富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

六月十二日(土)曇。競馬の予想済ませ昼まで裏山久々に走る。雨期ながら雨降らず日本に早々と台風上陸、気温は摂氏三十度といふが風も肌に涼しく北京は三十九度。昼に尖沙咀のレインクロフォード百貨店にてTUMIの行李の直し受領。ジム。午後に九龍にて毎週の薮用済ませ早晩に帰宅途中に恵比寿麦酒購はむとジャスコに寄れば父親節にいつも以上の混みやふ。消費ばかりの世の中。午後よりよく晴れる。帰宅して黄昏に枝豆で恵比寿麦酒二本飲む。競馬の結果見れば惨澹たる結果。NHK特集にて曹洞宗永平寺の七十八世貫首宮崎奕保禅師の番組あり。齢百四。テレビカメラに向い「見悪いところ撮るなよ」と永平寺の禅師ともなるとコメントだけとれば住吉の組長と変りなし。それが道を極めるといふこと。この番組で聞き手として立花和平の起用は果して必要かどうか。禅師十一歳より九十三年間毎朝晩と座禅。立派な方であることはわかるが禅師のお出ましに際し永平寺の坊主が禅師が「お出ましになられますから合掌でもってお迎えください」と僧堂にて信者に告げるを聞き余は皇族に対してに始り松竹の永山君に至るまで身内が身内の長に敬語使ふことの不快感感じ入る。この敬語が使われるようになると中国共産党的な覇権の世界に陥り本来の極道の真理より乖離。寺に修行する雲水らの姿見て、恰度余が苫屋の居間には「行雲遊水」といふ掛軸があり余も気持入替え座禅として番組眺めたが、雲水らの奇妙なる僧堂での動きの為草に本木君の映画「ファンシィダンス」思い出し笑ってしまひ、この寺の世界と宝塚だのジャニーズ事務所と何が違ふのか、と思ったら、NHKも節操なくこの番組に続けてジャニーズジュニアの少年倶楽部とかいふ番組流れ、座禅どころの気分に非ず。十一で永平寺に修行に入るのと十一で越後獅子の如く「やぁやぁやあ」とかいふ四人組で音曲に勤しむと何がどう違ふのか余にはわからず。週刊読書人読む。角川書店刊行のダン・ブラウン著『ダ・ヴィンチ・コード』なる新刊書の提灯評論ありと思えばその頁の下に五段抜きで同社のこの本の広告。大西巨人氏の鎌田哲哉相手の対談は三十九回目に及び一切編集せぬ一字一句漏さぬ内容はさすがにうんざり。連載五十八回目迎えた「執筆と編集のためのパソコン技法」も「こんなの読まないと文章も打てぬのなら電脳を使わぬでよし、これを読んで理解できるのなら読む必要もなし」。呆れるほど。一年以上購読したが購読中止近し。平凡パンチからHanakoまで編集長務めた椎根和氏の「平凡パンチ三島由紀夫」なる新連載は一瞬これは面白いかと思ったが初回から三島について「洗練されたコロニアル式の白亜の家を建て、有名画家の娘と結婚し、二児の父であり、日本人で最初にサイケ・クラブで踊り、ボディビル、ボクシング、剣道の有段者、そして見事な胸毛と筋肉で、男性ヌード第一号の誉れを得て、ジェット戦闘機で超音速飛行体験をし、マッハGバッチをさずけられ、パーティの招待状にはティファニーの便せん封筒を使い、大金を投じて私設軍隊をつくり、本業の小説のほうではベストセラーから純文学まで書きあげ、日本人作家初のノーベル賞候補といわれ」「さらにやくざ映画に主演して話題をよび、映画の製作もし、せっせと世界中を旅行し」「このような破天荒な行動をした日本人は、歴史上、三島由紀夫ひとりである」といふステレオタイプな記載にうんざり。あの馬込の家のどこが洗練されているのか。二児の父といふのは「男色家でありながら」といふことか、「日本人で最初にサイケ・クラブで踊り」など門外漢には何のことかさっぱりわからぬが多少の好事家は三島といへば丸山明宏(美輪先生)と出遇った銀座のカフェバーだの四谷にあったといふ某酒場だので、サイケといわれると昔の「サザエ」だの今の若い人は知らぬ店を髣髴。三島先生の胸毛も筋肉も見事なのかどうかは見る人の思い入れ、三島先生が男性ヌード第一号とするが三島先生も寄稿したといふ昭和廿年代の『アドニス』誌に掲載されたヌードが先駆のはず(別冊『太陽』発禁本2参照のこと)。マッハGのバッチなど当時の東海道特急こだまの乗車記念バッチと感覚は同じ、パーティの招待状にティファニーの招待状など欧米の有名な銘柄の書状用いるなど朝香宮有栖川宮だの白州次郎だのには珍しきことに非ず白州正子が聞いたら「ふん」と一笑に付して終り程度のこと。楯の会が軍隊なのか、「ベストセラーから純文学まで」って純文学のベストセラーもあるわけで言葉の範疇は不正確、「純文学から匿名で男色小説まで」とでもするべきで……といちいち言うのもなんだが、こうしてこの僅か数行ででも三島といふ人物の必要以上の物語が構築されそれが現実と思われるのが歴史。読者ばかりか編集者まですでにポスト三島の世代であるからこうした記述に惑わされ易し。どんな連載になるのか、と興味もありつつ週刊読書人ももう購読止めようか、といふ気分。岩波の『世界』にも同じような感慨あり。数日前に大江先生、加藤周一先生に小田実先生といふ岩波的なお三方が護憲の立場で憲法九条守る運動起す云々の記事が朝日だかに(って他のどの新聞にこれが載ろうか)あったが、問題は大江先生も加藤先生も小田先生もテレビの主婦相手のバラエティ番組だの、笑っていいともだの、NHKの毒にも薬にもならぬクイズ番組に出ぬから日本の大部分の人に全然影響力もないのが事実。どうせならこの三人に和田アキ子君と明石家さんま師匠でも入れば話題になろうが。
▼北京にて昨年SARS惨禍をば外国マスコミに語り天安門事件での医師として見た実情も吐露し事変の歴史的評価の見直しを公言せし蒋彦永医師六月四日を控えた二日より十日余行方不明。中共政府による身柄拘束の模様。

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