富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

四月六日(火)久が原のT君、昨日は東都より金毘羅歌舞伎に日帰り!だったそうで、T君も天婦羅蕎麦の「ヌキ」嫌いだそうな。入谷畦道の狂言でも直侍丑松の雪の別れに「天や玉子の拔きで飮むのも、しみつたれた話だから」とあり、とT君。だろう。早晩に記者倶楽部の酒場でステラアルトワ一飲。大利清湯南にて牛筋のカレー飯食す。香港文化中心。香港国際映画祭の開幕日。開幕上映は中国の李少紅監督『恋愛中的寶貝』Baober in Loveと当地香港より許鞍華監督で主演が趙薇とNicholas謝霆鋒の『玉観音』Jade Goddess of Mercyの二本。『恋愛中的寶貝』は北京を舞台にセンスよき若者二人の都会での重圧?描くのだそうだが余はあのテの作品がさっぱり理解できず。都市的なる雰囲気だの映像処理については中国映画も全く世界に遜色なき水準にあることだけ理解。ただ映像がビデオだのデジタル処理される場合にフィルムに比べ演出容易にて必要以上の映像効果なされることは物語の単調さと故らながら対照的に受け入れ難し。『玉観音』はこれ迄の許鞍華作品の中で余は最も好む。映画の基本の如く人気芸人の起用、味のある脇役、意外な物語展開、舞台の変化(北京と雲南は南徳の辺疆)、愛情と不条理、悲劇といった娯楽映画に必須の要素全てきちんと盛り込む。趙薇とNicholas謝の起用で両者ともけして芝居上手に非ず単なるアイドル映画かとも悲観するが物語の粗筋は此処で語らぬがメドゥサの如き宿命もつ魅惑的な女性として趙薇は数年前に「日章旗モチーフにした服」着て中国にて国民的非難浴び糞尿まで投げつけられし屈辱経て役者として大きく成長し相手役のNicholas謝も裁判の被告となる姿は当然のことながら香港での暴走運転&交通事故(身代わりの出頭と警察官への贈賄)にて実際の裁判に身を置いて前科者となった経緯あり演技に何処かそれがオーバーラップもあり。Nicholas謝の余りにヘタな北京語もどこか雲南に住まふラオスかタイ系の「その筋」の家庭の息子らしさあり。期待よりずっと楽しめる作品。帰宅して立川末広の井川先生との競馬鹿対談読む。
▼余は幼少の折から何故に芸者の名は男名であるか、といふ疑問あり。当初の疑問は東都にも名を馳せた「水戸二上り」の金太姐さんといふ三味線の達者な芸妓が新常磐家なる家にあり(昭和初期)、なぜ女の芸者で「金太」と男の名なのか?と疑い、〆吉だの勇次などと男名多きことに悩む。かつて三業組合の理事長などもした祖父や花街の事情に詳しい祖母に尋ねたかどうか記憶にないが昨晩読んだ或る本に
江戸では寶暦以來陰間が大いに流行したので、深川の藝者屋の中には之に對抗すべく、抱への藝者を陰間風に仕立て、男髷に結はせて羽織りを着せ、その名さへ、千代吉、鶴次、甚八などゝ男名を呼ばせて男娼の向うを張つた。これが期限となつて、一般に藝者は男名を附することゝなつて、遂に今日に及んでゐる。
と大正十三年の田中香涯なる病理学者の遺稿集より。なるほどゝ合点。まさか陰間への対抗だったとは。

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