富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七月八日(木)曇。Happy Valleyの正斗に食す。曾て大椀粥といふ高級粥屋として開業し正斗に經營變はりたる頃迄觀光バスで日本人乘りつける程の人氣。其れも今では物語と化す。粥の値段もバブルの頃に比べ多少安くなりぬ。豬潤魚片粥。此の店の豬潤(豚レバー)質の良さは格別。松山の未だ不見の畏友S君バッハのチェロ無伴奏組曲をAnner Bylsmaにて愛聽と知り餘曾て帝都に在りし頃に何度か聽き改めてCD取り寄せて聽く。此の組曲まづは定石にてカザルスより入り今では六、七人のチェリストのCD有する余も多少は此の組曲語るも能ふやも知れぬがビルスマのチェロは打樂器の如し。彼れの生と死の境に在つて魂入る演奏はマイスキーの流るゝ如き技巧に對しチェロが打樂器=魂の鼓動をば神に傳へる道具の音の如く聞こへる。荷風先生日剩讀む。昭和十六年十二月日米開戰。
▼久が原のT君より亂歩先生の書庫一般公開せらるゝと報せあり(此方)。T君に曾て聞きしは此の土藏での祕話、然る高名なる方幼少の頃に縁在り亂歩先生に招かれ屋敷訪れたる時の乱歩先生による椿事の囘顧談で、其の祕めた場所たる此の書庫が解放せらるゝはT君の言ふ「畸人偉人地を拂ひて變人小人計りの今の世」では書庫の有す魅惑の「氣」が氣拔け。本來なら封印でもすべき處。加之此の一般公開此の夏池袋東武百貨店にて「江戸川亂歩と大衆の20世紀展」といふ展示會あり其の特別會場たる公開ださうでデパートでの買ひ物ついでの客此の書庫に足踏み入るゝかと思ふとぞつとなす計りなり。
▼昨日の政府衞生局長楊君の辭任に續き醫院管理局首席梁智鴻君もSARS引責にて辭任。

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