富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

農歴五月初一。夕方驟雨。ジム。Z嬢と尖沙咀に待ち合せ寿司亭なる回転寿司に食を済ませ香港文化中心にてDaniel楊春江君の舞踏「形亡極樂」観る。二年前に哥仔戯なる舞台演じた折の楊君はまだ現世にて踊っていたが今回二年を経て(宣伝用の写真(右→)はまるで今様の青年ながら)今晩開場となり客席に入れば舞台には全裸に半透明のビニール質の衣装といふのだろうか(ちなみに衣装設計は余の旧知のSilvio Chan君)被って立っている姿は剃髪にすっかり身体の贅肉削ぎ落され禅宗の仏像の如し。顔の形相まるで別人。踊り始めれば瘠せても見事な筋肉に躍動感あり思考ならも一切の余計なるもの落ちて楊君が舞踏の中ですでに解脱の域にと達せしこと感じ入る。見事。最後宙乗りにて昇天する姿はもはや極楽浄土。偶然にも今日の朝日衛星版に舞踏で横浜で大野一雄先生のフェスティバル開催の記事あり。五十年代にモダンダンスしていた頃の大野先生の珍しき非常に可愛らしき写真あり。余の書斎には大野先生来港の折に頂いた「ラ・アルヘンチーナ頌」の写真あり(写真)、見上げる。楊春江君の舞踏見終り香港島に渡るスターフェリーで客席の片隅にひっそりと隠れた一人用の席を発見(写真)。誰がこんな隅に坐ろうか。なにか「ちょっと事情ありそうな」味わいのある席。帰宅してキース=ジャレットのケルンコンサート聞きGlenmorangieの1975年のモルト飲む。この年、先々代の三津五郎が河豚にあたり亡くなり北の湖全盛のなか貴ノ花悲願の優勝、広島赤ヘル、沖縄海洋博からもう三十年。朝日に夕陽妄語加藤周一先生「また9条」と現行憲法とこの9条の大切さ、いかにこれが歴史的使命果してきて今後も指標となるかを説く。この昭和代表する碩学の言葉を若き誰もが聞かず。
▼昨年の七月一日のデモに「何十万人がデモで反対しようと二十三条立法はできる」と豪語せし親中派にて香港政府御用政党の民建連の前・主席曾玉成君、あれから一年、民建連の区議選での惨敗で党主席辞任、昨日のシンポジウムにて北京中央による07年の行政長官、08年の立法会選挙での普通選挙実施の否決が9月の立法会選挙では民建連が取込むべき中間票民主派に流れコアな支持層の票は急進的親中政党に流れ結局民建連が追い遣られる結果になる、と心情をば吐露。昨年の七月朔日以来来港の中央政府関係者に香港での普通選挙実施の必要性説いたが聞入られず、と。曾君に一年前の不貞不貞しさの影もなく悲壮感。諸行無常
▼低視聴率が懸念されるNHK来年の大河ドラマ義経」。今年の「新撰組!」の惨澹たる状況でのテコ入れにて渡哲也先生と松坂慶子先生の大物起用でアトはヒロイン役だけが暗礁に乗り上げていると「言われている」がヒロインはすでに石原さとみ嬢に決定してる、と東都の事情通某君より。石原嬢といへば熱心な創価学会の信者だそうで主演の滝沢君も創価学会といふ噂もあり。興味深きことは原作者宮尾登美子先生の「強い要望」によって俳優・小泉孝太郎君、まだ芸能界にいたのか……といふのが素直な感想だが、が平某役でレギュラー獲得。父上が宮尾先生の携帯に自ら電話を入れてお礼を申し述べたという往年の『噂の真相』の如き風説もあり。これがもし本当なら来年の大河は強力な自公体制。これこそ政界のまさに大河ドラマ。ある程度の視聴率も期待。自公となると脚本のノリは「国を愛する」がゆへに国を変えるために若い命を捧げ大志叶うことなく死んでゆく「海ゆかば」の如き義経。興味深し。義経海ゆかば、なら日本海をば大陸に渡ったといふ義経神話にもつながるか。
▼一昨日の晩に奇妙な事件あり。香港島の市街西に皇后大道を向かえばKennedy Townにて道は名を皇后よりヴィクトリア道と変え島西端の海と山に挾まれし辺りを小高いデイヴィス山を仰ぎ行けば道の左右には豪邸だの閑静なる高級マンションが緑に点在す。そのマンションの住人窓より眺むれば道路に一台の車が止まり男が四、五人あり不審に思い警察に通報。警察駆けつけ七人の男の身元調べれば中国の公安(笑)。何を偵察に来たのか警察がひとまず同行願ふも高度な政治的判断かで釈放。それにしても住民に通報されちまふくらい目立つのぢゃいけない。ところでこのマウント・デイヴィス道界隈政治的に奇しき場所にて豪邸の廃屋多く、その一つに「白屋」と呼ばれる白壁の屋敷あり。かつての英国軍倶楽部ハウスにて六十年代には警察の政治部が総部として徴用し反英暴動の折は政治犯留置させ取り調べ。再び廃屋となるが今また警察の反テロ対策及び内部保安組が徴用し総部とする計画もあるとか。

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