富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

四月九日(金)薄曇。井落にてゲリラに三人の日本人拘束とか。じゅうぶんに予期されたこと。イスラム諸国にとって友邦たる日本は米国の側につき彼らを裏切った、とゲリラ側の主張に復す言葉もなし。自衛隊=軍でなく民間人をば捕虜とすることの効果性。朝届いた蘋果日報にもSCMP紙にもI君の首にナイフ突きつけられ隣の女性が怯える画像あり。日本の新聞にこの写真は当然の如く掲載されず。此処まで虐くされる程の怒りがあり。無惨。それを全く理解しておらぬのは例えば讀賣新聞の「国際貢献に賭ける日本の姿勢が厳しく問われている」と記事結ぶが井落派兵は国際貢献になっておらぬこと。本日。朦朧としたまま市大會堂。Denys Arcand制作の“The Barbarian Invasions”観る。ケベック舞台に時は九一一の頃。癌の末期症状にある父とその家族の物語。ロンドンにてロイド證券に活躍する息子も不承不承に父の世話にケベックに戻るが公立病院の乏しき医療環境に「資本主義的に」経営側と労組に賄賂渡し病院建物内で公的予算の削減で空いているフロアに父のため個室病室を用意。癌に苦しむ父の痛み和らげる為にとヘロインの手配。温かく父の末期を看取る家族。米国では「テロの襲撃」に右往左往しているのにこの家族には九一一など全く話題にもならず父を見守り最後は山間の湖畔の別荘にて父を囲み家族皆でマリワナ愉しみ父との最期の時間をば過ごす。話題は哲学や人類の歴史、父の回想やエロ話ばかり。九一一だの全く話題にならず。思惟深き父は人類にいかに野蛮な行為が多く人々が殺戮されたかを述べ、その愚かな人類が幾許かの知恵をもつことの意義を説く。そして最期は父の点滴にヘロイン注入し父に安楽死を授ける「愛情の」物語。何たる反米思想映画。痛快。これをブッシュ二世だの小泉三世は観ても愚鈍ゆへ理解できぬだろう。何といふことか(嗤)この映画の邦題といふより呆題は『みなさん、さようなら』……誰がこの映画にこの題をつけられるのか=配給元。劣悪。どういふ神経かレベルの低さに呆れるばかり。原題が“The Barbarian Invasions”=野蛮人の侵掠、中文題は更に具体的に「蛮夷美利堅」とシビアであるのに邦題の「みなさん、さようなら」は馬鹿丸出し。この映画が九一一(野蛮人騒ぎ)に対するアンチテーゼであることが邦題では単に癌末期の老人の逝世の話と陥るばかり。いや、この邦題は実は米国の覇権がこのまま続けば世界は滅亡という深い意味での「みなさん、さようなら」か……まさか(嗤)。昼よりタイ映画“Beautiful Boxer”観る。日本で一時話題となった女化粧してリングに上がるボクサーの半生。メジャーになる迄の描き方には美学あり。主人公をば敢えて普通に言えば平凡な美しくもなき容貌の若者の起用は正解。誰が見ても綺麗ぢゃないが最後の性転換終えての女性となった満足そうな主人公は確かに美貌。貧弱貧相なこの役者(Asanee Suwan)が実際のトレーニングで逞しくなり且つ美しくなり、と実際に変身させたのは監督Ekachai Uekrongthamの凄さ。続いて午後遅く伊蘭映画“Silence Between Two Thoughts"観る。これもやはり九一一以後のこの世の不条理と、どうにかそれを越えようとする思惟を感ず。伊蘭にて上映禁止。早晩に記者倶楽部。酒場にてドライマティーニ二杯。日剰綴る。晩に灣仔。Lockhart Rdの私家房・四姐川菜にて最近の仕事関係の方々で晩餐。前回訪れた時に比べ麻辣の効き目尋常で前回がI氏の策略にて特辣であったと憶測。H氏と蒙牛集団の牛乳「美味しすぎて怪しい」と語る。ジム。二更に『大イ老愛美麗』なる娯楽映画観る。深刻なテーマの映画作品の後に謂わば箸休め。黒社会舞台にお笑いありアクションあり。芸人のStephan馮徳倫が出演しつつ脚本と監督。最後に出品人(Producer)に名連ねるジャッキー・チェン先生が話の筋とは全く関係なく一コマ出演がいかにも香港映画。
▼台湾への帰省より戻った某姉に聞いた話。台中の市場にて老婆二人の会話聞いたら片方が相手に「なぜアタシが千五百台幣だったのにアンタは二千台幣なのよ」と不満申していたとか。何かといへば「その筋」の手配で台北に(つまり国民党の連宋支援の座り込みに)行けば宛がわれるお小遣い。手配の筋により微妙に手当に差あり。余はけして台北での座り込みが偽はりとは言わぬし亜扁当選を肯定もせぬが結局選挙といふもの米国の大統領選を例にするまでもなく欺瞞だらけ。

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