富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七月廿六日(月)天后の拉麺屋・小樽に食す。中環の札幌が主で系列でこの小樽と太古城に函館あり。北角の札幌は別の店。早晩にFCC。この時間はバーの止まり木にRTHKやらSCMPの顔の如き記者や書き手多し。昨日トレイル一緒したO君を招飲。灣仔のProtrekにO君のトレイル用品購入に同行す。O君と酒処Z(笑)。Z嬢慌ててといふわりには金平牛蒡、山芋に韮玉と肴もあり手作りの牛丼。酒は雲海酒造の蕎麦焼酎花押雲海。美味いねぇ。O君と音響の話となり実は今どきLPも聴けるのですぞとかなり久々にLP聴く。コルトレーンが四十歳で他界していること。Z嬢の所有するLPでクララ=ハスキルシューマン「子どもの情景」。
▼ある事件の捜査に絡み廿四日にICAC(廉政公署)が新聞社六社だかを強制調査し新聞テレビその報道賑わふ。この事件ぢたいは電子部品メーカーだかの汚職だが、警察が関係者逮捕し事件に関わる証人として拘束中のところメーカー側の弁護士がこの逮捕を「警察による不法拘束」と主張し、それを新聞各紙が伝えたことに対して「証人保護条例」をタテに新聞社の一斉捜査行ったもの。この条例によるとICACが証人とした者の個人情報が秘匿されるものでこれを公開した場合には刑事罰。この条例、政府絡みの汚職贈賄取締りのためにICACに密告したり証人となった場合に身の安全すら保障されぬケース想定し、その協力者の安全のために情報秘匿され場合によっては香港IDの番号や氏名の変更、海外への移住すら取り計らうもの。今回の場合は調査対象となった会社側の弁護士からの不法拘束の訴えであり、それの報道での強制捜査。新聞社が何処からこの証人に関する情報を得たかが調査目的とされるがこのメーカーも弁護士も特定されている(笑)。といふわけでICACのこの手法に対して新聞報道の自由が犯されたと新聞社側一斉に反発。ICACが政府絡みなど巨きな汚職犯罪摘発のための組織のために、而も警察が汚職贈賄の温床であった七十年代に当時のMaclehose総督の肝煎りにて警察すら調査対象とするべく香港政庁にあってIndependent Commission Against Corruption=汚職取締独立委員会とされたわけで、広大な調査権力が与えられる代わりに一切の政治的圧力など受けぬよに総督(現在は行政長官)直属の独立組織。廿六日の信報社説がこの一斉捜査を痛快に論破。ICAC側は「この調査にあたり律政司の批准を受けた」ことを強調し証人保護条例の十七条に基づく正当な調査とするが、問題はICACの職務権限定める廉政公署条例五条においてでICACの独立性を鑑みこの組織が行政長官に直属し行政長官以外の一切の干渉を受けぬことが定められており、今回の調査で律政司の批准だの検察の事件捜査のためにICACが動くことの大きな矛盾あり。ICACがここ数年にて完全に警察検察の補完組織と成り果てたが事実。Maclehose総督も草葉の陰で歎いておられよう。
▼築地のH君より関容子著『海老蔵 そして團十郎文藝春秋社がなかなか面白い、と報せあり。勝手に新之助君の海老蔵襲名のタイミング本とタカをくくっていたがという本、十一代目と我童との物語などもあり、これについて我童邸訪れたことある十二代目本人の回顧もありとか。H君からの又聞きだが、我童の父・十一代目仁左右衛門食い物の恨みで弟子に惨殺されたその家は柱に刀傷だとか血痕だとかがそのまま残っている古屋にて、其処に老女形の一人暮らし。そこを訪れた十二代目に「よく来てくれたわねえ」と微笑む我童。それを「オヤジとはいろいろあった方ですから(笑)」とかさりげなく語る十二代目の人柄もまた好し。新之助君の隠し子「騒動」の時の立派な振る舞いといい十二代目現在病気療養中のところこの人は人柄からして芸以上に俳優協会の長であるとか望まれるところ。ところで十一代目と我童について。余は幼き頃に祖母からこの話など聞いたこと思い出す。七、八歳の子ども相手に祖母も十一代目がいかに端正であったとか、よくぞ話して聞かせたもの。その本の話に戻れば、十一代目の結前に赤坂だかの家で十一代目は我童と一時同居、それも階下には「女中」である千代さんと十一代目、二階に我童といふ暮らしぶり。詳しくはいずれ本書を。
▼都立高の卒業式にて「国歌」斉唱時の保護者の起立状況についてまで卒業式「監視」の職員より都教育委員会に報告あり(こちら)。都教委は担当職員の判断で集めた情報だろうが保護者の動向を知る必要はなく、その方針もなし、と説明。かりに教委の説明が正しいとすると国旗国歌徹底といふ都下の教育の風潮の中で自らの判断でここまでしてしまふ職員のこの発想の怖さ。「ついでに調べておいたほうが何かの時にいいだろう」といふ発想にはこの「調査」ぢたい憲法の保障する思想信条の自由にまで牴触する行為かどうかなどといふ発想など微塵もなし。一木一草にまで宿る無節操。国歌といへば昨日の朝日新聞に創造的君が代論で注目される(笑)若林啓文論説主幹の「風考計」の連載あり。イラク問題を例に社説の論調を決める決定がいかに苦渋に満ちたものか、を述べる。社説ならその厳しい判断の結果であることなど読者承知のはずで、いちいちその手の内を見せられても楽屋オチの如く、結局はイラクならイラクについて朝日の社説が何故に中途半端になったか、の弁明のように読めるばかり。

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