富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

四月十六日(金)曇。昼に灣仔。古い町並み残り節句祝言の贈答状の印刷屋多く風情ある利東街は政府の「再開発」計画にて存続の危機にあり通りの古い建物に横断幕掲げ解体反対。この通りの「靠得住」にて茘湾艇仔粥食す。まことに美味。北京の若き男娼ら描く映画『Ayaya、去哺乳』監督崔子恩を観たK氏に遭遇すればK氏曰く、一人の若衆の兄は経験なる基督者にて弟済おうと説得に当るが街頭で聖書を掲げ説教する兄もまた中国社会において危険視されるマイノリティ、と。晩に文化中心にてZ嬢と映画『エレファント』観る。Gus Van Sant監督。珍しく日本公開が香港より先。テレビ業社HBOの製作にてまずスクリーンのサイズに違和感あるが、その「視野の狭さ」はこの映画の主題にとって重要のはず。主人公の少年らの雰囲気も佳し。何よりもカメラの、アングルは敢て単調なのだが、覗き見的に学校を様々な角度から進入する視線と殊に絞りの美事な効用。高校での在校生による銃での殺戮事件の日の、そこに至るまでの学校の風景が淡々と描かれ諸行無常。一切の価値判断を避けた演出。殺戮に参る二人の少年が狭いシャワーを伴に浴びつつ「まだしたことのないキス」をしてみるといふシーンはいささか耽美的でもあるが死をば覚悟せし者の同志愛的でもあり。雨。Z嬢と別れ油麻地。廟街の潮州老字號(虫豪)餅にて煎蠣餅を食す。汚い店でいささか質の悪い油で炒りたるこれが客足も絶えず。CinemathequeにてBernardo Bertolucchi監督“The Dreamers”観る。六十年代の巴里。五月革命。映画好きの米国青年(Michael Pitt)が巴里の高名なる詩人の子=双生児の男女と仲良くなり詩人夫婦の留守にこの家族のマンションにて芸術的?破廉恥?なる生活の日々。あの時代の学生運動へのオマージュか、世代の自己批判か。余談ながらMichael Pitt君、女優Eva Green嬢らの全裸、而も局部大写しだの場面多く香港は当然ノーカットだが日本ではボカシだの修正にてエロさ増大か。それこそ猥褻。月本さんのサイトからの孫引きになるが吉田健一の言葉「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである」。御意。確かに世の中みんなが吉田健一であったり荷風散人であれば戦争など起きもせず(笑)。「各自の」が大切。社会だの国家の社会生活の「美化」となると運動となり政策となり惨憺たる結末ばかり。

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