富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

四月七日(木)陰鬱なる曇。香港は牛乳が高価だが最近、蒙牛集団なる会社の製品市場に出回り味佳し。中国有数の乳製品メーカーでCMかなりキテおり印象深し。昏時記者倶楽部にて麦酒一飲し東涌線にて葵芳。葵青劇院。台湾の蔡明亮監督の映画にのみ出演続ける李康生の初監督作品『不見』観る。痴呆症の祖父と暮らす若者は学校にもいかずゲーセンと自宅でゲーム続ける。もう一人は公園で孫見失った老婆。夜中に台北の公園で祖父を捜す若者と老婆が遭遇。ここでその痴呆症の老人がこの迷子の子連れて二人でいるであろうこと察せられるが淡々とこの若者と老婆描く孤独な世界は蔡明亮(この作品のプロデューサー)以上に蔡明亮的世界。また「公演」といふ舞台も興味深し。台湾での文芸での公園は白先勇台北の新公園を舞台にして以来の重要な要素。昼は子どもが遊ぶ平和な風景と夜の公園の闇。若者役は張捷なる名で李康生が91年に蔡監督に台北の路上でスカウトされた如く今後、李康生が監督続ける場合に主人演ずること確か。楊徳昌監督の枯嶺街殺人事件でデビューした張震の稚い頃髣髴させる端正さだが張震楊徳昌監督にスカウトされ同監督の作品に出演続けたように台湾にはこの監督と若い役者の<秘蔵っ子の系譜>的なもの存在。ちなみに痴呆老人役は蔡作品にて李康生の父親役演じ続けた苗天。蔡監督の影響大きい作品だが蔡監督をば陵駕すると言っても過言に非ず。葵青劇院に洒落たカフェあり屋外の卓にてこの日剰綴る。続いてBruno Dumont監督“Twentynine Palms”観る。米国加州の荒涼たる砂漠のなかの保養地?Twentynine Palmsに旅する青年と仏語のみ解す女の子の物語。モーテルに泊まり砂漠をHummersのジープで走りながら性行と排泄、餌の如きフードをば食すこと続けるは看る者は「つまらないが平凡な結末か」「怖いもの見たさで不幸なる結末」予測するが……。これも必見。現代版のカミュの小説の如し葵芳への往復で福原直樹『黒いスイス』新潮新書読む。筆者は毎日新聞の元・瑞西の寿府(ジュネーブ)特派員にて某商社マンによる銅取引での三千億円の損失スクープした記者。永世中立と民主主義とアルプスの国・瑞西の暗澹たる部分をよく描く。
▼朝日の時々刻々で「立たない先生処分の春」と東都に於ひて卒業式入学式にて国歌斉唱(通達)に起立せぬ教師処分について報道するが「立たない先生」と些か不雅な表現ながら(笑)都知事では勃起小説で一躍注目浴びた人だと思へば「勃つ」は勇ましさの象徴にて国家斉唱に立たぬは女々しい奴か。ちなみに都教委はこの国旗国歌指導の徹底を「国際社会で尊敬されるためには」としているが開玩笑。一瞬、普遍法たる日本国憲法の前文にある「国際社会に於いて名誉ある地位」の一文彷彿するが(これとて既に小泉三世により改竄借用済み)憲法は「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」のであり平和を乱し専制と隷従を強い圧迫と偏狭に満ちた感すらある都知事の下で何をば言はむか。国際社会にて尊敬されるためには憲法に謳ふ理想に向けての邁進こそ大切、それを偏狭なる国家主義の押しつけで国旗に向かひ国歌謳へば望ましき人格形成に能ふか。この東京都の目指す理想的教育の一環が例えば東京未来塾・東京教師養成塾であり、かのやふなリトル松下政経塾の如きファッショ塾の国家再生の希望に萌へた塾生がこれからの東都の社会教育率ひやふとすると思ふと真に恐ろしさばかり。
▼昨日、先週末より中国全人代常務委による香港基本法付属文書の解釈草案の審議につき結論発表される。2007年の香港特区行政長官直接選挙について従来「07年以降の行政長官の選出方法に改正(つまり直接選挙への移行)の必要ある場合、立法会全議員の三分の二の多数で可決し、行政長官が同意し、全人代常務委に報告して批准を受けなければならない」としていたものを改正必要な場合は行政長官が全人代常務委に報告し常務委が「香港の現状と秩序維持しながら漸次進展の原則」による決定を経て香港政府を経て立法会に対して改正案を給し立法会の三分の二の賛成があり行政長官が同意した上で全人代が批准し法案を準備する」といふ事実上07年の直接選挙制限となる。ちなみにヤフーの伝える記事(こちら)は従前の選出方法をそのまま掲載し内容は全く不正確。決定は予想されたものでこのままでは中央政府の意に添わぬ行政長官の選出も予期され全人代に決定権あることを明確にしたもの。一国二制度の崩壊といふ捉え方も可だが「わかっていたこと」でもあり香港での世論やマスコミの反応は比較的穏やか。寧ろこれでこの秋の立法会選挙では民主派の有利と親中派民建聯の議席減が必至。中央政府も馬鹿ぢゃないから董建華での失敗鑑みてもっとマトモで広い支持得られる人選になろうことも明らか。実質上今回の全人代決定は董建華に対する三行半のようなもの。
▼香港、殊に九龍一帯でポストや市街の制電盤などにびっしりとペンキ描きされた「九龍皇帝」の宣文かなり御馴染み。(写真)これを半世紀描き続けてきた曾爺が「退位」(笑)と劉健威氏が連載で紹介。八十四歳の曾爺はついに足腰弱くなり老人ホーム入り。外出ままならず九龍皇帝の落書き?ももはやこれまで。ずっと「キチガイ」と見られ度重なる軽犯罪での逮捕で警察も半ば呆れていたが五六年程前に劉氏やデザイナー登β達智氏らが曾爺持ち上げてアートとして取上げ、活躍の場もそれまでの九龍一帯から香港島へと活動域広がり(それまでカネがなく香港島に渡るも躊躇、だが九龍皇帝ゆへ香港は領土外か……笑)「作品」の個展開かれファッションショーに生地として用いられ一躍芸術家の仲間入り。
▼プロテニスのマイケル・チャンといへば89年の全仏オープンにて若干17歳にて優勝し世界の脚光浴びたがその後イマイチながら息の長い活躍の中で熱心な基督者である彼が推進するは張家族基金なる団体でスポーツを通じキリストの教え広めるといふ。中国本土でも遠征の度にこの布教活動に熱心だが政府が問題とするのはマイケルさんがかつて米国の伝道師Luis Palauなる人に昵懇でこのPalauなる人の福音派キリスト教団体が中国国内では非合法。またマイケルさんが全仏優勝の89年は天安門事件の年。彼自身その優勝の原動力の一つに天安門での中国の若者の姿を挙げ、これも中国政府には面白くなきところか。

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