成塾へと進路も充実。これからますます将来が不透明な時代にきっと就職まで右翼ファッショ社会が面倒見てくれるのであろう。めでたしめだたし。……で当然、産経新聞は築地のH君も「さぞや驚喜し鼻高々と思いきや」今日の紙面いたって地味で一面の右下4段の扱いで社会面にも詳報なし。勿論「主張」も「産経抄」も沈黙。産経愛読のH君は「前回大騒ぎを煽ったあげくに混乱を嫌った教委の腰が引け全国で惨敗した反省をかなり厳しく徹底している」のか(笑)と。ところで最近、取上げもせぬが産経抄はH君によれば昨日も直接教科書に言及しないものの「国にはそれぞれ固有の歴史認識がある」から共識など無理と主張(こちら)。それでいて中国の反日教育だのサッカー試合のうんぬんを文句言うのだから我が儘もここまでくるとお見事。讀賣新聞の記事(こちら)では「採択時には大きな議論を巻き起こす「つくる会」の歴史教科書だが、すでに使用している愛媛県の学校現場で目立った混乱は生じていない」としているが、爆弾ぢゃあるまいし使ったから直接の事故が起きる筈もなし。問題は、この自虐史観のアンチテーゼといふ精神的支柱(この我が国を誇らねば立脚せぬ精神こそ自虐だが)などで教育がなされた結果どのような将来があるのかといふこと。この教科書用いる中高一貫愛媛県立松山西中(PTA会長が自民党の戒能潤之介県議、関谷勝嗣参院議員の直系と、「なるほど」といふ感じだが)は「生徒、保護者、教師からの苦情はない」というが実際には「副教材も使い、多角的に歴史を見るようにして」「第2次世界大戦の部分は(教師が)他の教科書も参考にするなど、気をつかっている」と説明。それではこの反動教科書使う意味なし(笑)。私立の岡山理大付属中(この学校法人の拡張興味深し)の教頭は「教師はどの教科書を使っても、それをどう料理するかが大事」と強調、つくる会の教科書が大東亜戦争という表現を使っていることについて「その呼び名を使う人と反対する人がいる。平面的な歴史教育ではなく、生徒にいろいろなことを考えさせることができる」と評価する……と讀賣は書くが、これもその「つくる会」の教科書の使用が強制された環境での苦し紛れの答弁としか思えず。讀賣の記事、この教科書でも問題ないこと説明したようで実はどれだけ現場が苦労しているかを吐露、とお粗末なのか、ナベツネ王政以前のかつての栄光の讀賣社会部の意地か。いずれにせよ、H君が見つけたお受験掲示板では、この教科書採用の学校では大学受験に影響ありといふ現実的な点で不評。これで結局、いくら教育行政肝煎りの一貫校だの基軸校がこの教科書採用しても、とくに常識的な私学では採用見込まれず、そのメジャー私学中心に受験社会が形成されていると思うと、今後もこの教科書普及に難しいところもあろうか。
▼台湾がオリムピックで初めての金メダル。テコンドーでそれも二つ。中華台北オリンピック旗があがり国歌の代わりに掲旗歌なるものが流れる。中国政府にしてみれば政変白日旗があがり「三民主義」の国歌流れるなら、中国の得た金メダルのうち2つ返上してでも台湾の金メダルは「なかったことに」とか言いそうだが、この中華台北の扱いなら中国にとっては卓球での香港の銀メダルと一緒に内心、金+2、銀+1で「全部、中国」と計算しているのだろうが。
▼中国といへば共産主義標榜しつつ拝金主義の横暴ひどく先日読んだ新聞記事では大学入学にあたり統一試験の費用、たしか六十元だったか、が払えぬ学生の家庭あり、この額がじつはその貧困なる農村の家庭の年収に当たる、でそればかりかその学生の学ぶ高校で担任が教室で他の学生の前でこの試験費用払えぬなら大学進学は無理と説明し、この学生は大学に学ぶ夢が破れ鉄道に投身自殺。また西安の財経大学では大学の施設費教材費などある学生が三万元学校に債務あり、これを払えぬこと息子に申し訳なしと苦にして親が自殺。特色ある社会主義などと間違っても言えぬ資本拝金主義の横行ぶり。
石原慎太郎の特攻隊で死んだ彼らが「今の日本のあり樣を見たらどう思ふだらうか」といふ問いに築地のH君は「60年たってもなお米国の属国の地位に甘んじているのは、戦争に負けたおかげだ。やはり戦争には勝たねばならない。なぜ自分らのあとに最後の一兵まで闘わなかったのか」といふ気負いか、でなければ「戦争が済んだといってここまで米国のご機嫌取りをするくらいなら最初から戦争しないでご機嫌取りしてりゃよかったぢゃないか」のいずれではなかろうか、と。後者でなかろうか。
▼昨年のSARS疫禍にて対応の拙さから責任問題指摘された医院管理局の専業及公共事務総監(当時)の要職にあった高永文医師(現・専業事務及人力資源総監)が管理局との契約更新せず今年末をもって離任。事実上、疫禍での責任とる形。で後任者が同局の副総監の昇格なのだが、この御仁、四年前に書籍万引き、それを見つけられ店員を突き倒し検挙されたが司法医師が本人の精神失調での万引き行為で本人に行為責任求められずといふ診断をしたことで律政司がお得意の(笑)不起訴の決定で現在に至る。本屋での万引きと、そればかりか店員押し倒しても政府高官となると重圧での精神失調で刑事責任不問とは……。そのようなナイーブな方がこの疫禍あらば陣頭指揮求められ何か失態あらば矢面に立たされる要職に就けるのだろうか、と素直な疑問。

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